15:30 〜 15:45
[MAG34-06] 福島沿岸における溶存有機態放射性炭素の分布と動態
キーワード:福島第一原発、放射性炭素、溶存有機炭素、ALPS処理水、加速器質量分析、北西太平洋
福島第一原子力発電所(福島第一原発)では、2023年8月より、施設内で発生した汚染水を多核種除去設備(ALPS)等で浄化することで生じた「処理水」を海洋に放出している。処理水はトリチウムをはじめとする69の放射性核種について濃度を確認後、希釈して放出されている。炭素-14(14C)は、上述の対象核種の一つであり、十分に低い濃度が保たれていることが報告されている 1)。ただし、14Cのモニタリングは炭酸種のみを対象としており、溶存有機物を構成する炭素、すなわちDOC(Dissolved Organic Carbon)中の14C(DO14C)濃度は評価されていない。福島沿岸域には、福島第一原発の水処理システム内での無機炭素の有機化や、陸上の有機物の流出によって、微量のDO14Cが供給される可能性がある。海水中のDOCの一部は、海水の循環に比べて数倍の期間にわたって海洋内部にとどまることが知られている。福島周辺海域におけるDO14C分布を把握することは、処理水放出に伴う14C濃度変化のレベルをより正確に把握するとともに、14C動態の長期的な予測にも役立つことが期待される。一方で、福島周辺海域を含めた北西太平洋でのDO14Cのデータ数は限られており、その動態は不明な点が多い。本研究では、北太平洋北西部およびその縁辺域における表層海水中のDOCが持つ14C同位体比(Δ14C)の分布を俯瞰するとともに、処理水の放出前後での福島第一原発周辺でのDO14C濃度の分布を報告する。
本研究における試料採取点を図1に示す。福島周辺海域での海水試料は、2021年10月から2024年4月にかけて、福島第一原発から2~18 kmの距離にある5観測点で採取した。福島海域での観測は、研究船「新青丸」KS-21-23, 22-4, 24-5航海によって行った。北西太平洋の広域でのデータは、Otosaka et al.2) による既報データに加えて、2021年1月から2023年8月にかけて、「新青丸」KS-22-15, 23-11, 「みらい」MR21-1, 21-6 航海で得たものを用いた。海水試料はニスキン採水器で採取し、採水時にCTDによる塩分及び水温を計測した。DOC濃度及びDOC-Δ14Cは、海水をガラス容器に入れて冷凍保存し、陸上の実験室に持ち帰ってから分析した。海水中のDOC-Δ14Cは、Otosaka et al.3)の方法で分析した。14Cの計測は、東京大学大気海洋研究所のシングルステージ加速器分析装置(YS-AMS)で行った。
図2に、北西太平洋およびその縁辺海の27観測点における表層海水中DOCのΔ14CとDOC濃度の逆数との関係を示す。図中の直線は、Otosaka et al.2)において北西太平洋の観測点(47° N, 160° E)の水深800m以浅で得られた結果を模式化したものである。本研究において北西太平洋の多くの観測点で得た表層海水は同図の直線付近にプロットされ、これらの海水中のDOCは、表層で生産された新鮮なDOCと深層由来の古いDOCの2成分の混合物として説明することができた。一方で、縁辺海や、縁辺海からの表層流が収束する一部の観測点では、上記の直線から下方に外れる(年齢の古い)DOCが存在することが示唆された。この結果は、これらの海域のDOCの特徴が、単純な二成分混合ではなく、外来性の溶存有機物の付加によって決定されたと考えられる。
福島海域におけるDOCが持つDOCのΔ14C値は−248 ~ −170‰であった。処理水放出前の2022年10月のDOC-Δ14C値は、図2に示す混合直線に対して最大で50‰程度高く、人為起源の14Cによる値の増加の可能性を示したが、これに伴うDO14Cの濃度増加は0.01mBq/kg程度であった。ALPS処理水放出開始後の2024年3月におけるDOC-Δ14C値は2022年に比べて低く、混合直線からの目立ったずれは見られなかった。2024年の観測は3回目のALPS処理水放出期間7~8日後で、少なくともこの時点においては、放出に伴うDO14C濃度の増加は極めて小さいと推定された。
参考文献
1) 東京電力HD
https://www.tepco.co.jp/en/hd/decommission/data/analysis/pdf/2024/measurement_confirmation_241015-e.pdf
Otosaka, S. et al. (2022) Nucl. Inst. Methods Phys. Res. B 527, 1-6.
