日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] 津波堆積物

2025年5月29日(木) 13:45 〜 15:15 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、中西 諒(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、座長:中西 諒(京都大学)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)

15:00 〜 15:15

[MIS11-06] 能登半島狼煙沖海底表層堆積物中の間隙水硫酸イオン濃度異常

*高取 元1井尻 暁1,2小林 祐大1佐川 拓也3土岐 知弘4鹿児島 渉悟5大塚 進平5張 勁5西尾 嘉朗6Zandvakili Zahra6朴 進午7 (1.神戸大学、2.海洋研究開発機構、3.金沢大学、4.琉球大学、5.富山大学、6.高知大学、7.東京大学)


キーワード:能登半島地震、流体、硫酸還元、メタンフラックス、地震性堆積物

はじめに
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では,これまでにも群発地震を引き起こしてきた地殻内部に分布する“流体”の関与が指摘されてきている。震源域周辺の海底には数多くの活断層が分布しており,巨大地震の直後であれば,それらの断層を経路とした流体の移動の影響が見られる可能性がある。また,大地震が起こると,強い揺れによる斜面崩壊や津波によって,イベント堆積物や急激な堆積環境の変化が地層中に記録されることがある。そこで,本研究では,地震発生から間もない2024年3月に能登半島地震の震源域周辺の海底から表層堆積物を採取し,それらの中に含まれる間隙水の化学組成及び同位体組成を調べ,深部流体の地震への関与及び地震による表層堆積物の変化について議論した。

採取方法と分析方法
2024年3月4~16日にかけて学術研究船「白鳳丸」(海洋研究開発機構)によって実施されたKH-24-E1次航海において、能登半島沖の震源域周辺の海底10箇所から,ピストンコアラー及びマルチプルコアラーを用いて表層堆積物を採取した。マルチプルコアラー(MC)で採取した堆積物の長さは6 cmから30 cmである。採取した表層堆積物から,船上で直ちに油圧圧搾機及びRhizon Samplerを用いて間隙水を抽出した。この間隙水試料について、主要溶存イオン濃度、溶存無機炭素(DIC)濃度、DICの炭素安定同位体比(δ13C-DIC)を測定した。

結果と考察
10地点で採取したMC試料のうち、能登半島狼煙沖で採取されたMC05(37º32.79′N, 137º25.97′E,水深438 m)でのみ, SO42-濃度が表層付近から深度とともに急激に減少し,海底下10 cm付近でほぼ枯渇した。その他のMC試料のSO42-濃度は海水とほぼ同じ約28 mMであり,深度方向に変化を示さなかった。
MC05では,SO42-濃度の減少に伴ってDIC濃度が増加し,δ13C-DIC ,Ca2+濃度が減少した。このSO42-濃度の減少、DIC濃度の増加は、嫌気環境下でのSO42-を使った堆積有機物の酸化(硫酸還元)や、下方から供給されるメタンの酸化(SO42-を使った嫌気的メタン酸化)が理由として考えられる。また、SO42-が枯渇する深度は硫酸塩-メタン遷移帯(SMTZ)とよばれ、SMTZ以深では、メタン生成古細菌によるメタン生成反応が卓越し,メタン濃度が上昇し始める。Ca2+濃度の減少は、硫酸還元によりアルカリ度が増加して炭酸カルシウムが沈殿したことによるものと考えられる。炭酸カルシウムの沈殿で消費されたDIC濃度の分を補正したDIC濃度の増加と、SO42-濃度の減少との比をとると、堆積有機物の酸化とメタンの酸化の両方が起こっている中で、メタンの酸化によるDIC生成がやや優勢であることを示した。
MC05 の表層1 cmでは,ラミナ構造が確認され,地震によって別の地域から運ばれてきた土砂が短時間で積もったものだと考えられる。MC05でのSO42-濃度減少の原因として,この土砂の堆積により有機物が短時間で大量に供給されるとともに堆積物が好気的な海水と遮断され,海底下での急激な硫酸還元を促進した可能性がある。堆積速度と深度方向のSO42-濃度の減少(濃度勾配)には相関関係があることが経験的に知られている。MC05において,SO42-濃度の勾配から堆積速度を見積もったところ、4.5 (cm/yr)であった。MC05の表層1 cmの層が令和6年能登半島地震による地震性堆積物であるとすると,地震発生から試料採取までの期間が69日であるため,この層の堆積速度は5.3 (cm/yr)である。この堆積速度は,SO42-濃度勾配から見積もった堆積速度と同程度であり,MC05におけるSO42-濃度の減少の要因として,短期間での地震性堆積物の堆積による可能性が考えられる。
一方,SO42-濃度の減少が全てメタン酸化によるものと仮定して、SMTZの深さから下方からのメタンフラックスを推定したところ、1.7×10-1 (mmol/cm2/yr)であった。このフラックスは,ガスハイドレート胚胎域として知られる Blake Ridgeでのメタンフラックス(最大1.8×10-3 (mmol/cm2/yr) ; Borowski., 1996)の約100 倍であり,堆積有機物の酸化によるSO42-消費が起こっていることを考慮しても,桁違いに大きいメタンフラックスが示唆される。したがって、MC05におけるSO42-濃度の減少の要因として,地下深部からメタンに富んだ流体が上昇した可能性も考えられる。

結論
能登半島沖の10地点で採取されたMC試料のうち狼煙沖のMC05のみSO42-濃度の急激な減少が見られた。狼煙沖でのみSO42-濃度が減少した原因として、地震の揺れによる急激な土砂の堆積,または地下深部からのメタンに富んだ流体の上昇の可能性が考えられる。しかし,現段階ではどちらが原因かは不明である。これを明らかにするために、今後,堆積物中の有機炭素量を測定する予定である。