日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 山の科学

2025年5月29日(木) 10:45 〜 12:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、西村 基志(信州大学 先鋭領域融合研究群 山岳科学研究拠点)、今野 明咲香(常葉大学)、座長:今野 明咲香(常葉大学)、西村 基志(信州大学 先鋭領域融合研究群 山岳科学研究拠点)

11:00 〜 11:15

[MIS12-08] 東日本の多雪山地における亜高山帯針葉樹林分布を制約する地形条件

真庭 志歩1、*池田 敦2佐々木 夏来3 (1.国際航業、2.筑波大学、3.明治大学)

キーワード:オオシラビソ、多雪山地、偽高山帯、GIS、Maxent

東日本の日本海側の山地ではオオシラビソが亜高山帯針葉樹林を形成している。しかし,一部の山地は針葉樹林帯を欠き,亜高山帯の標高の大部分は草やササ,低木で覆われている。偽高山帯と呼ばれるこの植生帯の成因として,降雪量が多すぎて針葉樹が生育できないためと当初は考えられていた。その後,最終氷期以降の気候変動が植生の入れ替わりを場所によって異なる形で制御したと考えられるようになった。しかし,オオシラビソの分布域全体にわたって気候と地形を同時に解析した研究はない。そこで本研究では,中部地方から東北地方にかけての山地でオオシラビソが生息しやすい地形条件について検討した。次に,地形的な指標値を種の潜在分布域を示す機械学習モデルに入力して,偽高山帯と亜高山帯樹林が分離できるか検証した。分布域全体を代表しうる28の山について,デジタル植生図と10メートルメッシュの数値標高モデルを用いて分析した。それぞれの山について,標高,斜面方位,斜面傾斜それぞれと植生の関係を調べた。また各山を代表する地形-気候条件として,亜高山帯相当の温度領域の高低差,卓越する斜面傾斜,最深積雪の気候値を求め,オオシラビソ林の占有面積と対比させた。オオシラビソは24の山において緩斜面に集中するように分布した。オオシラビソ林が優占する山の斜面傾斜中央値は20°を下回ることが多いのに対し,偽高山帯のある山ではそれが30°を超えていた。最大エントロピーモデル(Maxent)に,東日本全域について250メートルメッシュで整えた,温量指数(WI),降雨量,最深積雪,斜面傾斜,斜面曲率,斜面方位を説明変数として入力し,それらがオオシラビソの分布に与える影響を検討した。6つの説明変数を同時に入力したところ,寄与率が10%を超える変数はWI(86%)と最深積雪(14%)のみであった。一方,亜高山帯相当の温度領域に限った計算では,最深積雪(寄与66%)と斜面傾斜(20%)の重要性が示された。オオシラビソが緩斜面を好むことは,オオシラビソは雪圧の大きな斜面には生息できず偽高山帯が広がったという説と,後氷期にオオシラビソが湿地の多いなだらかな山地にしか生息地を拡大できなかったという説のいずれとも矛盾しない。なお,Maxentに斜面傾斜を説明変数に加えると,オオシラビソの存在しない多くの山が再現できたが,いくつかの山では偽高山帯が広がるにもかかわらず,オオシラビソの潜在的分布確率が高かった。このことは,偽高山帯の説明変数として現在の気候と地形条件のみでは不十分なことを示すのかもしれない。