14:30 〜 14:45
[MIS11-04] 2024年能登半島地震の津波堆積物中の貝形虫殻の特徴と供給源の推定
キーワード:2024能登半島地震、津波堆積物、貝形虫
微小甲殻類である貝形虫は,浅海帯の海底堆積物中に多く認められる.特に,現在の日本周辺の沿岸域ではその多様性や個体数が高いことが知られている.また,貝形虫殻は完新世の津波堆積物からしばしば産することから,津波堆積物の供給源を推定するために有用であると考えられている.しかし,これまで行われた津波の供給源の検討について,実際の津波の襲来方向の海底堆積物を用いた研究は行われておらず,扱った試料数も少ない.そのため,供給源の推定は津波襲来地域とは異なる地点の貝形虫群集の示す水深を適応したり,浅海帯と広い範囲の特定に留まっている.さらに,コア中の津波堆積物(Mischke et al., 2012など)や津波による海底の生物相の変化(Irizuki et al., 2019)に関する研究はあるが,陸上に残された津波堆積物中の貝形虫の特徴を明らかにした研究はほとんどない.そこで本研究では,2024年1月に発生した能登半島地震に伴う陸上の津波堆積物と海底堆積物を用いて,1)津波の供給源をより具体的に推定する,2)津波堆積物中の貝形虫の特徴を明らかにする,ことを目的とした.
試料は2024年能登半島地震の際に発生した津波により,能登町九里川尻川周辺にもたらされた津波堆積物と,重力落下式コアラーにて採取された海底コア7本である.陸上の津波堆積物は川の右岸の九里川尻地区にて3地点,左岸の布浦地区の1地点にて,幅7.5 cm,厚さ1 cmのプラスチック容器を鉛直断面に押し当てて,2024年4月に採取した.その後,室内にて厚さ1 cmごとに分取した計44試料を用いた.海底コア試料は九里川尻川の河口から津波の襲来方向に側線を設定し,水深5 mから30 mまで,およそ水深5 m間隔の地点にて2024年7月に採取した.本研究では各コアの最下位の厚さ1 cmの試料を用いた.
全ての試料から,浅海帯の砂底,海藻上に生息する貝形虫種が産出した.貝形虫が50個体以上産出した36の陸上試料と4の海底コア試料を用いて,Qモードクラスター分析を行った.その結果,5つの生物相が認められた.陸上の36試料は生物相2と生物相3に含まれ,どちらもAurila属,Cythere属,Loxoconcha属,Neonesidea属が比較的多産した.生物相3は2に比べて,Cythere属,Loxoconcha japonicaの占める割合が高く,Xestoleberis hanaiiの割合が低かった.海底の4試料は生物相1,3,4,5と全て異なる生物相であった.陸上試料のみで構成される生物相2は,海底の水深14.2 mの試料(生物相1)の種構成と最も類似していた.一方,生物相3は水深5.1 mの海底試料の種構成と最も類似しており,次いで水深10 mの試料(生物相4)と類似していた.これらのことから,調査地域の津波堆積物は少なくとも河口から東北東方向に0.7〜2 km,水深5〜15 mの海底から運ばれたと推定される.この水深は,2011年東北沖地震による津波堆積物の示す供給源の水深(Tanaka et al., 2012)とも矛盾しない.
今回採取した陸上の津波堆積物は層厚8〜16 cmの葉理が発達する砂層である.砂層の下部には,境界は不明瞭であるものの層厚1〜4 cm程度の植物片や礫の集積層が認められた.加えて,左岸の試料は最上部の2 cmに泥が見られた.いずれの地点においても,堆積物1 gあたりの貝形虫の産出個体数は基底部から上方へ増加し,1度減少した後再び増加した.また,右岸の最も海岸線から離れた地点と左岸の試料は,最上部において再び減少を示した.中間で減少を示したコアは,その層準において含泥率がわずかに低下し,CT画像観察でも砂層中に狭在する植物片集積層と層準が一致した.また,2地点の最上部で減少した層準には葉理が見られず,左岸の泥層からは貝形虫殻がほとんど産出しなかった.陸上の津波堆積物中の生物相の分布について,生物相2が見られなかった右岸の最も海側の試料を除いて,3地点では生物相3の上に生物相2が重なって分布した.このことは,津波は初め浅い海底の堆積物をより多く運搬し,その後やや深い海底堆積物を多く運搬した可能性を示唆している.生物相の水平方向の分布については,右岸の3地点では生物相3が津波堆積物の大部分を占めたのに対し,左岸では生物相2が大部分で見られた.右岸は川を遡上した波が堤防を越流したのに対し,左岸は海から直接波が到達し,植物を多量に含む層や泥が堆積するような滞水した環境がしばらく継続したことが分かっている(笹本ほか,本セッション).今後,左岸と右岸における堆積相と生物相の差異を精査し,津波浸水計算や土砂移動計算と統合して考えることで,この地域の津波浸水の挙動と堆積物の形成プロセスが明らかになるだろう.
