日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG34] ラジオアイソトープ移行:福島第一原発事故環境動態からの展開

2025年5月29日(木) 15:30 〜 17:00 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:津旨 大輔(筑波大学)、赤田 尚史(弘前大学)、加藤 弘亮(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、乙坂 重嘉(東京大学大気海洋研究所)、座長:加藤 弘亮(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、赤田 尚史(弘前大学)

16:30 〜 16:45

[MAG34-10] ALPS処理水放出後の福島周辺海域における海水中の129I濃度分布

★招待講演

*鈴木 崇史1乙坂 重嘉2、桑原 潤1 (1.日本原子力研究開発機構、2.東京大学)

キーワード:福島第一原子力発電所事故、ALPS処理水、ヨウ素129

ヨウ素129は半減期1600万年の放射性核種であり、環境中では宇宙線との核反応及びウラン238の自発核分裂によって生成されている。また原子力利用が開始されてからは大気圏内核実験や核燃料再処理工場の運転により環境中に放出された。それらと比べて少量ではあるが、チョルノービリ原子力発電所事故や福島第一原子力発電所事故により環境中に放出されてきた。ヨウ素129は放出源が明確であることから環境中でのヨウ素の動態解明に利用されてきた。2024年8月から、東京電力福島第一原子力発電所にてALPS処理水の海洋放出が開始され、今後数十年放出が予定されている。ALPS処理水には微量のヨウ素129が含まれており、新たなヨウ素129の放出源となる。そこで、本研究ではALPS処理水放出後の海水中のヨウ素129濃度を明らかにし、福島周辺海域におけるヨウ素129の移行挙動を議論する。 福島周辺海域の海水試料は、2024年3月に新青丸KS-24-5航海にて採取した。採取地点を図1に示す。海水試料は陸上の実験室に持ち帰った後、海水試料にヨウ素担体を加え、溶媒抽出法にてヨウ素を抽出し、原子力機構青森研究開発センターに設置してある加速器質量分析装置(AMS)にて129I/127I比を計測した。
採取した海水は水温と塩分のデータから黒潮海水であったため、本研究で得られた表層海水中のヨウ素129濃度を黒潮海水中のヨウ素129濃度と比較した。事故前の黒潮海水中のヨウ素129濃度は(0.86 – 1.23)×107 atoms/L程度であり、事故後2012年から2014年に観測された黒潮海水中のヨウ素129濃度は(0.95 – 2.21)×107 atoms/L程度で事故前のレベルと同等であったが、本研究で得られた、表層海水中のヨウ素129濃度(1.37 – 11.5)×107 atoms/Lはそれらの値と比べて上昇していた。本研究で得られたヨウ素129の鉛直分布を図2に示す。観測点NP3, NPE2, NPD2, NP1, T05では、海水中のヨウ素129濃度は表層から底層まで同程度であったが、観測点NP2, Y04’, NPE1, Y01では表層より底層の方が高かった。この結果は、底層にもヨウ素129の放出源があることを示唆している。放出源としては水深10mから放出されるALPS処理水もしくは海底堆積物からの溶出が考えられる。
海水中のヨウ素129濃度は時間とともに変動することや観測点により鉛直分布が異なることから、ヨウ素129はヨウ素循環の解明に有用なトレーサーになると考えられる。