17:15 〜 19:15
[MIS01-P05] 準2次元二層火砕流モデルによるピナツボ1991年噴火の再構築
キーワード:火砕流、灰神楽、イグニンブライト、ピナツボ1991年噴火、二層モデル、浅水流方程式
1991年6月15日にフィリピンのピナツボ火山で生じた大規模な爆発的噴火では,噴煙柱の部分崩壊により火砕流と傘型噴煙が同時発生し大量の堆積物を形成した.噴煙柱・火砕流・傘型噴煙のダイナミクスは相互作用し,特に,火砕流から発生する微細な火砕物粒子からなる噴煙(灰神楽)は火口から生じた噴煙柱と一体となり傘型噴煙に供給された可能性が高い(図).このような複雑な噴火様式に対して,噴煙柱・傘型噴煙の挙動とその堆積物の関係については,物理モデルを用いて,観測データから定量的に再構築することが可能になりつつある.一方,火砕流の挙動とその堆積物の関係については,物理モデルに基づく理解が不十分であり,火砕流が灰神楽を通して噴煙柱・傘型噴煙のダイナミクスに与える影響についても定量的かつ実証的には解明されていない.本研究では,火砕流の挙動と堆積物,さらに,火砕流から灰神楽への供給率を評価可能な火砕流の物理モデル(志水・小屋口 2024 JpGU)を既存の観測データと組み合わせることにより,ピナツボ1991年噴火の再構築を試みた.
志水・小屋口(2024 JpGU)は,火砕流のダイナミクスと堆積物を統一的に表現するために,火砕流内の粒子濃度の成層構造を上部低濃度流と下部高濃度流で近似する二層浅水流モデルを開発した.低濃度流は,噴煙柱からの供給を受け高速に流動しつつ底面で粒子を落とし,遠方では周囲大気よりも軽くなり灰神楽を形成する.一方,高濃度流は,低濃度流からの沈降粒子の質量・運動量の供給を受けつつ,底面における堆積・侵食の影響を受け地形起伏間の谷筋に沿って流動する.火砕流は,全体として,底面での粒子沈降率Qsedと火砕流から灰神楽への粒子供給率Qcoの和が噴煙柱から火砕流への粒子供給率QPDCと釣り合う定常状態に収束し,進行方向の拡大を停止する(図).噴火強度が大きく噴火継続時間が長い大規模火砕流のダイナミクスは,低濃度流については1次元軸対称浅水流方程式の定常解を,高濃度流については地形効果と非定常性を考慮した2次元非定常浅水流方程式を適用する準2次元二層火砕流モデルによって表現される.この時,QPDC=Qsed+Qcoという関係が近似的に満たされる.
マグマ物性が既知という条件のもとで上記準2次元二層火砕流モデルの数値シミュレーションを実行し,数値計算結果を火砕流堆積物質量と噴火継続時間に関する既存観測データと比較することにより,ピナツボ1991年噴火の噴火条件,火砕流ダイナミクス,火砕流堆積物分布の再構築を行った.具体的な手順は以下の通りである.
(1)観測データ(Scott et al. 1996)から推定された火砕流堆積物質量(6.48×1012 kg)と噴火継続時間(5h)の比により,火砕流堆積物の平均堆積率Qsedを3×108 kg/sと推定した.
(2)計算結果が上記Qsedの値を満たす入力条件を探索することによって,噴煙柱から火砕流への粒子供給率QPDCを1.27×109 kg/sと推定した.その結果,火砕流から灰神楽への粒子供給率Qcoが9.7×108 kg/sと推定された.このQcoの推定値は,3次元噴煙シミュレーションに基づく噴出率推定値(109 kg/s; Suzuki & Koyaguchi 2009)と概ね一致する.また,Qcoと噴火継続時間の積により得られる灰神楽の粒子質量(1.7×1013 kg)は,(灰神楽粒子を除く)噴煙柱起源の傘型噴煙中の粒子質量の推定値(3×1012 kg; Koyaguchi & Ohno 2001)に比べて有意に大きな値となる.これらのことは,ピナツボ噴火の最盛期における噴煙を駆動する主要な熱源が火砕流からの灰神楽であった可能性を示唆している.