試料は2024年能登半島地震の際に発生した津波により,能登町九里川尻川周辺にもたらされた津波堆積物と,重力落下式コアラーにて採取された海底コア7本である.陸上の津波堆積物は川の右岸の九里川尻地区にて3地点,左岸の布浦地区の1地点にて,幅7.5 cm,厚さ1 cmのプラスチック容器を鉛直断面に押し当てて,2024年4月に採取した.その後,室内にて厚さ1 cmごとに分取した計44試料を用いた.海底コア試料は九里川尻川の河口から津波の襲来方向に側線を設定し,水深5 mから30 mまで,およそ水深5 m間隔の地点にて2024年7月に採取した.本研究では各コアの最下位の厚さ1 cmの試料を用いた.
全ての試料から,浅海帯の砂底,海藻上に生息する貝形虫種が産出した.貝形虫が50個体以上産出した36の陸上試料と4の海底コア試料を用いて,Qモードクラスター分析を行った.その結果,5つの生物相が認められた.陸上の36試料は生物相2と生物相3に含まれ,どちらもAurila属,Cythere属,Loxoconcha属,Neonesidea属が比較的多産した.生物相3は2に比べて,Cythere属,Loxoconcha japonicaの占める割合が高く,Xestoleberis hanaiiの割合が低かった.海底の4試料は生物相1,3,4,5と全て異なる生物相であった.陸上試料のみで構成される生物相2は,海底の水深14.2 mの試料(生物相1)の種構成と最も類似していた.一方,生物相3は水深5.1 mの海底試料の種構成と最も類似しており,次いで水深10 mの試料(生物相4)と類似していた.これらのことから,調査地域の津波堆積物は少なくとも河口から東北東方向に0.7〜2 km,水深5〜15 mの海底から運ばれたと推定される.この水深は,2011年東北沖地震による津波堆積物の示す供給源の水深(Tanaka et al., 2012)とも矛盾しない.
今回採取した陸上の津波堆積物は層厚8〜16 cmの葉理が発達する砂層である.砂層の下部には,境界は不明瞭であるものの層厚1〜4 cm程度の植物片や礫の集積層が認められた.加えて,左岸の試料は最上部の2 cmに泥が見られた.いずれの地点においても,堆積物1 gあたりの貝形虫の産出個体数は基底部から上方へ増加し,1度減少した後再び増加した.また,右岸の最も海岸線から離れた地点と左岸の試料は,最上部において再び減少を示した.中間で減少を示したコアは,その層準において含泥率がわずかに低下し,CT画像観察でも砂層中に狭在する植物片集積層と層準が一致した.また,2地点の最上部で減少した層準には葉理が見られず,左岸の泥層からは貝形虫殻がほとんど産出しなかった.陸上の津波堆積物中の生物相の分布について,生物相2が見られなかった右岸の最も海側の試料を除いて,3地点では生物相3の上に生物相2が重なって分布した.このことは,津波は初め浅い海底の堆積物をより多く運搬し,その後やや深い海底堆積物を多く運搬した可能性を示唆している.生物相の水平方向の分布については,右岸の3地点では生物相3が津波堆積物の大部分を占めたのに対し,左岸では生物相2が大部分で見られた.右岸は川を遡上した波が堤防を越流したのに対し,左岸は海から直接波が到達し,植物を多量に含む層や泥が堆積するような滞水した環境がしばらく継続したことが分かっている(笹本ほか,本セッション).今後,左岸と右岸における堆積相と生物相の差異を精査し,津波浸水計算や土砂移動計算と統合して考えることで,この地域の津波浸水の挙動と堆積物の形成プロセスが明らかになるだろう.