日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2025年5月28日(水) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、竹内 望(千葉大学)

17:15 〜 19:15

[HTT16-P03] オルゴイ湖湖底堆積物の安定同位体組成に基づく最終氷期以降のモンゴル高原南西部の古環境復元

*益木 悠馬1、長瀬 美羽1、ダヴァスレン ダヴァドルジ2板山 由依1南 雅代3、由水 千景4陀安 一郎4勝田 長貴1 (1.岐阜大学、2.モンゴル国立大学、3.名古屋大学、4.総合地球環境学研究所)

キーワード:湖成層、安定同位体比、モンゴル高原

モンゴル高原は、過去100年間で世界平均に比べ約4倍の上昇率(0.71℃/100年; IPCC, 2007)で温暖化が進行している。研究対象のオルゴイ湖は流入出河川の存在しない閉鎖系の塩湖であり、モンゴル高原南西部のハンガイ山脈南麓に位置する。当該地域はシベリア永久凍土の最南端にあたり、不連続永久凍土地帯(面積比率50~90%)が広がり、温暖化に伴う環境悪化が懸念されている。本研究は、最終氷期から完新世に至る永久凍土域の環境変動を復元するため、オルゴイ湖湖底堆積物コアの炭素、窒素、硫黄の安定同位体比測定と化学分析を行った。
分析堆積物コア17OLGOI02(全長約7.5 m)は、2017年に掘削したものであり、1 cm間隔の分取後、凍結乾燥し、粉砕混合した。酸・アルカリ処理で抽出した生物起源シリカ(BioSi)は、ICP-AES分析で含有量を求めた。全有機炭素(TOC)・全窒素(TN)・全硫黄(TS)含有量は元素分析装置で定量し、安定同位体比(δ13CTOCδ15NTNδ34STS)は、燃焼型元素分析計を接続した安定同位体比質量分析計によって決定した。TOCの測定には、1M塩酸で炭酸塩除去した堆積物試料を使用した。
TOC含有量は0.01~5.47%(平均1.25 ± 1.45%)の範囲で変動し、深度650~580 cm、160~130 cm、120~0 cmでは高い値を示し、深度750~650 cm、580~160 cm、130~120 cmでは低い値を示した。これらの変動はグリーンランド氷床コアδ18O(NGRIP, 2004)との対比により、Marine Isotope Stage 3(MIS3; 5.7万年前から3万年前)、Last Glacial Maximum (LGM; 2.1万年前)、ベーリング/アレレード期(BA温暖期; 1.2万年前)、ヤンガードリアス期(YD寒冷期; 1.2万年前)などの気温変動イベントに対応すると推察される。よって、この堆積物コアは最終氷期から完新世に至る約7万年の記録を有するとみなすことができる。さらに、TN含有量は0.01~0.36%(平均0.09 ± 0.10%)、BioSi含有量は0.01~9.74%(平均1.70 ± 1.73%)であり、TOC含有量と同様の変動を示した。これは、温暖期に集水域及び湖内の生物生産量が増加した一方で、寒冷期には減少したことを意味する。その有機物起源は、C/N比(寒冷期が平均13.7 ± 5.8、MIS3が平均23.7 ± 2.0、完新世が平均16.8 ± 1.8)とδ13CTOC(寒冷期が平均–17.3 ± 2.2‰、MIS3が平均–10.4 ± 0.4‰、完新世が平均–19.2 ± 0.7‰)の値から、寒冷期では植物プランクトン、MIS3ではC4植物を主体とし、完新世ではC3植物と植物プランクトンの混合であることが考えられる。TS含有量は0.01~1.08%(平均0.22 ± 0.20%)であり、δ34STSは–11.8~5.7‰(平均–1.8 ± 4.5‰)を示した。また、最表層の堆積物δ34STSは2.8‰を示す一方で、オルゴイ湖の水のδ34SSO4は16.2‰の値を持つ。この最表層の約13‰の低下は、間隙水中の硫酸イオン還元に伴う同位体分別によるものと考えられる。堆積物δ34STSの正の値が4つの層準で見られ、BA温暖期と完新世に対応した。堆積当時の湖水に含まれる硫酸イオンのδ34Sは、現在の同位体分別効果を考慮すると10‰以上であったと推察される。このような34Sに富む硫酸イオンの湖への流入は、温暖化に伴い集水域の凍土層で硫酸還元が進行した可能性を示唆するものである。