日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[L-03] 地球人間圏科学の新展開

2025年5月29日(木) 10:45 〜 12:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、山野 博哉(東京大学・国立環境研究所)、松多 信尚(岡山大学大学院学術研究院教育学域)、南雲 直子(土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター)、座長:須貝 俊彦(東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻)、松多 信尚(岡山大学大学院学術研究院教育学域)、南雲 直子(土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター)


11:00 〜 11:15

[L03-02] 北極域の気候変動にみる地球人間圏科学の展開

★招待講演

*飯島 慈裕1 (1.東京都立大学都市環境学部地理環境学科)

キーワード:温暖化、雪氷圏、水循環、社会影響、学際共同研究

北極圏は地球上で最も急速に温暖化が進行している地域である。そのため、「気候変動」に関する国内外の学際的研究が21世紀に入って特に進み、顕在化する環境変化影響への対処について様々なステークホルダーを巻き込んだ社会的実践が進められている。すなわち、地球人間圏科学の代表的な新展開地域といえる。
 現象としては、北極海の海氷面積が夏季を中心に過去数十年間で著しく減少しているように、雪氷圏(雪、氷、凍土)の顕著な変化が特徴である。これらの雪氷の減少傾向と沿うように、北極の水文気候系も劇的に変化しており、降水量、蒸発量、河川流出量、大気中の水分輸送など、水循環のあらゆる要素に変調がみられている。しかし、これらの要素間の複雑な相互作用や、気候変動に対する水循環の反応には大きな不確実性が含まれ、依然として地球科学的な課題となっている。例えば、海氷減少と降水量変化は、北極における水輸送のパターンを大きく変化させている。異常降水と乾燥化、積雪の変化にみられる地域的な極端現象は、北極温暖化のもう一つの局面を示すものと考えられる。このような水環境の変化は、地域的な地表面環境変化を伴ない、気候変動影響として結び付けられる重要な要素となる。
 気候の温暖化と湿潤化は、陸域の景観、生物物理学的特性、生物地球化学的循環、化学物質輸送などに変化をもたらし、陸域生態系の生産性に影響を与える。これらの変化は、北極圏の生物多様性にも影響を及ぼす可能性が指摘されている。加えて、北極圏の気候変動は、先住民族の生活にも大きな影響を与えている。インフラや水資源計画へのリスク増加、健康への影響、生物資源に基づく生業への脅威など、様々な形で影響が現れている。特に、冬季の降雨量増加は地表に氷を形成し、放牧を妨げることでトナカイなどの草食動物に悪影響を与えている。また、永久凍土融解はインフラの安定性を損ない、経済活動にも影響を及ぼしている。
 北極の気候変動研究は、大気変動解析、大気と陸面・海洋相互作用、衛星リモートセンシング、永久凍土観測、地域気候モデルシミュレーション、陸面過程モデリング、全球気候モデルを用いた気候予測、エアロゾル影響評価、生物圏温室効果ガス収支の観測とモデリングなど、様々な分野の専門家が一つの大きなプロジェクト(日本の場合GRENE-Arctic、ArCS、ArCS IIなど)の基に協働しているのが大きな特徴である。これらの専門知識を社会科学的な知見と組み合わせることで、北極圏の気候変動と水循環の相互作用を包括的に理解し、より正確な気候予測と、それに基づく適切な対策に繋がるといえるが、その実践はようやく途に就いたところであり、今後のさらなる連携が期待される。