日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2025年5月28日(水) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、竹内 望(千葉大学)、座長:SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)

14:15 〜 14:30

[HTT16-15] 人新世における東アジア地域の氾濫原の堆積環境:Pb-210法で探る自然・社会条件の影響

*田代 喬1陀安 一郎2、郝 愛民3、井芹 寧3 (1.東海国立大学機構名古屋大学、2.人間文化研究機構総合地球環境学研究所、3.温州大学)

キーワード:堆積環境、氾濫原、鉛-210年代測定法、人新世

氾濫原は、人新世において初めて人類が大きく改変してきた景観である。特に、その温暖・湿潤な気候のため、洪水氾濫とともに歩んできたモンスーンアジア地域にあって、大河川の氾濫原が高度に利用され始めたのは、近代以降の過去百年程度と目される。その観点からみるに、氾濫原は人新世における環境改変において象徴的な社会―生態システムと言えよう。本研究は、河川と共生し始めた人新世の氾濫原地域における社会―生態システムに着目し、東アジア地域の大河川水系に残された池状水域の調査から、過去百年程度にわたる自然・社会条件の変化が堆積環境にもたらした影響を明らかにすることを目的とする。
調査地として、長江水系のデルタ地帯に位置する太湖の南岸地域(浙江省湖州市)、瓯江水系の氾濫平野にあって近年修復された三垟湿地内の水路(浙江省温州市)、木曽川水系の氾濫平野を流れる津屋川に連なる池状水域(岐阜県海津市)を対象とした。各調査水域では代表地点にて,柱状採泥器(佐竹式コアーサンプラー,離合社)により50 cm長(5.4 cm径)の底泥コアを採取した.持ち帰った柱状試料は一定層厚に切り分け,湿潤密度・乾燥かさ密度を計測した後,すり潰した乾燥検体に対しZH instruments社製SM-30により微弱な外部磁場をかけて帯磁率を計測し,底質調査方法(環境省)による強熱減量試験とICP-MS(Agilent 7700x)による金属類分析を行うとともに,鉛-210年代決定法を適用した.すなわち,ポリスチレン製のバイアル瓶内に一定高さで最密充填した後(粒子から放出される気体222Rnとその壊変で生じる214Pb,210Pbとが放射平衡に達するまで封入),g線スペクトロメーター(SEIKO EG&G社,MCA7700)によって全210Pb,214Pb(半減期22.3年)と137Csの各比放射能[Bq/g]を定量化した.堆積物中には,岩石中の226Ra起源のsupported 210Pbも含まれるため,放射平衡状態でsupported 210Pbと同じ比放射能をもつ214Pbを全210Pbから差し引くことにより大気由来の過剰210Pbの比放射能を求めた.この過剰210Pb比放射能の壊変過程をCRS(Constant Rate of Supply)モデルにより分析して堆積年代の深度分布を推定したうえで,核実験や原発事故など人為由来で増加する137Cs比放射能を示準に検証を試みた.
各水域における分析結果によると,それぞれに異なる形成年代や改変履歴を反映し,過去20~80年程度にわたる堆積過程を明らかにすることができた.推定された堆積速度は,地域による違いが顕著では無かったが、湖沼や内湾の既報値(0.1 g cm-2 yr-1前後)より大きく(0.28~2.14 g cm-2 yr-1),本川流路との接続状況や洪水事象などに伴って変異した.堆積コアにおける各層の分析値は,乾燥かさ密度,帯磁率,強熱減量や各種金属含有量は地点による違いが大きく、深度によっても異なる結果を示すなど、各調査地の氾濫原景観の特徴を反映していた.例えば、人工的に整備された水域の水底材料(堆積物)は,かさ密度が大きく,帯磁率,強熱減量,金属含有量は小さかったが,これは湧水を担保するために人工的に導入された底質による影響が反映されており、庭園的な整備と維持管理の影響を示唆していた.また,1970年代に堆積したと推定された層では,その前後に比べてPb含有量がやや多くなっており,種々の有機鉛化合物を含むガソリンが使用された時期と一致するなど,過去の環境汚染を反映した結果を呈しており、氾濫原の水底堆積物には人新世において劇的に変化した人間活動の影響が含まれてることが明らかになった.