日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] 津波堆積物

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、中西 諒(国立研究開発法人産業技術総合研究所)

17:15 〜 19:15

[MIS11-P08] 別府湾北岸における古環境復元と地震性地殻変動の検討

*佐藤 史都1,2山田 昌樹1谷川 晃一朗2横山 祐典3宮入 陽介3 (1.信州大学、2.産業技術総合研究所、3.東京大学)


キーワード:古環境復元、津波堆積物、珪藻分析、放射性炭素年代測定、別府湾

別府湾の海底活断層による津波履歴を調べるために,陸上の数地域で津波堆積物調査が行われている.このうち北岸に位置する大神(おおが)湿地は,標高約4 m,幅約85 m,奥行き約150 mの耕作放棄地であり,高さ約5 mの砂州を隔てて砂浜に面している.ここでは2020年にジオスイサーを用いた掘削調査が行われ,最大1.8 mの堆積物コアが7本採取されている(山田ほか,2022,JpGU).すべてのコアは主に有機質泥層からなるが,海側4本のコアの最下部には泥質砂層がみられる.また,すべてのコアの深度1 m付近には基底面が明瞭な砂層が認められ,放射性炭素年代測定から6440~6620 cal. yr BPに堆積したとみられる.この砂層は内陸方向に薄層化・細粒化することから海側から運ばれたイベント堆積物であると推定されている.さらに,研究地域周辺は歴史上台風や高潮による浸水記録がなく,洪水を発生させるような河川から離れていることから,津波によって形成された可能性が高いと解釈されている.この砂層の上位には,肉眼では識別が困難だが,CT画像では上下層と容易に識別される層厚15 cm程度の砂質泥層が連続して存在するが,下位の砂層と同じイベントで堆積したものなのか,あるいはイベント後の環境変化や別の浸水イベントによるものなのかについては未解明のままである.津波を伴うような巨大地震が発生した際には,大規模な地殻変動によって沿岸環境に大きな変化が生じることがあり,これを検出することも断層の活動履歴を考察するうえで重要である.本研究では,堆積物コアに対して珪藻化石の群集解析および追加の放射性炭素年代測定を実施することで,珪藻群集の観点からイベント堆積物の形成要因を推定すると共に,過去数千年間の古環境復元から,湿地における地震性地殻変動の有無について検討することを目的とする.

 本研究では,海岸線から約70 mの地点で掘削された堆積物コアの珪藻化石分析を行った.堆積物コアは,下位から泥質砂層(深度約140~160 cm),有機質泥層(約60~140 cm),耕作土(約0~60 cm)で構成されている.有機質泥層中には砂層(89~111 cm)が認められ,その直上に肉眼での識別が困難な砂質泥層(84~89 cm)が存在する.最下位の泥質砂層からはPseudopodosira kosugiiが多産した.この種は,縄文海進期の日本沿岸に広く分布しており,古海面指標として扱われる(佐藤,2014).また,その上位の有機質泥層では,Pseudostaurosira属(淡水~汽水生種),もしくはStauroforma属(淡水生種)が優占した.泥質砂層の直上からは6800~7170 cal. yr BPの年代値が得られたことから,大神湿地では縄文海進最盛期の高海面期に標高2~3 m付近で最下部の泥質砂層が堆積し,その後の相対的な海面低下にともなって潮間帯から陸上の淡水環境に遷移したと考えられる.

津波堆積物と推定されている砂層では,淡水生種のEunotia属や海水生種のPalaria sulcataなど様々な環境に生育する種が産出しており,海水流入によって異地性の海水生種が混在して堆積したと推定される.一方,その上位の砂質泥層の珪藻化石群集は,上位の有機質泥層と類似しており,何らかのイベントを示唆するような異地性と考えられる珪藻はみられなかった.したがって,砂層とは異なり海水流入によって形成された可能性は低いと考えられる.また,砂層とその直上の砂質泥層を境に,有機質泥層の優占種がPseudostaurosira属(淡水~汽水)からStauroforma属(淡水)に急激に切り替わることから,どちらかの層の堆積後に突発的に淡水の影響が強まった可能性も考えられる.別府湾の海底活断層が活動した際,別府湾北岸は相対的に隆起することが示されており(地震本部,2005),珪藻化石群集が示す急激な変化はこれと矛盾しない.したがって,別府湾の北岸に位置する大神湿地で掘削された堆積物コアは,津波堆積物に加えて地震性地殻変動による急激な環境変化を記録している可能性がある.