日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2025年5月28日(水) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、竹内 望(千葉大学)、座長:SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)

14:30 〜 14:45

[HTT16-16] ペルー北部カハマルカ地域における高解像度ストロンチウム同位体地図

*大西 雄二1、瀧上 舞2、山本 睦3SHIN Ki-Cheol1陀安 一郎1 (1.総合地球環境学研究所、2.国立科学博物館、3.山形大学)

キーワード:ストロンチウム、同位体地図、古代アンデス、ペルー

南米のアンデス地域では古代人の生活史や移動履歴復元のための古人骨・古動物骨のSr同位体(87Sr/86Sr)分析が数多く行われており、特にペルー南部やチリ・アルゼンチンでは議論の基礎となる詳細な同位体地図も作成されている。一方、ペルー北部山岳地域には同位体分析を含む考古学調査が行われている遺跡が複数存在するものの、遺跡周辺地域のSr同位体分布の調査は進んでいない。そこで本研究では、ペルー北部カハマルカ地域における高解像度なSr同位体地図の作成を行った。
同位体地図作成のための調査は2022年と2023年に、ペルー北部カハマルカ州に位置するクントゥル・ワシ遺跡、パコパンパ遺跡とインガタンボ遺跡の周辺地域において行われた。河川水81試料と生物試料(マメ科植物・陸生巻貝)を合計153試料採取し、そのSr同位体比を測定した。河川水試料の測定値から、単純な内挿モデルである通常クリギングと経験ベイズクリギングによって各遺跡周辺のSr同位体地図を作成し、最適なモデルを選択した。選択されたモデルを用いて生物試料のSr同位体地図を作成した。河川水と生物試料それぞれでの同位体地図を比較することで、考古学試料に適した試料のタイプを検討した。
河川水試料について、2つの内挿法で作成したSr同位体地図を比較したところ、経験ベイズクリギングで作成した同位体地図の方が測定値との当てはまりが良く、適したモデルであると判断した。河川水データから作成された同位体地図は、いずれの地域においても周囲の地質との良い一致が見られた。次に、河川水と生物試料それぞれで作成した同位体地図を比較したところ、クントゥル・ワシ遺跡周辺では周囲の地質や河川水Srの同位体地図との良い一致が見られ、この地域の生物利用可能Srの同位体比の分布が、地質や地形によって主に決定されていることを示した。一方、パコパンパ/インガタンボ遺跡周辺では両者の同位体地図が一致しなかった。このことは生物利用可能Srの同位体比の分布が、地質や地形に加えて、よりローカルなプロセス(例えば、降水やダスト)の影響を受けている可能性が考えられる。今後、さまざまな環境因子を変数として組み込むことで、考古学的議論に耐えうる高精度な予測モデルを構築する必要がある。