日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS08] アストロバイオロジー

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:藤島 皓介(東京科学大学地球生命研究所)、鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、藤井 友香(国立天文台)、黒澤 耕介(神戸大学 大学院人間発達環境学研究科 人間環境学専攻)

17:15 〜 19:15

[MIS08-P02] L体過剰アラニン水溶液の圧力誘起結晶化のその場観察と不斉濃縮の可能性の検討

*吉岡 美香1、小林 大輝1鍵 裕之1 (1.東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)


キーワード:アミノ酸、高圧、キラリティー

アミノ酸には L 体と D 体の鏡像異性体が存在する。2 つの鏡像異性体は、融点や溶解度などの化学的性質はほぼ同じであるため、無生物的に合成した場合には L 体と D 体の比率が 1:のラセミ体が生成する。ところが、生物を構成するアミノ酸は L 体のみで構成されており(ホモキラリティー)、その起源は未だ明らかになっていない。
 ホモキラリティーの起源については、これまでにさまざまな仮説が提唱されてきた。現在は、宇宙空間における円偏光紫外線によって 1つの鏡像異性体が過剰に生成あるいは分解されたという説が有力である。しかし、宇宙空間で L 体過剰なアミノ酸が生成されたとしても、その過剰度は約 1% に過ぎず、隕石で検出されたL 体過剰は最大でも10~20%である。したがって、既存の説だけではホモキラリティーの起源を十分に説明することはできない。生命の起源を解明するためには、宇宙空間で L 体過剰のアミノ酸が生成され、太陽系生成時に隕石母天体や彗星に取り込まれた後に、どのようにして L 体アミノ酸が不斉濃縮され、ホモキラリティーが実現したのかを明らかにすることが不可欠である。
 本研究では、氷惑星の内部などで水とアミノ酸が共存する状況を想定し、高圧条件下で L 体アミノ酸の不斉濃縮が起こる可能性について調べた。
 L-アラニン飽和水溶液と D-アラニン飽和水溶液を、体積比 10:0、9:1、7:3、5:5 で混合し、これら 4 種類の水溶液を出発試料とした。ガス駆動型ダイヤモンドアンビルセルにヘリウムガスを導入し、約 3 GPa まで段階的に加圧した。それぞれの圧力は、試料室中のルビーの蛍光を測ることで決定した。KEK-PF BL18C で X 線回折パターンを in-situ 測定し、アラニン結晶と氷高圧相(ice VI, VII)が析出する様子を観察した。
 全ての水溶液において、1–1.5 GPa で氷の高圧相である ice VI が析出しはじめ、2–2.5 GPa で ice VI が ice VII に相転移する様子が観察された。一方、図に示すようにアラニン結晶は溶液の D/L 比によって異なる析出挙動に違いが見られた。L:D が 10:0、9:1 の水溶液からは L-アラニン結晶が析出し、L:D が 7:3、5:5 の溶液からは DL-アラニンが析出した。ただし、7:3 の溶液では L 体が過剰に含まれているにもかかわらず、余剰な L-アラニンの回折ピークは確認されなかった。これは、高圧下で結晶化しなかった L-アラニンが結晶とは別の形で存在している可能性を示唆する。また、7:3 の水溶液の加圧によって得られた ice VI や ice VII の単位胞体積は、その他の水溶液よりも有意に小さいことがわかった。これは、高圧下で結晶化しなかった L-アラニンの分子が氷の構造に影響を及ぼしている可能性を示唆している。L-アラニンの分子の存在状態については、濃縮溶液、非晶質状態、氷高圧相への取り込みなどが考えられる。
 また、室温で水が液体として存在できる圧力領域(0–0.8 GPa)において、L-アラニンと DL-アラニンの溶解度を比較した。それぞれのアラニン結晶を各飽和水溶液中に入れ、室温で約 0.2 GPa ずつ加圧し、結晶のサイズが変化するかを調べた。その結果、L-アラニン結晶は加圧に伴い結晶サイズが40%ほど減少し、溶解する様子が観察された。一方、DL-アラニンは結晶サイズがほぼ変化せず、高圧領域で溶解が進まなかった。0 GPa における L-アラニンと DL-アラニンの溶解度がほぼ同じであることを踏まえると、高圧条件下では L-アラニンのみ溶解度が増加することが明らかとなった。これは、高圧条件下における DL-アラニンの方が L-アラニンよりも析出しやすいという実験結果を支持する結果である。
 本研究によって、L-アラニン過剰な水溶液から氷高圧相と DL-アラニンが選択的に析出することにより、DL-アラニンと L-アラニンの分別が生じる可能性が示唆された。