17:15 〜 19:15
[MIS12-P02] 苗場火山の山頂および中腹に位置する湿原の成立時期と維持環境
キーワード:山岳湿原、ヒプシサーマル期、涵養水、第四紀火山
日本において第四紀火山は,山岳湿原の重要な形成場の一つとなっている。おもに,噴火口や地すべり移動体,そして緩やかな火山原面上に湿原が形成される。火山原面上では,雪の吹き溜まりだけでなく,積雪深の比較的小さい山麓部や,山頂付近の平坦面にも湿原が存在することも知られている。本研究では,苗場山の溶岩台地上に位置し,標高の異なる小松原湿原および苗場山湿原を対象として,湿原の堆積物分析から湿原の形成時期を明らかにするとともに,土壌水分特性および気温の観測結果から湿原の成立環境について検討した。
苗場山は長野県と新潟県の県境に位置する第四紀成層火山で,火口は侵食カルデラで失われている。小松原湿原は北へ流下する溶岩台地の中腹に位置する湿原群で,苗場山湿原は山頂部の南斜面に広がる平坦地を覆うように広がる湿原群である。本研究では,苗場山湿原の4か所,小松原湿原の3か所でハンドオーガによる掘削調査と,泥炭層および有機物層の放射性炭素年代測定を実施した。さらに,小松原湿原の下ノ代(標高1334 m)および苗場山湿原の龍ノ峰(標高2052 m)の泥炭層内(4 cm深,8 cm深)で,地温,土壌水分,電気伝導度を,地上 5 mで気温を観測した。観測期間は,小松原湿原で2020年11月26日~2021年10月1日,苗場山湿原で2020年 10月20日~2022年8月6日であった。土壌水分の変化は,津南に設置されたアメダスの降水量データと関連付けて議論した。
泥炭層および有機物層の放射性炭素年代測定結果,湿地の成立時期が気候変化に同期していることが認められた。小松原湿原では,上ノ代と下ノ代で,約5000~4500年前,中ノ代で約3300年前に泥炭の堆積が開始した。苗場山湿原では約7000~4500年前から泥炭の堆積が開始されており,山頂に近い2地点の方が早い時期に湿原が形成されていた。日本の多雪地域では,多くの山岳湿原で泥炭の堆積開始時期が,12000~7000年前に集中する。苗場山の湿原も,他地域と同様に,ヒプシサーマル期およびその後の温暖湿潤な気候下で形成されたことが明らかとなった。
泥炭層内の地温と土壌水分観測の結果,および湿原の立地を考慮すると,苗場山湿原龍ノ峰と小松原湿原下ノ代では,湿原の成立条件が異なると考えた。地温データから推定した積雪期間は11月下旬~5月中下旬で,両湿原で大きな差はなかった。8 cm深の土壌水分量と電気伝導度は,主に,積雪期と無積雪期に対応して変化していた。電気伝導度は,小松原湿原で,積雪開始直後から上昇し,融雪完了と同時に急激に低下して,変化量は大きかったが,苗場山湿原は積雪後の上昇率も変化量もわずかだった。4 cm深のデータでは,積雪だけでなく降水に対応した変化が認められた。小松原湿原では,無降雨日が連続した場合に,土壌水分量の急激な減少が認められ,降水時に電気伝導度は低下する傾向があった。苗場山湿原でも無降雨期間に対応した土壌水分の減少が認められたが,減少量は小さく,頻度も低かった。一般に電気伝導度は,天水よりも地下水で高い値を示す。したがって,観測結果は,小松原湿原では地下水,苗場山湿原では天水の寄与が高いことを示唆すると考えられる。
背後の広い斜面からの多量な地下水の供給が見込まれる小松原湿原に対し,苗場山湿原は天水涵養が主体であり,苗場山山頂付近では,長期にわたる融雪水の供給も見込めないにも関わらず,広大な湿原が広がっている。気温の日較差から全天日射量を推定した結果,全天日射量の月平均値は,無積雪期を通して苗場山湿原で低くなっていた。したがって,苗場山湿原の維持には,山頂付近での局地的な曇天(もしくは霧や降雨)によって蒸発散量が抑制されていることも重要であると考えられる。苗場山の火山原面上に形成された湿地群も,他地域の雪田と同様に後氷期の温暖湿潤化によって形成されたが,その後の湿潤環境の維持には,豊富に得られる地下水の存在や,蒸発散を防ぐ曇天の多さなど積雪以外の条件も重要であると考えられる。
