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[HTT16-P05] 海氷減少に伴う西部北極海における大気・海洋循環の特異性の評価

キーワード:生物生産、太平洋海水、Nd(ネオジム)同位体比、Pb(鉛)同位体比
【はじめに】 近年,北極海では温暖化の影響が顕著に現れており,海氷の多年氷から季節海氷への変化や,夏季の海氷面積の半減(1970–80年代に対して)などが観測されている(Kashiwase et al., 2017)。特に,西部北極海においては,温暖で低塩分な太平洋海水が西部北極海に流入することで,海氷形成の遅延や海氷減少が引き起こされている( Weingartner et al., 1999; Woodgate et al., 2005)。太平洋海水はベーリング海峡から西部北極海に流入した後,バローキャニオンを境に,チュクチ斜面流とビューフォートシェルフブレイクジェット(BSJ)に分岐する。チュクチ斜面流は,年間平均で西向きの流れを有し,太平洋海水のうちベーリング海水を主に輸送し,全輸送量の5割以上を占める(Corlett and Pickart, 2017)。一方,BSJは年間平均で東向きの流れを有し,高水温のアラスカ沿岸水を主に輸送し,全輸送量の2割程度を占める。しかし,2002~2014年の10年間の観測によると,ビューフォート海上の東風の強化によって,BSJの輸送量が77 %も減少しており(Brugler et al., 2014),大気および海洋の循環様式が変化してきている。現在観測されている太平洋海水の流入量の変化,海氷減少,大気・海洋状態の変化が,過去数100年から数1000年の気候状態の中で,どの程度特異な現象であるかを評価するには,過去の環境変動に関する長期的なデータが必要とされている。本研究では,西部北極海で採取された,年代精度が高く堆積速度の早い堆積物コア試料を対象として,過去1300年間の太平洋海水の流入変動を復元し,海氷変動との関係を解析し,現在の海氷減少に伴う西部北極海の大気・海洋循環の特異性を評価する。
【試料・方法】 研究対象とした試料は,バローキャニオンBC2サイトで採取された海底堆積物コア (MR22-06C BC2-GC08, 71.9102 °N, 154.1604 °W, 水深: 223 m, 全長: 475 cmとMR22-06C BC2-Box1, 71.9099 °N, 154.1577 °W, 水深: 224 m, 全長: 29 cm)を用いた。BC2-Box1は,過去40年間,BC2-GC08は挟在する貝の14C年代により,過去1300 年間の連続的な堆積物を保持していることが判明している(Yamamoto et al. (submitted))。これらの試料について,逐次溶解法(リーチング)を用い砕屑物とFe-Mn水酸化物画分を得た。逐次溶解法はDu et al. (2016)を参考に,0.016 M HH (塩酸ヒドロキシルアミン) + 0.8 M AA (酢酸) 溶液に,NaOH (水酸化ナトリウム)を加えてpHを4に調製した溶液を用いた。溶解時間は5分とし,この過程で得られた溶液をFe-Mn水酸化物画分として扱った。太平洋海水の流入を復元するために,砕屑物とFe-Mn水酸化物のAl, Ca, REEs,Pb,Mn など34の元素濃度と砕屑物 のNd(ネオジム), Pb(鉛) 同位体比とFe-Mn水酸化物のNd同位体比の分析を行った。
【結果・考察】 BC2-GC08試料の砕屑物のCa濃度は,1950 年以降にそれ以前と比べ2倍程度上昇し,中世温暖期と比べても顕著な増加傾向を示していた。これは,近年の西部北極海の海洋環境の変化に起因する生物の一次生産の増加を反映していると考えられる。砕屑物のNd同位体比は,過去1300年間で–7から–9.5 εNdの変動を示し,Fe-Mn水酸化物は–4 ~ –6.5 εNdの変動を示した。中世温暖期(900年から1300年)には低いεNd値を示しており,高水温のユーコン川を起点としたアラスカ沿岸水の寄与が大きかったことが示唆される。