日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI30] 計算科学が拓く宇宙惑星地球科学

2025年5月27日(火) 13:45 〜 15:15 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大淵 済(神戸大学)、牧野 淳一郎(国立大学法人神戸大学)、亀山 真典(国立大学法人愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、堀田 英之(名古屋大学)、座長:吉田 雄城(神戸大学)、亀山 真典(国立大学法人愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)

14:45 〜 15:00

[MGI30-05] 二次元球面上における Particle-in-Cell 法に基づくトレーサー移流

*松嶋 俊樹1、西澤 誠也2、島 伸一郎3 (1.神戸大学惑星科学研究センター、2.理化学研究所計算科学センター、3.兵庫県立大学)

キーワード:全球数値モデル、トレーサー移流、HEALPix、超水滴法

雲・エアロゾルのような粒子状物質の輸送を理解することは、信頼できるシミュレーションにより地球・惑星の気候を理解するために重要である。雲やエアロゾルのような粒子状物質の表現には、バルク的な量だけでなく、粒子の起源やエアロゾルの溶解量のようなより詳細な情報があることが望ましいが、それらのとり得る同時分布をビン法で表現しようとすると、属性の数とともにデータ・計算量が指数的に増大する。この問題の回避策として、仮想的な粒子をラグランジュ的に追い、それと格子場の連成系を解く Particle-in-Cell (PIC) 法が有望である。この方法を用いた例としては、例えば超水滴法 (Shima et al., 2009, 2020) や、elliptical parcel in cell 法 (Frey et al., 2023) が挙げられる。

超水滴法は、100 km スケールまでの領域モデルを用いた研究開発が進められているが、地球規模の現象との相互作用を調べるためには、球面のジオメトリへの拡張は避けては通れない。PIC 法を球面領域で用いるためには、格子とその中の粒子の連成系を場所に依らずより高精度に行うこと、また計算効率を上げるために、セル面積が一定であることと粒子の所属するセルインデックスの検索が容易であることが重要である。そこで、我々は Hierarchical Equal Area isoLatitude Pixelisation of a sphere (HEALPix; Górski et al., 2005) に注目し、その上での PIC シミュレーションを想定した数値モデルを開発する。
HEALPix は近年、地球デジタルツイン (Destination Earth) におけるデータフォーマットや、機械学習による天気予報 (Karlbauer et al., 2024) などで採用される例があり、今後、解析や機械学習と統合されたシミュレーションでのデファクトスタンダードになり得る。

我々は、超水滴法を用いて、メートルスケールからサブメートルスケール解像度で雲の数値実験が可能な数値モデルを構築した (Matsushima et al., 2023)。そこでは、直交座標系を前提として、粒子と格子の連成系を高速に解くための手法を提案した。
本研究では、HEALPix を用いて Matsushima et al. (2023) の手法を球面上で適用可能になるよう拡張し、それを導入した新規の数値モデルを開発する。大量の粒子の位置情報は、超高解像度の HEALPix で表現することで、粒子あたりが持つべき情報量を削減し、大量の粒子を扱うことを可能にする。HEALPix の各セル面積は等しいため、粒子生成・消滅などのサンプリング・リサンプリングが容易であり、長期積分への対応が可能である。粒子位置への非発散速度場の補間は、HEALPix の規則性から周辺の格子を取り出し、動径基底関数と多項式を用いて行う。解像できない流れによる粒子のサブグリッドスケール混合は、Wiener 過程あるいは Ornstein–Uhlenbeck 過程を用いてモデル化する。数値モデルは、今後の AI を中心とした計算環境の動向や自動微分、機械学習との統合を想定し、Python ベースのマルチプラットフォームなフレームワークのJAX を用いて実装した。

開発した数値モデルの数値精度と性質を従来的なスキームと比較するため、セミラグランジュ移流のテストケースによく用いられる Lauritzen et al. (2012) に基づき、トレーサー場の移流および解像できない流れを考慮した場合のテストを様々なパラメータと、解像できない流れの効果の含める場合と含めない場合とで行った。我々のスキームでは、流体粒子のラグランジュ的移流を考えたことで数値粘性の影響を排除し、得られたトレーサー場は、低解像度の速度場を用いる場合でも最低解像度要件を満たす。

今後、開発した数値モデルは大きく二つの方向性で改良する。一つは、開発したスキームが粒子位置に関する「微分可能性」を有していることから、惑星表層の雲のパターン分布の解析やデータ同化へ応用する。他方では、開発したスキームを全球モデルと最適化された雲微物理過程(Matsushima et al. 2023) と統合し、デジタルツインのデータを利用して、超水滴法を用いたより詳細なレベルからの全球 km-scale の長期積分を行えるようにする。