日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2025年5月28日(水) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、竹内 望(千葉大学)

17:15 〜 19:15

[HTT16-P07] 琵琶湖固有魚ニゴロブナの雄にみられるサイズ二型と代替回遊型

*梅村 佳穂1北田 順也1SHIN Ki-Cheol2、上原 佳敏2、根本 守仁3奥田 昇1 (1.神戸大学、2.総合地球環境学研究所、3.滋賀県水産試験場)


キーワード:琵琶湖、固有種、回遊、ストロンチウム同位体、ニゴロブナ

1.イントロダクション
 魚類では、繁殖や生活史の二型が普遍的にみられる。最近、琵琶湖の固有種であるニゴロブナでも、幼魚と同程度の体サイズで性成熟する矮小雄が低頻度で観察され、本種の雄にサイズ二型が存在することが示唆された。通常、雌雄は増水期の4-6月に氾濫原で産卵を行うが、代替湿地である水田も主要な産卵場所として機能する。水田で生まれた稚魚は成長につれて水路を降下し、秋ごろから沖合に分散して、数年間の沖合回遊生活を経て性成熟に達する。また、筆者らの先行研究によって、産卵遡上した個体が高い割合で出生地に産卵回帰することが報告されている。
サイズ二型の進化を説明する仮説として、代替繁殖戦略(戦術)と代替生活史戦略(戦術)が挙げられる。代替繁殖戦略(戦術)とは、体サイズが大きく同性間の競争に優位な個体と体サイズが小さく競争に劣位な個体が異なる方法で繁殖成功を高める現象と定義され、なわばり雄とスニーカー雄の事例がよく知られている。スニーカー雄は、なわばりをもつ雄と雌の繁殖に割り込み、放精することで受精率を高めるため、なわばり雄と比べて、体サイズに対して生殖腺がより発達しているという特徴がある。他方、代替生活史戦略(戦術)とは、個体間で繁殖開始齢・体サイズなど生活史形質にみられる二型を指す。1回当たりの繁殖成功を最大化するために、成長に投資し、高い繁殖能力を備えてから遅く繁殖を開始する型と繁殖能力が低く体サイズの小さいうちから早く繁殖を開始する型が存在する。特に、回遊性魚類では、大型で遅熟の回遊型と小型で早熟の残留型の二型が有名である。

2.材料と方法
 本研究は、ニゴロブナにみられる雄のサイズ二型がどのような戦略(戦術)に基づいて進化したのか検証することを目的とする。この目的を達成するために、体サイズ・年齢と生殖腺投資量の関係を解析する解剖学的研究、および、耳石微小コアのストロンチウム安定同位体比(87Sr/86Sr)の時系列解析によって個体の回遊履歴を復元する地球科学的研究の複合的アプローチを導入した。滋賀県彦根市田附地区と長浜市延勝寺地区の水田用排水路で行った採集調査では、大型雄、矮小雄、幼魚、稚魚、計107匹を捕獲した。採集個体の体長・体重、生殖腺重量を記録し、鱗と耳石を採取した。大型雄の標準体長が90-250 mmであるのに対して、矮小雄と幼魚は産卵シーズン初期の4月に40-90 mmに到達していることから前年に生まれた越冬個体と考えられ、産卵シーズン後半に出現する稚魚(20-45 mm)とは区別した。大型雄と矮小雄による性成熟は、腹部圧迫による放精の有無に基づいて判定した。

3.結果と考察
鱗の輪紋数に基づいて、大型雄は2+齢以上、矮小雄は全て前年に生まれた1+齢と査定された。大型雄と矮小雄間で生殖腺指数(100×生殖腺重量/体重)を比較したところ、有意差がみられなかったことから代替繁殖戦略(戦術)の可能性は棄却された。続いて、耳石微小コア87Sr/86Srを時系列解析した結果、大型雄は、仔稚魚期に形成される耳石核の同位体比が採集水路の環境水や同水路に生息する稚魚の耳石の同位体比と重複し、成長期に形成される耳石が琵琶湖の湖水の同位体比と類似したことから、産卵遡上場所で出生し、琵琶湖沖合で回遊した後に出生地に回帰したことが示唆された。他方、矮小雄の耳石核と耳石外縁部の87Sr/86Srは、どちらも採集水路の環境水および同水路に生息する稚魚の耳石の同位体比と重複したことから、琵琶湖沖合に回遊せず、出生地に残留した可能性が示唆された。以上の結果から、ニゴロブナには、沖合で長期回遊した後に繁殖を開始する大型雄と出生地に残留して早期に繁殖を開始する矮小雄の代替生活史戦略(戦術)が存在すると結論された。