Otosaka, S. et al. (2024) Otosaka S, et al., J Coastal Res. 116, 181-185.
謝辞
本研究は、科研費補助金事業(23H24815, 19H04260, 20H04315)、放射能環境動態・影響評価ネットワーク共同研究拠点事業(P-24-12)の助成によるものです。
本研究における試料採取点を図1に示す。福島周辺海域での海水試料は、2021年10月から2024年4月にかけて、福島第一原発から2~18 kmの距離にある5観測点で採取した。福島海域での観測は、研究船「新青丸」KS-21-23, 22-4, 24-5航海によって行った。北西太平洋の広域でのデータは、Otosaka et al.2) による既報データに加えて、2021年1月から2023年8月にかけて、「新青丸」KS-22-15, 23-11, 「みらい」MR21-1, 21-6 航海で得たものを用いた。海水試料はニスキン採水器で採取し、採水時にCTDによる塩分及び水温を計測した。DOC濃度及びDOC-Δ14Cは、海水をガラス容器に入れて冷凍保存し、陸上の実験室に持ち帰ってから分析した。海水中のDOC-Δ14Cは、Otosaka et al.3)の方法で分析した。14Cの計測は、東京大学大気海洋研究所のシングルステージ加速器分析装置(YS-AMS)で行った。
図2に、北西太平洋およびその縁辺海の27観測点における表層海水中DOCのΔ14CとDOC濃度の逆数との関係を示す。図中の直線は、Otosaka et al.2)において北西太平洋の観測点(47° N, 160° E)の水深800m以浅で得られた結果を模式化したものである。本研究において北西太平洋の多くの観測点で得た表層海水は同図の直線付近にプロットされ、これらの海水中のDOCは、表層で生産された新鮮なDOCと深層由来の古いDOCの2成分の混合物として説明することができた。一方で、縁辺海や、縁辺海からの表層流が収束する一部の観測点では、上記の直線から下方に外れる(年齢の古い)DOCが存在することが示唆された。この結果は、これらの海域のDOCの特徴が、単純な二成分混合ではなく、外来性の溶存有機物の付加によって決定されたと考えられる。
福島海域におけるDOCが持つDOCのΔ14C値は−248 ~ −170‰であった。処理水放出前の2022年10月のDOC-Δ14C値は、図2に示す混合直線に対して最大で50‰程度高く、人為起源の14Cによる値の増加の可能性を示したが、これに伴うDO14Cの濃度増加は0.01mBq/kg程度であった。ALPS処理水放出開始後の2024年3月におけるDOC-Δ14C値は2022年に比べて低く、混合直線からの目立ったずれは見られなかった。2024年の観測は3回目のALPS処理水放出期間7~8日後で、少なくともこの時点においては、放出に伴うDO14C濃度の増加は極めて小さいと推定された。
参考文献
1) 東京電力HD
https://www.tepco.co.jp/en/hd/decommission/data/analysis/pdf/2024/measurement_confirmation_241015-e.pdf
Otosaka, S. et al. (2022) Nucl. Inst. Methods Phys. Res. B 527, 1-6.
Otosaka, S. et al. (2024) Otosaka S, et al., J Coastal Res. 116, 181-185.
謝辞
本研究は、科研費補助金事業(23H24815, 19H04260, 20H04315)、放射能環境動態・影響評価ネットワーク共同研究拠点事業(P-24-12)の助成によるものです。