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[MIS10-P03] ジオパークにおける科学の本質(NoS)理解増進活動の必要性:北但馬地震を例として
キーワード:山陰海岸ジオパーク、北但馬地震、科学リテラシー、科学の本質
はじめに
兵庫県豊岡市は北但馬地震(1925年)について,ホームページで「円山川河口付近」としていた震央(原文は震源)を,2024年5月23日,「円山川右岸下流部」に改めた。これに対し,市民から突然の変更に戸惑いの声も上がっていると報道された(読売新聞オンライン,https://www.yomiuri.co.jp/science/20240601-OYT1T50054/;神戸新聞NEXT,https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202406/0017726134.shtml).同市の該当ウェブページは一時閲覧中止となった後,現在は3通りの震央と時刻が併記されている.100年前の大地震に関しこのような混乱が見られた背景を考察し,ジオパークを運営する組織による市民教育としての「科学の本質(Nature of Science:NoS)」の理解増進の意義を演者は主張する.
北但馬地震の研究史
発震直後に現地調査を行った今村(1927)は,震央を円山川河口付近としている.掲載された図から座票を読み取ると,北緯35度38分57.63秒 134度50分40秒付近となる.
宇津(1979)による震源の位置は,北緯35.6度,東経134.8度,標準誤差0.1度以内;震源は浅いので不決定)であり,豊岡市城崎町来日付近である.『[新編]日本の活断層』(活断層研究会,1991)にはこの値が引用されている.
宇佐美ほか(2013)による震源の位置は,北緯35度34分,東経134度50分,震源の深さ0 kmで,これは豊岡市金剛寺付近である.
気象庁は改訂した地震カタログを公表している.このカタログでは,北但馬地震の震源は北緯 35度33.80分 ,東経134度50.09分,深さ0km,豊岡市金剛寺付近とされている.また,発生時刻は午前11時9分47秒とされた(浜田ほか,2004).いずれにせよ,地震発生直後の調査結果と異なり,地震計の記録に基づいた現代的な手法では,今村(1927)の結果と比べ震央は5-8 km南方とされた.
豊岡市における混乱の分析
地震の記録に関する市役所ウェッブページ掲載情報更新後,市民がなぜ混乱したかについての基礎データはないが,新聞報道記事の内容から推測するとウェッブページ記載情報や掲載内容の変更を事前に知らされていなかったことにある.その背景として,北但馬地震に関する基礎的な情報がそもそも修正されることなど,市民は予想していなかったこともあるのではないかとも思われる.つまり科学の成果は不変であると考えていたのかもしれない.
NoSとは何か
1960年代に「科学リテラシー」の一つである「科学の本質(Nature of Science:NoS)」は,「科学とは何か」という科学の方法論・認識論的な内容を含むものとして示された.そして,普通教育としての科学教育で育成されるべき市民的資質・能力とされてきた(鶴岡,2013).最近では科学教育だけではなく,防災学習においても科学の限界を踏まえて対策を考える必要性が示されている(中山・小倉,2020).
ジオパークが担うNoS理解増進
ジオパークでは最新の科学成果に基づいた普及啓発が行われていると期待する.研究成果に基づく観光資源に関する情報の更新は,市民には興味深く受け取ってもらえるかもしれない.しかし,本発表で取り上げた事例のように,地域の防災に関する情報は市民にとって極めて重要である.ジオパークでは市民の自然災害に関する知識を深める活動の推進も期待される.自然災害に関する情報提供を行う際に,科学コミュニケーションの手法を導入することはもちろん,NoSを踏まえ,科学の限界や知識の更新があることを伝えながら自然災害現象について普及啓発を行い,科学への不信観を抱かせることがないように留意したい.また,自然災害に限らず様々な科学の事例の普及啓発活動において,市民のNoSについての資質・能力向上を図ることをねらうことも考えられる.
文献
浜田信生・吉川一光・近藤さや・鎌谷紀子・明田川保・松浦律子・鈴木保典(2004)日本の震源カタログの改善―1923年-1925年部分の新規作成と1926年以降の改善―.験震時報,第 68 巻,1-24.
今村明恒(1927)但馬地震調査報告.震災豫防調査會報告,101,1-29.
活断層研究会(1991)[新編]日本の活断層.東京大学出版会,437p.
中山萌絵・小倉 康(2020)日本科学教育学会研究会研究報告,34(6),37-42.
鶴岡義彦(2013)第2節 理科教育の目標としての科学的リテラシー.大髙泉[編],新しい学びを拓く理科授業の理論と実践―中学・高等学校編―,ミネルヴァ書房,京都,57-63.
宇津徳治(1979)1885年~1925年の日本の地震活動 : M6以上の地震および被害地震の再調査.東京大學地震研究所彙報,54巻, 2号, p. 253-308
宇佐美龍夫・石井 寿・今村隆正・武村雅之・松浦律子(2013)日本被害地震総覧599-2012.東京大学出版会,694p.