苗場山は長野県と新潟県の県境に位置する第四紀成層火山で,火口は侵食カルデラで失われている。小松原湿原は北へ流下する溶岩台地の中腹に位置する湿原群で,苗場山湿原は山頂部の南斜面に広がる平坦地を覆うように広がる湿原群である。本研究では,苗場山湿原の4か所,小松原湿原の3か所でハンドオーガによる掘削調査と,泥炭層および有機物層の放射性炭素年代測定を実施した。さらに,小松原湿原の下ノ代(標高1334 m)および苗場山湿原の龍ノ峰(標高2052 m)の泥炭層内(4 cm深,8 cm深)で,地温,土壌水分,電気伝導度を,地上 5 mで気温を観測した。観測期間は,小松原湿原で2020年11月26日~2021年10月1日,苗場山湿原で2020年 10月20日~2022年8月6日であった。土壌水分の変化は,津南に設置されたアメダスの降水量データと関連付けて議論した。
泥炭層および有機物層の放射性炭素年代測定結果,湿地の成立時期が気候変化に同期していることが認められた。小松原湿原では,上ノ代と下ノ代で,約5000~4500年前,中ノ代で約3300年前に泥炭の堆積が開始した。苗場山湿原では約7000~4500年前から泥炭の堆積が開始されており,山頂に近い2地点の方が早い時期に湿原が形成されていた。日本の多雪地域では,多くの山岳湿原で泥炭の堆積開始時期が,12000~7000年前に集中する。苗場山の湿原も,他地域と同様に,ヒプシサーマル期およびその後の温暖湿潤な気候下で形成されたことが明らかとなった。
泥炭層内の地温と土壌水分観測の結果,および湿原の立地を考慮すると,苗場山湿原龍ノ峰と小松原湿原下ノ代では,湿原の成立条件が異なると考えた。地温データから推定した積雪期間は11月下旬~5月中下旬で,両湿原で大きな差はなかった。8 cm深の土壌水分量と電気伝導度は,主に,積雪期と無積雪期に対応して変化していた。電気伝導度は,小松原湿原で,積雪開始直後から上昇し,融雪完了と同時に急激に低下して,変化量は大きかったが,苗場山湿原は積雪後の上昇率も変化量もわずかだった。4 cm深のデータでは,積雪だけでなく降水に対応した変化が認められた。小松原湿原では,無降雨日が連続した場合に,土壌水分量の急激な減少が認められ,降水時に電気伝導度は低下する傾向があった。苗場山湿原でも無降雨期間に対応した土壌水分の減少が認められたが,減少量は小さく,頻度も低かった。一般に電気伝導度は,天水よりも地下水で高い値を示す。したがって,観測結果は,小松原湿原では地下水,苗場山湿原では天水の寄与が高いことを示唆すると考えられる。
背後の広い斜面からの多量な地下水の供給が見込まれる小松原湿原に対し,苗場山湿原は天水涵養が主体であり,苗場山山頂付近では,長期にわたる融雪水の供給も見込めないにも関わらず,広大な湿原が広がっている。気温の日較差から全天日射量を推定した結果,全天日射量の月平均値は,無積雪期を通して苗場山湿原で低くなっていた。したがって,苗場山湿原の維持には,山頂付近での局地的な曇天(もしくは霧や降雨)によって蒸発散量が抑制されていることも重要であると考えられる。苗場山の火山原面上に形成された湿地群も,他地域の雪田と同様に後氷期の温暖湿潤化によって形成されたが,その後の湿潤環境の維持には,豊富に得られる地下水の存在や,蒸発散を防ぐ曇天の多さなど積雪以外の条件も重要であると考えられる。