日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 山の科学

2025年5月29日(木) 10:45 〜 12:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、西村 基志(信州大学 先鋭領域融合研究群 山岳科学研究拠点)、今野 明咲香(常葉大学)、座長:今野 明咲香(常葉大学)、西村 基志(信州大学 先鋭領域融合研究群 山岳科学研究拠点)

12:00 〜 12:15

[MIS12-11] 日本各地の積雪域における雪氷藻類とツボカビの宿主-寄生者関係

*中西 博亮1、高階 眞丈1、瀬戸 健介1、植竹 淳2、松﨑 令3竹内 望4鏡味 麻衣子1 (1.横浜国立大学、2.北海道大学、3.大阪工業大学、4.千葉大学)


キーワード:雪氷藻類、ツボカビ、宿主-寄生者関係、地理的分布、雪氷生態系

氷河や積雪など雪氷環境において、環境DNA解析により多様な系統の菌類ツボカビが検出されており、その中には雪氷環境に特異的な環境DNA配列のみで構成される系統群「Snow Clade」も含まれている。ツボカビは、湖沼や海洋においては様々な藻類に寄生していることが知られており、寒冷環境においても雪氷藻類に寄生する様子が確認されている。演者らは世界に先駆けてその分子系統解析に成功し、それらがSnow Cladeの実体であり、メソキトリウム目(Mesochytriales)内の新規系統であることを明らかにした (Nakanishi et al., 2023, Front. Microbiol.) 。しかしこれらのツボカビの宿主となる雪氷藻類の系統は特定されておらず、宿主-寄生者の対応関係はわかっていない。また、雪氷環境は地域ごとに隔離されているが、宿主-寄生者の組み合わせは地域ごとに固有なのか、あるいは離れた地域でも同じ宿主-寄生者が出現するのかも不明である。
本研究では、日本各地の積雪域におけるツボカビと宿主(雪氷藻類)に対し、宿主-寄生者1ペアごとにDNA解析をすることで、対応関係を解明した。さらに、国内複数地域の積雪試料を用いてDNAメタバーコーディング解析を行うことで、宿主-寄生者関係にある雪氷藻類とツボカビの地理的分布を解析した。
宿主-寄生者の対応関係の解明には、国内4地域(北海道大学苫小牧研究林(北海道)、八甲田山(青森県)、月山(山形県)、カヌマ沢渓畔林試験地(岩手県))の積雪試料を用いた。採取した積雪試料を顕微鏡で観察し、宿主(雪氷藻類)-寄生者(ツボカビ)を1ペアずつ単離してDNAを抽出した。次に、新規設計した藻類特異的プライマーと既存の菌類特異的プライマーを用いて雪氷藻類およびツボカビの18S rDNA領域を個別にPCRで増幅し、それぞれの塩基配列を決定した。その後、最尤法分子系統解析によって両者の系統的位置を特定し、対応関係を解明した。
雪氷藻類とツボカビの地理的分布の解明には、上記の4地域の積雪に加え、東北地方3地域、関東地方2地域、中部地方2地域で積雪を採取し、合計11地域の積雪試料を用いた。これらの試料を濾過濃縮し、QIAGEN DNeasy PowerSoil Pro Kitを用いてDNAの抽出を行った。真核生物ユニバーサルプライマー(528F/706R)を用いて18S rDNAのバーコード領域をPCRで増幅し、高速並列シーケンサー(NovaSeq, Illumina)を用いて配列を決定した。得られた遺伝子配列は、RパッケージDADA2を用いてユニークな配列(Amplicon Sequence Variants: ASVs)にまとめた。その後NCBI BLAST検索により、宿主-寄生者関係にある雪氷藻類とツボカビに対応するASVを特定し、地理的分布を解析した。
その結果、国内4地域(苫小牧研究林、八甲田山、月山、カヌマ沢渓畔林試験地)の積雪試料において、緑藻クロロモナス属(Chloromonas)に寄生するメソキトリウム目6系統のツボカビが検出された。各地域における検出系統数は、月山から3系統、八甲田山から2系統、カヌマ沢渓畔林試験地および苫小牧研究林からそれぞれ1系統であった。6系統のうち5系統は1つの地域からのみ検出され、各地域に固有のツボカビが存在していることが示唆された。6系統のツボカビの宿主を特定した結果、月山、八甲田山、カヌマ沢渓畔林試験地において検出された4系統のツボカビがC. miwae を共通して宿主としていた(月山:Mesochytriales sp. 1, sp. 2、八甲田山:Mesochytriales sp. 1, sp. 4、カヌマ沢渓畔林試験地:Mesochytriales sp. 5)。また、月山と八甲田山の両方で検出されたツボカビ(Mesochytriales sp. 1)はC. miwaeに加えてC. fuhriiも宿主としていた。国内11地域の積雪を用いたDNAメタバーコーディング解析の結果、C. miwaeC. fuhrii はそれぞれ10地域、11地域に分布する一方、Mesochytriales spp. 1~5はいずれも宿主より狭く、2地域から7地域に限定されていた。
一方、苫小牧研究林から検出されたMesochytriales sp. 6の宿主は、他の地域では検出されなかったクロロモナス属の新規系統(Chloromonas spp. AおよびB)であった。DNAメタバーコーディング解析の結果、これらの宿主および寄生者の検出地域数は1地域から4地域と限定的であり、苫小牧研究林から検出された宿主-寄生者は広域に分散していないと考えられた。
以上の結果から、日本各地の積雪域では、ツボカビと緑藻クロロモナス属の宿主-寄生者関係は地域ごとに異なることが明らかとなった。これはツボカビが宿主とともに長距離を移動するのではなく、各地域で生活史を完結し、独立した個体群を維持している可能性を示唆するものである。一方、複数の宿主を利用できるツボカビも存在することから、系統によって宿主範囲が異なる可能性がある。今後はツボカビの宿主特異性や、地域固有性の形成要因を解明することが課題となる。