兵庫県豊岡市は北但馬地震(1925年)について,ホームページで「円山川河口付近」としていた震央(原文は震源)を,2024年5月23日,「円山川右岸下流部」に改めた。これに対し,市民から突然の変更に戸惑いの声も上がっていると報道された(読売新聞オンライン,https://www.yomiuri.co.jp/science/20240601-OYT1T50054/;神戸新聞NEXT,https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202406/0017726134.shtml).同市の該当ウェブページは一時閲覧中止となった後,現在は3通りの震央と時刻が併記されている.100年前の大地震に関しこのような混乱が見られた背景を考察し,ジオパークを運営する組織による市民教育としての「科学の本質(Nature of Science:NoS)」の理解増進の意義を演者は主張する.
北但馬地震の研究史
発震直後に現地調査を行った今村(1927)は,震央を円山川河口付近としている.掲載された図から座票を読み取ると,北緯35度38分57.63秒 134度50分40秒付近となる.
宇津(1979)による震源の位置は,北緯35.6度,東経134.8度,標準誤差0.1度以内;震源は浅いので不決定)であり,豊岡市城崎町来日付近である.『[新編]日本の活断層』(活断層研究会,1991)にはこの値が引用されている.
宇佐美ほか(2013)による震源の位置は,北緯35度34分,東経134度50分,震源の深さ0 kmで,これは豊岡市金剛寺付近である.
気象庁は改訂した地震カタログを公表している.このカタログでは,北但馬地震の震源は北緯 35度33.80分 ,東経134度50.09分,深さ0km,豊岡市金剛寺付近とされている.また,発生時刻は午前11時9分47秒とされた(浜田ほか,2004).いずれにせよ,地震発生直後の調査結果と異なり,地震計の記録に基づいた現代的な手法では,今村(1927)の結果と比べ震央は5-8 km南方とされた.
豊岡市における混乱の分析
地震の記録に関する市役所ウェッブページ掲載情報更新後,市民がなぜ混乱したかについての基礎データはないが,新聞報道記事の内容から推測するとウェッブページ記載情報や掲載内容の変更を事前に知らされていなかったことにある.その背景として,北但馬地震に関する基礎的な情報がそもそも修正されることなど,市民は予想していなかったこともあるのではないかとも思われる.つまり科学の成果は不変であると考えていたのかもしれない.
NoSとは何か
1960年代に「科学リテラシー」の一つである「科学の本質(Nature of Science:NoS)」は,「科学とは何か」という科学の方法論・認識論的な内容を含むものとして示された.そして,普通教育としての科学教育で育成されるべき市民的資質・能力とされてきた(鶴岡,2013).最近では科学教育だけではなく,防災学習においても科学の限界を踏まえて対策を考える必要性が示されている(中山・小倉,2020).
ジオパークが担うNoS理解増進
ジオパークでは最新の科学成果に基づいた普及啓発が行われていると期待する.研究成果に基づく観光資源に関する情報の更新は,市民には興味深く受け取ってもらえるかもしれない.しかし,本発表で取り上げた事例のように,地域の防災に関する情報は市民にとって極めて重要である.ジオパークでは市民の自然災害に関する知識を深める活動の推進も期待される.自然災害に関する情報提供を行う際に,科学コミュニケーションの手法を導入することはもちろん,NoSを踏まえ,科学の限界や知識の更新があることを伝えながら自然災害現象について普及啓発を行い,科学への不信観を抱かせることがないように留意したい.また,自然災害に限らず様々な科学の事例の普及啓発活動において,市民のNoSについての資質・能力向上を図ることをねらうことも考えられる.
文献
浜田信生・吉川一光・近藤さや・鎌谷紀子・明田川保・松浦律子・鈴木保典(2004)日本の震源カタログの改善―1923年-1925年部分の新規作成と1926年以降の改善―.験震時報,第 68 巻,1-24.
今村明恒(1927)但馬地震調査報告.震災豫防調査會報告,101,1-29.
活断層研究会(1991)[新編]日本の活断層.東京大学出版会,437p.
中山萌絵・小倉 康(2020)日本科学教育学会研究会研究報告,34(6),37-42.
鶴岡義彦(2013)第2節 理科教育の目標としての科学的リテラシー.大髙泉[編],新しい学びを拓く理科授業の理論と実践―中学・高等学校編―,ミネルヴァ書房,京都,57-63.
宇津徳治(1979)1885年~1925年の日本の地震活動 : M6以上の地震および被害地震の再調査.東京大學地震研究所彙報,54巻, 2号, p. 253-308
宇佐美龍夫・石井 寿・今村隆正・武村雅之・松浦律子(2013)日本被害地震総覧599-2012.東京大学出版会,694p.