日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI25] Holocene paleoenvironment, paleoclimate, and paleohazards in the Pacific Islands

2025年5月26日(月) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:後藤 和久(東京大学大学院理学系研究科)、Goff James(University of New South Wales)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、市原 美恵(東京大学地震研究所)


17:15 〜 19:15

[MGI25-P03] フランス領ポリネシアボラボラ島の化石ハマサンゴ骨格の酸素同位体比とSr/Ca比を用いた中世気候異常期のENSO復元の可能性

*下牧 拓矢1山崎 敦子1,2内山 遼平3後藤 明4、石村 智5、レッキーニ デイビッド6,7渡邊 剛2,3,8 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.喜界島サンゴ礁科学研究所、3.北海道大学理学院、4.南山大学人類学研究所、5.東京文化財研究所 、6.パリ・ドーフィン大学、7.PSL研究大学、8.総合地球環境科学研究所)

キーワード:サンゴ骨格、フランス領ポリネシア、エルニーニョ南方振動、ストロンチウム/カルシウム比、酸素同位体比

西暦 950 年代から 1250 年代にかけては中世気候異常期(MCA)と呼ばれている。MCAに、リモートオセアニア(東ポリネシア)に人類が進出し、その要因の一つとして、エルニーニョ南方振動(ENSO)が挙げられている(Anderson et al., 2006)。MCAの南太平洋における月単位の時間解像度が高い気候復元の先行研究は少なく、ENSO変動についても矛盾した先行研究がある(Newton et al., 2006; Rustic et al.,2015; Moy et al., 2002; Rein et al., 2004))。
造礁サンゴ骨格(CaCO3)中の組成は骨格形成時の環境を高時間分解能かつ連続的に記録していることが知られている。 サンゴ骨格中のストロンチウム/カルシウム比(Sr/Ca比)は骨格が形成された当時の海水温と強い負の相関を持つことが知られており、古海水温の復元に用いられる。酸素同位体比(δ18Ocoral)は古海水温と海水酸素同位体比(δ18Osw)双方の影響を受け、塩分の復元に用いられる。しかし、化石サンゴの場合、続成によって二次アラゴナイト(Hendy et al., 2007)や、カルサイト(McGregor and Gagan, 2003)が付着するとSr/Ca比やδ18Ocoralが変化する。
本研究では、フランス領ポリネシアボラボラ島の沿岸からMCAの海水準(Hallman et al., 2018)を目安として採取された42の化石ハマサンゴ試料を用いた。年輪の最大成長方向を残すようにサンゴ骨格を板状に加工した。走査電子顕微鏡(SEM)を用いた骨格の観察とX線解析法(XRD)を用いたカルサイト/アラゴナイト比の検出によって続成の有無を確認した。保存が良いサンプルにて放射性炭素年代測定をおこなった。 軟X線画像で年輪を確認し、最大成長方向に沿って地球化学分析用の粉末試料を採取した。誘導結合プラズマ発光分光分析器(ICP-OES )を用いて粉末試料のSr/Ca比の分析を行った。Sr/Ca比分析の繰り返し誤差は±0.071mmol/mol(1σ;n=22)であった。Sr/Ca比-現場水温の換算式(Farley et al., 2024)を用い、水温の復元を行なった。続けて、自動炭酸塩前処理装置を接続した安定同位体比質量分析計(DI-IRMS )で粉末試料のδ18Ocoralの分析を行った。δ18Ocoral の繰り返し誤差は±0.070‰VPDB(1σ;n=13)であった。復元水温変動とδ18Ocoral変動から塩分に近似される海水の酸素同位体比(δ18Osw)を求めた。
現在のボラボラ島周辺の海洋環境は、全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)の海水温(南緯16.5°,東経151.5°を中心とした1°×1°内)を参照し、塩分は英国気象庁EN4の塩分のデータセット(南緯16.5°~17.5°,東経151.5°~152.51°×1°内)を用いた。エルニーニョ指標の一つである南方振動指数は気象庁HPにて公表されているデータセット(https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/db/elnino/index/soi.html)を用いた。
放射性炭素年代測定の結果、保存の良い試料の一つである化石サンゴ試料は879~1013A.D.(1σ)に成長したことが分かった。本試料の地球化学分析の結果、7年分のSr/Ca比とδ18Ocoralの季節変動が得られた。Sr/Ca比の分析結果から海水温を復元した結果、復元された海水温は現在の海水温よりも平均0.78℃低いことが分かった。
EN4の観測データによるボラボラ島の塩分変動から、経年変動と長期トレンドを除き、塩分アノマリーを計算したところ、強いエルニーニョが発生し、SOIが大きく減少した1997年や2005年に大きな低下が見られた。よって、ボラボラ島の周辺海域では、エルニーニョの発生により塩分が低下すると考えられる。化石サンゴ骨格のδ18Oswから予測した塩分変動の標準偏差と現在のEN4による塩分アノマリーの標準偏差を比較すると、化石サンゴ骨格の塩分変動が現在よりも大きく、ENSO変動が今よりも大きかった可能性が示唆された。