11:40 〜 12:00
[MIS12-10] 積雪環境の変化が引き起こす積雪生態系への影響:日本列島山岳域の季節積雪および越年性雪渓における雪氷藻類群集の時空間変動
★招待講演
キーワード:雪氷藻類、季節積雪、越年性雪渓、生態系
日本列島山岳域の融雪期の積雪上には,雪氷藻類と呼ばれる光合成微生物が生息している.雪氷藻類は,積雪中で繁殖を行い,細胞中に含まれる色素によって,積雪表面をさまざまな色に着色する彩雪現象を引き起こす.山岳域の積雪は,夏には消滅する季節積雪と年を越えて維持される越年性雪渓に分けられ,それぞれ物理的性質が異なる.さらに季節積雪は,山麓の樹林帯と森林限界を超えた高山帯においても大きく環境が異なる.山岳域の積雪の維持機構は,近年の地球温暖化に影響を受け,将来それぞれの積雪分布は大きく変化することが予想されている.しかしながら,積雪環境と彩雪現象との詳しい関係についてはわかっていない.そこで本研究では,日本列島山岳域の季節積雪と越年性雪渓における積雪環境と彩雪現象との関係を明らかにし,将来の気候変動に伴う積雪環境の変化が引き起こす積雪生態系への影響を考察することを目的とした.代表的な季節積雪である山形県月山の積雪においては,高山帯では赤雪が,樹林帯では緑雪が出現した.さらに,雪氷藻類バイオマスが有意に高い範囲は,落葉広葉樹が開葉している範囲と,積雪中の栄養塩濃度が有意に高い範囲に一致することがわかった.代表的な越年性雪渓である富山県立山の剱沢雪渓においては,夏季には赤雪や橙雪が出現し,季節積雪が消失した後,秋季にかけて黄緑雪が出現した.雪氷藻類バイオマスは,夏季に稜線付近の上流部で増加した後,秋季に谷底の下流部で増加した.高山帯,樹林帯,雪渓の各積雪環境で優占した雪氷藻類は,それぞれ世界各地の雪氷環境で報告されている種と近縁であり,それぞれの環境条件に一致していることが示された.以上の結果は,彩雪現象の分布には,季節積雪においては落葉広葉樹の開葉に伴う栄養塩の供給と日射の遮蔽効果が強く関わっていること,越年性雪渓においては秋季特有の積雪条件や太陽高度および谷地形に伴う日照時間の短縮が強く関わっていることを示唆している.さらに,各積雪環境で優占する藻類は,それぞれ供給過程が異なり,特有の光条件,栄養条件,積雪状態に応じて繁殖していることが示された.現在進む地球温暖化による気温上昇は,日本列島の積雪環境に大きく影響を与えると考えられているが,その変化は地域や標高によって異なる.将来,中低山の樹林帯の緑雪や高山帯の赤雪は出現時期や出現範囲が縮小する一方で,高標高の高山帯の赤雪の出現範囲は拡大し,越年性雪渓の彩雪は出現時期が限定されると予想される.さらに⻑期的には,地球温暖化は山岳域の植生の変化を引き起こし,樹林帯や高山帯の積雪の藻類群集も変化していくと推定される.日本列島山岳域の積雪生態系にはまだ未解明な点が多く残されているが,気候変動に対する将来予測のために,さらなる彩雪現象の理解が必要である.