一方,小氷期(1350年から1900年)では高いεNd値を示したため,ベーリング海水の寄与が大きかったと考えられる。砕屑物のPb同位体比(206Pb/204Pb)は,全体で19.03から19.15の変動を示した。過去から現在にかけてPb同位体比は増加傾向を示しており,206Pb/204Pb の1900年以降の高い値へのシフトで特徴づけられる。したがってこれらの結果より,1900年以降にベーリング海水の寄与が減少し,相対的にアラスカ沿岸水の寄与が増加していることが示唆される。最近の西部北極海における高気圧性の風循環であるビューフォートジャイア(BG)の高気圧性の循環が強化されていることと,Brugler et al., (2014)の研究で示されたBSJの東向きの輸送量が減少しているという結果を支持する結果であると考える。以上より,過去1300年間で西部北極海においてアラスカ沿岸水の流入が増加し続けてはいないため,太平洋海水の流入は特異的であると断言できないが,生物の一次生産の上昇が特異的であることが示された。
【試料・方法】 研究対象とした試料は,バローキャニオンBC2サイトで採取された海底堆積物コア (MR22-06C BC2-GC08, 71.9102 °N, 154.1604 °W, 水深: 223 m, 全長: 475 cmとMR22-06C BC2-Box1, 71.9099 °N, 154.1577 °W, 水深: 224 m, 全長: 29 cm)を用いた。BC2-Box1は,過去40年間,BC2-GC08は挟在する貝の14C年代により,過去1300 年間の連続的な堆積物を保持していることが判明している(Yamamoto et al. (submitted))。これらの試料について,逐次溶解法(リーチング)を用い砕屑物とFe-Mn水酸化物画分を得た。逐次溶解法はDu et al. (2016)を参考に,0.016 M HH (塩酸ヒドロキシルアミン) + 0.8 M AA (酢酸) 溶液に,NaOH (水酸化ナトリウム)を加えてpHを4に調製した溶液を用いた。溶解時間は5分とし,この過程で得られた溶液をFe-Mn水酸化物画分として扱った。太平洋海水の流入を復元するために,砕屑物とFe-Mn水酸化物のAl, Ca, REEs,Pb,Mn など34の元素濃度と砕屑物 のNd(ネオジム), Pb(鉛) 同位体比とFe-Mn水酸化物のNd同位体比の分析を行った。
【結果・考察】 BC2-GC08試料の砕屑物のCa濃度は,1950 年以降にそれ以前と比べ2倍程度上昇し,中世温暖期と比べても顕著な増加傾向を示していた。これは,近年の西部北極海の海洋環境の変化に起因する生物の一次生産の増加を反映していると考えられる。砕屑物のNd同位体比は,過去1300年間で–7から–9.5 εNdの変動を示し,Fe-Mn水酸化物は–4 ~ –6.5 εNdの変動を示した。中世温暖期(900年から1300年)には低いεNd値を示しており,高水温のユーコン川を起点としたアラスカ沿岸水の寄与が大きかったことが示唆される。一方,小氷期(1350年から1900年)では高いεNd値を示したため,ベーリング海水の寄与が大きかったと考えられる。砕屑物のPb同位体比(206Pb/204Pb)は,全体で19.03から19.15の変動を示した。過去から現在にかけてPb同位体比は増加傾向を示しており,206Pb/204Pb の1900年以降の高い値へのシフトで特徴づけられる。したがってこれらの結果より,1900年以降にベーリング海水の寄与が減少し,相対的にアラスカ沿岸水の寄与が増加していることが示唆される。最近の西部北極海における高気圧性の風循環であるビューフォートジャイア(BG)の高気圧性の循環が強化されていることと,Brugler et al., (2014)の研究で示されたBSJの東向きの輸送量が減少しているという結果を支持する結果であると考える。以上より,過去1300年間で西部北極海においてアラスカ沿岸水の流入が増加し続けてはいないため,太平洋海水の流入は特異的であると断言できないが,生物の一次生産の上昇が特異的であることが示された。