16:45 〜 17:00
[MIS11-12] 津波堆積物研究から見た南海トラフ東部の“最大クラスの津波”
★招待講演
キーワード:最大クラスの津波、南海トラフ、津波堆積物、明応地震
津波堆積物から過去の津波の規模を復元する場合、堆積物の厚さよりも堆積時の海岸線から内陸への分布距離(津波の遡上距離の近似値)が重要である。波長が長い巨大津波は長時間にわたって遡上し続け、内陸奥深くまで浸水する。一方、津波堆積物の層厚は地面の凹凸や、津波で移動可能な物質の量によって大きく変わる。
遡上距離の調査には海岸からの奥行きが広い低地が必要で、北海道東部の低地(17世紀の巨大地震;例えばNanayama et al., 2003)や仙台平野(869年貞観地震;例えばSawai et al., 2012)では、歴史津波よりも遡上距離が非常に大きい巨大津波が堆積物の研究から解明されてきた。一方、南海トラフ沿岸では奥行きの広い平野がほとんどなく、津波堆積物から過去の津波の規模を復元することが難しい。
南海トラフ沿岸で過去の津波の遡上距離を比較できそうなのは静岡県の浜松市西部の平野がほぼ唯一の例である。ここでは複数の湿地跡から、約6000年前にまで遡るウォッシュオーバー堆積物(海岸の砂丘などを乗り越えた津波などの大波が残した地層)が複数見つかっている(例えば佐藤ほか,2016;Fujiwara et al., 2020)。浜松平野では約6000年前には海岸線が現在より約4 km内陸にあり、その後の堆積作用で海岸線が次第に海側へ移動して平野が広がった。
現在の海岸から約3. 8 km内陸の湿地跡では約3200年前より古いウォッシュオーバー堆積物だけが見つかり、現海岸から約2.1 km程度の湿地跡では役2100-1200年前より古いものだけ、現在の海岸から1.3 kmの湿地跡では1498年明応地震より古いものが見つかる。また、個々の調査地点では、ウォッシュオーバー堆積物は上位(新しい)のものほど薄く、細粒になる傾向がある。若い時代のウォッシュオーバー堆積物ほどその分布が海側へシフトしており、浜松平野が海側へ拡大するにつれて、津波などの大波が内陸奥深くまでは届かなくなったと考えることができる。つまり、過去6000年程度では極端に遡上距離が大きな津波が発生した証拠はない(Fujiwara et al., 2020)。
上記の1498年明応地震による津波堆積物(藤原ほか,2023)は例外で、過去2500年間のウォッシュオーバー堆積物の中で最も新しいが、他のものより顕著に厚く粗粒である。これは明応地震当時の海岸線や河川から1.2 km以上も離れた場所にあった池跡で行った群列ボーリングで確認されたもので、少なくとも東西600 m×南北100 mの範囲に連続して分布しており、比較的淘汰の良い中粒砂を主とし層厚は10-15 cmもある。明応津波は過去6000年間に発生した他の津波よりも例外的に大きかった可能性がある。ただし、明応津波の痕跡はこの地点より内陸では未確認で、浸水距離が不明である。明応津波を南海トラフ東部で最大クラスの津波と考えてよいかは、さらに調査地点を増やして遡上範囲を復元することがカギである。
引用文献
Fujiwara, O. et al., 2020. Earth-Science Reviews 210; https://doi.org/10.1016/j.earscirev.2020.103333
藤原 治ほか,2023.地学雑誌132,309-325; doi:10.5026/jgeography.132.309
Nanayama, F. et al., 2003. Nature 424, 660-663; https://doi.org/10.1038/nature01864
佐藤善輝ほか,2016. 第四紀研究55, 17-35
Sawai et al., 2012. Geophys. Res. Lett. 39, L21309, doi:10.1029/2012GL053692
遡上距離の調査には海岸からの奥行きが広い低地が必要で、北海道東部の低地(17世紀の巨大地震;例えばNanayama et al., 2003)や仙台平野(869年貞観地震;例えばSawai et al., 2012)では、歴史津波よりも遡上距離が非常に大きい巨大津波が堆積物の研究から解明されてきた。一方、南海トラフ沿岸では奥行きの広い平野がほとんどなく、津波堆積物から過去の津波の規模を復元することが難しい。
南海トラフ沿岸で過去の津波の遡上距離を比較できそうなのは静岡県の浜松市西部の平野がほぼ唯一の例である。ここでは複数の湿地跡から、約6000年前にまで遡るウォッシュオーバー堆積物(海岸の砂丘などを乗り越えた津波などの大波が残した地層)が複数見つかっている(例えば佐藤ほか,2016;Fujiwara et al., 2020)。浜松平野では約6000年前には海岸線が現在より約4 km内陸にあり、その後の堆積作用で海岸線が次第に海側へ移動して平野が広がった。
現在の海岸から約3. 8 km内陸の湿地跡では約3200年前より古いウォッシュオーバー堆積物だけが見つかり、現海岸から約2.1 km程度の湿地跡では役2100-1200年前より古いものだけ、現在の海岸から1.3 kmの湿地跡では1498年明応地震より古いものが見つかる。また、個々の調査地点では、ウォッシュオーバー堆積物は上位(新しい)のものほど薄く、細粒になる傾向がある。若い時代のウォッシュオーバー堆積物ほどその分布が海側へシフトしており、浜松平野が海側へ拡大するにつれて、津波などの大波が内陸奥深くまでは届かなくなったと考えることができる。つまり、過去6000年程度では極端に遡上距離が大きな津波が発生した証拠はない(Fujiwara et al., 2020)。
上記の1498年明応地震による津波堆積物(藤原ほか,2023)は例外で、過去2500年間のウォッシュオーバー堆積物の中で最も新しいが、他のものより顕著に厚く粗粒である。これは明応地震当時の海岸線や河川から1.2 km以上も離れた場所にあった池跡で行った群列ボーリングで確認されたもので、少なくとも東西600 m×南北100 mの範囲に連続して分布しており、比較的淘汰の良い中粒砂を主とし層厚は10-15 cmもある。明応津波は過去6000年間に発生した他の津波よりも例外的に大きかった可能性がある。ただし、明応津波の痕跡はこの地点より内陸では未確認で、浸水距離が不明である。明応津波を南海トラフ東部で最大クラスの津波と考えてよいかは、さらに調査地点を増やして遡上範囲を復元することがカギである。
引用文献
Fujiwara, O. et al., 2020. Earth-Science Reviews 210; https://doi.org/10.1016/j.earscirev.2020.103333
藤原 治ほか,2023.地学雑誌132,309-325; doi:10.5026/jgeography.132.309
Nanayama, F. et al., 2003. Nature 424, 660-663; https://doi.org/10.1038/nature01864
佐藤善輝ほか,2016. 第四紀研究55, 17-35
Sawai et al., 2012. Geophys. Res. Lett. 39, L21309, doi:10.1029/2012GL053692