(3)上記QPDCを入力パラメータとして用いた準2次元二層火砕流モデルの計算結果における低濃度流の到達範囲は,野外で観察される給源近傍の層状堆積物の分布範囲と概ね一致する.また,高濃度流における堆積速度と侵食速度に関するモデルパラメータを調整することにより,同モデルの計算結果は,火砕流堆積物の分布範囲と厚さ分布の野外観測事実(特に,給源遠方の厚い谷埋め塊状堆積物)を説明できる(cf. 志水・小屋口 2022 JpGU).
以上の結果は,噴煙柱・火砕流・傘型噴煙が同時発生する複雑な爆発的噴火に対し,火砕流に関する本準2次元二層火砕流モデルと噴煙柱・傘型噴煙に関する既存噴煙モデルを組み合わせることによって,火砕流・噴煙ダイナミクスとそれらによる堆積物全体を統一的に理解可能であることを示している.
志水・小屋口(2024 JpGU)は,火砕流のダイナミクスと堆積物を統一的に表現するために,火砕流内の粒子濃度の成層構造を上部低濃度流と下部高濃度流で近似する二層浅水流モデルを開発した.低濃度流は,噴煙柱からの供給を受け高速に流動しつつ底面で粒子を落とし,遠方では周囲大気よりも軽くなり灰神楽を形成する.一方,高濃度流は,低濃度流からの沈降粒子の質量・運動量の供給を受けつつ,底面における堆積・侵食の影響を受け地形起伏間の谷筋に沿って流動する.火砕流は,全体として,底面での粒子沈降率Qsedと火砕流から灰神楽への粒子供給率Qcoの和が噴煙柱から火砕流への粒子供給率QPDCと釣り合う定常状態に収束し,進行方向の拡大を停止する(図).噴火強度が大きく噴火継続時間が長い大規模火砕流のダイナミクスは,低濃度流については1次元軸対称浅水流方程式の定常解を,高濃度流については地形効果と非定常性を考慮した2次元非定常浅水流方程式を適用する準2次元二層火砕流モデルによって表現される.この時,QPDC=Qsed+Qcoという関係が近似的に満たされる.
マグマ物性が既知という条件のもとで上記準2次元二層火砕流モデルの数値シミュレーションを実行し,数値計算結果を火砕流堆積物質量と噴火継続時間に関する既存観測データと比較することにより,ピナツボ1991年噴火の噴火条件,火砕流ダイナミクス,火砕流堆積物分布の再構築を行った.具体的な手順は以下の通りである.
(1)観測データ(Scott et al. 1996)から推定された火砕流堆積物質量(6.48×1012 kg)と噴火継続時間(5h)の比により,火砕流堆積物の平均堆積率Qsedを3×108 kg/sと推定した.
(2)計算結果が上記Qsedの値を満たす入力条件を探索することによって,噴煙柱から火砕流への粒子供給率QPDCを1.27×109 kg/sと推定した.その結果,火砕流から灰神楽への粒子供給率Qcoが9.7×108 kg/sと推定された.このQcoの推定値は,3次元噴煙シミュレーションに基づく噴出率推定値(109 kg/s; Suzuki & Koyaguchi 2009)と概ね一致する.また,Qcoと噴火継続時間の積により得られる灰神楽の粒子質量(1.7×1013 kg)は,(灰神楽粒子を除く)噴煙柱起源の傘型噴煙中の粒子質量の推定値(3×1012 kg; Koyaguchi & Ohno 2001)に比べて有意に大きな値となる.これらのことは,ピナツボ噴火の最盛期における噴煙を駆動する主要な熱源が火砕流からの灰神楽であった可能性を示唆している.
(3)上記QPDCを入力パラメータとして用いた準2次元二層火砕流モデルの計算結果における低濃度流の到達範囲は,野外で観察される給源近傍の層状堆積物の分布範囲と概ね一致する.また,高濃度流における堆積速度と侵食速度に関するモデルパラメータを調整することにより,同モデルの計算結果は,火砕流堆積物の分布範囲と厚さ分布の野外観測事実(特に,給源遠方の厚い谷埋め塊状堆積物)を説明できる(cf. 志水・小屋口 2022 JpGU).
以上の結果は,噴煙柱・火砕流・傘型噴煙が同時発生する複雑な爆発的噴火に対し,火砕流に関する本準2次元二層火砕流モデルと噴煙柱・傘型噴煙に関する既存噴煙モデルを組み合わせることによって,火砕流・噴煙ダイナミクスとそれらによる堆積物全体を統一的に理解可能であることを示している.