日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI29] データ駆動地球惑星科学

2025年5月26日(月) 09:00 〜 10:30 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:上木 賢太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、伊藤 伸一(東京大学)、板野 敬太(秋田大学)、宇野 正起(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:板野 敬太(秋田大学)、上木 賢太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

09:15 〜 09:30

[MGI29-02] 多変量解析による地下水質形成機構の検討~新第三紀堆積岩類中の化石海水に関するケーススタディ~

*阿部 健康1、飯田 芳久1、笹本 広1、石井 英一1 (1.日本原子力研究開発機構)

キーワード:主成分分析、階層型クラスター分析、新第三紀堆積岩類、化石海水、埋没続成作用

地下水質は、放射性廃棄物処分におけるバリア材変質や核種溶解度及び化学形態の評価に不可欠な条件であり、ボーリング調査で得た地下水や岩石について地球化学データを取得し、サイト選定段階から形成機構の理解とモデル化を進めることが重要である。多変量解析は、起源の異なる地下水質の特定に既に活用されており (例えばSasamoto et al., 1999)、理想混合を仮定すれば水-岩石反応による水質変化を見積もることが可能である (Laaksoharju et al., 1999)。地下水質形成機構のモデル化を進めるためには、理想混合で説明できない水質変化を解釈して具体的な水-岩石反応を特定する必要がある。本研究では、地下水主要組成に加えて全岩化学組成に対しても多変量解析を実施することで水-岩石反応の推定を試み、今後実施する鉱物学的な分析の方針について検討した。
対象とする試料は、北海道北部幌延地域に産する新第三紀堆積岩類 (稚内層及び声問層)を選定した。稚内層及び声問層はSiO2が約65~80 wt%の珪(藻)質泥岩を主体とし、主要構成鉱物はオパール-Aまたは-CT、スメクタイト、イライト、カオリナイト、緑泥石、黄鉄鉱、シデライトである (平賀・石井, 2008)。稚内層及び声問層は最大深度が約1 kmの埋没続成作用を受けたと推定されており (福沢, 1987)、その際に形成された化石海水を主に胚胎している (e.g., Miyakawa et al., 2023)。化石海水は重いδD-δ18O組成を特徴とし、海水の約1/3~1/2程度の塩濃度でNaCl型の組成を持つ。
多変量解析のデータセットは、JAEAが幌延深地層研究計画で取得した地下水及び岩石ボーリングコアの地球化学データ (國丸他, 2007; Sasamoto et al., 2011; 平賀・石井, 2008)から収集して作成した。多変量解析の手法としてここでは主成分分析 (= Principal Component Analysis, PCA)と階層型クラスター分析 (= Hierarchical Clustering Analysis, HCA)を実施した。全岩化学組成のPCAはNa2O、K2O、CaO、MgO、FeO、Fe2O3、LOI (強熱減量)の各濃度をAl2O3濃度で規格化した値を変数として実施した。地下水主要組成のPCAではNa+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl-、HCO3-、SO42-の各濃度を変数とした。HCAは、90%を超える累積寄与率となるまでの主成分を変数としてPCAの結果に対して実施し、クラスタリング手法は汎用的なウォード法とした。
図1aに全岩化学組成、1bに地下水主要成分のPCAとHCAの結果をそれぞれ示す。幌延の珪(藻)質泥岩はLOI/Al2O3及びK2O/Al2O3に基づき大きく二種類にまず区別される。LOI/Al2O3及びK2O/Al2O3が高いクラスター (= Kt)は声問層に、低いクラスターは稚内層に対応している。稚内層はCaO/Al2O3やNa2O/Al2O3に応じてさらに二種類に区別され、埋没深度が小さい浅部稚内層(= Wk-1とする)でCaO/Al2O3やNa2O/Al2O3が低く, 深部稚内層 (= Wk-2)で高い。
対象試料の揮発性成分は主にH2Oであると仮定すると、LOI/Al2O3はシリカ鉱物(オパール-A→オパール-CT)やスメクタイト (→イライト)の相転移に伴って放出されたH2O量の指標と考えることができる。HCA結果に基づいてLOI/Al2O3の平均値を算出し比較すると、Ktは1.62、Wk-1は0.96、Wk-2は0.85となる。脱水したH2Oがすべて地下水希釈に寄与したと仮定すると、希釈倍率はKtからWk-1の変化で0.59倍、KtからWk-2で0.52倍となる。これらの値は、地下水Cl-濃度の特徴と整合する。
声問層中の化石海水の単純希釈を仮定し、カチオン成分についてマスバランス計算すると、浅部稚内層Wk-1の化石海水では岩石からのNa+及びCa2+溶脱が、深部稚内層Wk-2ではNa+のみの溶脱が示唆された。図2は地下水主要カチオンと全岩のNa2O-K2O-CaO-MgO組成を4成分プロットした結果で、最も増減が少なかった成分を頂点とした投影図を示している。地下水は埋没深度に伴ってNa+に富む組成に徐々に変化した。一方, 全岩化学組成は複雑な変化を示した。KtとWk-1を比較すると、Na2O/Al2O3は減少した。一方、Wk-1とWk-2を比較すると、K2O/Al2O3の減少とCaO/Al2O3の増加により、Na2O/Al2O3はむしろ増加し、K2O/CaO比は減少した。化石海水を単純に希釈した場合の物質収支計算と岩石全体の化学組成の変化との間には乖離がある。一般に、スメクタイトからイライトへの相転移に伴い、交換性のNaとCaが減少し、非交換性のKが増加することが知られており (井上, 1986)、全岩化学組成の変化はイライト化を反映したものと考えられる. さらなる定量的な検討を進めるためには、今後交換性陽イオン組成やスメクタイト及びイライトの化学組成の分析を追加する必要がある。