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[MIS11-P10] 深層学習に基づく津波堆積物の逆解析手法:中規模津波を対象とした推定精度の検証

キーワード:津波堆積物、逆解析手法、機械学習、2024年能登半島地震
津波堆積物の逆解析手法は,堆積物の層厚や粒度分布の情報を基に津波の水理条件(浸水距離,流速,浸水深など)を復元する手法であり,観測記録や歴史記録が乏しい津波規模の推定に有効である.近年では,津波水理条件の定量的な推定を行うために,深層学習を用いた津波堆積物の逆解析手法FITTNUSS-DNN(Mitra et al., 2020)が提案された.本手法は,2011年東北地方太平洋沖地震津波や2004年インド洋大津波などの大規模津波に適用され,逆解析による復元値を観測記録と比較することで手法の検証が行われてきた(Mitra et al., 2020,2021,2024).一方で,中規模津波を対象とした検証は,2006年ジャワ島南西沖地震津波の事例に限られる(Batubo et al., 2024).大規模津波と比較して,中規模津波は波高や浸水距離が小さく,地形の影響を受けやすいと考えられる.実際に,中規模津波を対象としたBatubo et al. (2024) の事例では約9.5%の過小推定が見られている.そのため,特に起伏の大きい地域や建物等が多い場所において,平坦な地形を仮定しているFITTNUSS-DNNの復元値には,実際の水理条件との乖離が生じる可能性がある.そこで,2024年能登半島地震によって発生した中規模津波を対象として,野外調査等による観測値とFITTNUSS-DNNによる復元値を比較した.これにより,中規模津波でも十分な精度で逆解析の結果が得られるのかを検証することが本研究の目的である.
野外調査では,逆解析に使用する津波堆積物の層厚・粒度分布データを取得するため,能登半島北東部に位置する石川県能登町布浦地域において海岸線と直交する測線A(長さ208 m)と測線B(長さ205 m)を設定した.各測線に沿って地形測量を行い,津波堆積物の掘削及びサンプリングを実施した.各掘削地点の堆積物試料については,Retsch Technology社製CAMSIZERを用いて粒度分析を実施した.測線Aでは層厚5.6~1.9 cm,測線Bでは層厚7.8~0.7 cmの津波堆積物が見られた.また,測線A全地点と測線B一部地点の津波堆積物には,植物片の集積層を境界とする2層の砂質堆積物が観察された.このようなサブユニットは,押し波と引き波による堆積あるいは複数回の津波浸水の可能性を示唆している.津波痕跡の調査では,ウォーターマークから浸水深のデータを取得した.測線始点付近の建物には地面からの高さ1.75~1.05 mの範囲にウォーターマークが観察された.
逆解析では,まず解析対象となる能登町布浦地域における津波水理条件を十分にカバーする範囲で教師データを作成し, FITTNUSS-DNN逆解析モデルのトレーニングを行った.津波堆積物の人工データに対してトレーニングされた逆解析モデルの損失関数を評価した結果,先行研究(例えば,Mitra et al., 2020;Batubo et al., 2024)と同程度の値を示した.これにより,本研究のモデルが調査地域の水理条件を推定する十分な能力を有していることが確認された.本モデルを用いて両測線の津波堆積物データを解析した結果,測線Aでは浸水距離293±1.95 m,流速1.70±0.02 m/s,浸水深1.27±0.00 m,測線Bでは浸水距離326±16.2 m,流速3.31±0.13 m/s,浸水深1.29±0.02 mが復元された.逆解析結果の検証として,空中写真判読による浸水距離(日本地理学会,2024)と復元された浸水距離の比較を行った.測線Aでは復元値293±1.95 mに対して浸水距離330 m,測線Bでは復元値326±16.2 mに対して浸水距離365 mであった.
本研究では,逆解析手法の信頼性評価として浸水距離の精度を先行研究と比較した.大規模津波に対する先行研究では,2011年東北地方太平洋沖地震津波や2004年インド洋大津波の事例において,観測値に対して復元値の過小または過大が3~15%程度生じている(Mitra et al., 2020,2021,2024).本研究で復元された浸水距離の乖離は,測線Aと測線Bでそれぞれ11.2%,10.7%の過小推定となり,先行研究の結果と類似している.これにより,本研究の逆解析手法が中規模津波に対しても,大規模津波と同程度の復元精度を持つことが示唆された.今後の研究では,復元値の誤差がどのような要因に起因しているかを明らかにすることで,より正確な水理条件及び津波規模の推定が可能になると考えられる.
野外調査では,逆解析に使用する津波堆積物の層厚・粒度分布データを取得するため,能登半島北東部に位置する石川県能登町布浦地域において海岸線と直交する測線A(長さ208 m)と測線B(長さ205 m)を設定した.各測線に沿って地形測量を行い,津波堆積物の掘削及びサンプリングを実施した.各掘削地点の堆積物試料については,Retsch Technology社製CAMSIZERを用いて粒度分析を実施した.測線Aでは層厚5.6~1.9 cm,測線Bでは層厚7.8~0.7 cmの津波堆積物が見られた.また,測線A全地点と測線B一部地点の津波堆積物には,植物片の集積層を境界とする2層の砂質堆積物が観察された.このようなサブユニットは,押し波と引き波による堆積あるいは複数回の津波浸水の可能性を示唆している.津波痕跡の調査では,ウォーターマークから浸水深のデータを取得した.測線始点付近の建物には地面からの高さ1.75~1.05 mの範囲にウォーターマークが観察された.
逆解析では,まず解析対象となる能登町布浦地域における津波水理条件を十分にカバーする範囲で教師データを作成し, FITTNUSS-DNN逆解析モデルのトレーニングを行った.津波堆積物の人工データに対してトレーニングされた逆解析モデルの損失関数を評価した結果,先行研究(例えば,Mitra et al., 2020;Batubo et al., 2024)と同程度の値を示した.これにより,本研究のモデルが調査地域の水理条件を推定する十分な能力を有していることが確認された.本モデルを用いて両測線の津波堆積物データを解析した結果,測線Aでは浸水距離293±1.95 m,流速1.70±0.02 m/s,浸水深1.27±0.00 m,測線Bでは浸水距離326±16.2 m,流速3.31±0.13 m/s,浸水深1.29±0.02 mが復元された.逆解析結果の検証として,空中写真判読による浸水距離(日本地理学会,2024)と復元された浸水距離の比較を行った.測線Aでは復元値293±1.95 mに対して浸水距離330 m,測線Bでは復元値326±16.2 mに対して浸水距離365 mであった.
本研究では,逆解析手法の信頼性評価として浸水距離の精度を先行研究と比較した.大規模津波に対する先行研究では,2011年東北地方太平洋沖地震津波や2004年インド洋大津波の事例において,観測値に対して復元値の過小または過大が3~15%程度生じている(Mitra et al., 2020,2021,2024).本研究で復元された浸水距離の乖離は,測線Aと測線Bでそれぞれ11.2%,10.7%の過小推定となり,先行研究の結果と類似している.これにより,本研究の逆解析手法が中規模津波に対しても,大規模津波と同程度の復元精度を持つことが示唆された.今後の研究では,復元値の誤差がどのような要因に起因しているかを明らかにすることで,より正確な水理条件及び津波規模の推定が可能になると考えられる.