日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 山の科学

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、西村 基志(信州大学 先鋭領域融合研究群 山岳科学研究拠点)、今野 明咲香(常葉大学)

17:15 〜 19:15

[MIS12-P01] 飛騨山脈南部における震度観測ネットワークの構築に向けて (2)

*大見 士朗1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:飛騨山脈、群発地震、震度情報、震度計ネットワーク

1.はじめに
飛騨山脈は、標高3190mの奥穂高岳を代表とする3000mを超す山々が聳える日本の代表的な山岳地帯である。その南部に位置する奥飛騨・上高地地区は日本国内有数の山岳観光地であるが、ここには活火山焼岳が位置することに加えて頻繁に群発地震が発生するなど、活発な地殻活動が認められる地域でもある。本研究は、2020年4月から7月にかけて当地域で発生した多数の有感地震を含む群発地震を受けて、その地震情報の発信の在り方について検討するために、当初、2022年4月よりの2年間、京都大学防災研究所(以下、防災研)の共同研究の枠組みで実施し、その終了後も検討を続けているものである。ここでは、その後の進捗状況と今後の課題について報告する。

2.研究の背景
上述の2020年4月から7月にかけての群発地震では、防災研による震源域直上での現地観測によれば、多くの有感地震において気象庁の近傍の観測点における公式震度よりも最大2階級ほど大きな揺れが観測された。これは、当地域が急峻な山岳地帯であり、観測点密度が低いために震源域近傍の震度を充分に把握できないことが主たる原因である。この群発地震の後に、地域の関係者と「不足していた情報は何か」という観点からの情報交換を行ったところ、(1)気象庁の情報が入手できるまでに時間を要し、現地で起きている事象を即時に把握できない(一般住民の方々)、(2)登山者に落石等の可能性の情報を発出するための迅速かつ面的な震度情報が欲しい(山小屋関係者)、というような声が聞かれた。これに対応するための一案としては気象庁等の公的な観測点の増設が挙げられるが、これに基づく情報は公開が原則であることから、風評被害等の遠因となる可能性を否定できず、導入のための地域の合意を得ることは必ずしも容易ではない。そのため、公的な地震情報に依存せずに、いわば公助ではなく自助により独自の情報を迅速に入手する可能性の検討が必要であると考えた。

3.研究目的と意義
このように、本研究の目標は、岐阜県奥飛騨温泉郷および長野県上高地周辺にて、安価な震度計からなる持続可能な震度観測ネットワークを整備し、独自の震度情報を関係者間で共有する枠組みを構築することである。また、加えて、その情報発信の在り方の意思決定とシステムの運用を地域の利害関係者による組織が担うことを最終的には目指している。これが実現すれば、風評被害等の原因を作らずに、各利害関係者の必要に応じた高密度の地震情報(震度分布情報)を迅速に得ることが可能になり、当地域の地震防災に資することが期待される。

4.現在の達成状況
現在、我々はAnalog Devices社の3軸MEMS加速度計であるADXL355型センサと、小型のシングルボードコンピュータ(SBC)であるRaspberryPiを組み合わせた、ネットワーク接続可能な簡易震度計(本稿では、以下、震度計と称する)を製作し(Fig.1)、2024年末現在、飛騨山脈の脊梁部を含む地域に10数台を展開して飛騨山脈震度観測網として試験観測を実施している。2023年当時に能登半島の群発地震発生域で実施していた、本研究の震度計と、ミツトヨ製JEP-8A3型強震計による並行観測で得られた計測震度の比較によれば、双方の機器による計測震度は、少なくとも震度5相当程度までの揺れについてはよく一致しており、ADXL355を使用した震度計は震度情報を発信するための充分な精度を有していると考えられた(Fig.2)。Fig.3には、本観測網によって作成された震度分布マップの例として、2024年1月1日に発生した能登半島地震本震の、当地域での震度分布を示す。稼働中であった観測点では、いずれも震度4相当の揺れを記録している。

5.今後の課題
現状では、データ収集の指示や面的な震度分布の作成・公開等は、京都大学宇治キャンパスの防災研に設置されたサーバが担っており、運用は著者らが担当している。将来的には、この震度観測網の運用を地域社会の利害関係者の組織に担当していただくことが望ましいことから、現在防災研内で運用しているサーバを学外に出すためのシステムの技術的な改変や、その運用技術の移転の検討等を行う。また、今後は、地域社会でのそれぞれの立場が異なる利害関係者を交えて、このような地震情報の発信方法やその情報共有の在り方の議論を綿密に丁寧に進めていく必要があり、リスクコミュニケーション等の社会科学的なノウハウが必須であることから、専門家を招いて議論と実装を進めていくことを目指す。

謝辞
機器設置に関しては、自然公園財団上高地支部、北アルプス山小屋交友会、松本市アルプスリゾート整備本部などのご関係者の協力をいただいています。記してお礼申し上げます。