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[MIS13-P04] CaCO3形成過程におけるMg2+の挙動に水和状態が与える影響の検討

キーワード:炭酸カルシウム、水和、多形
CaCO3は生体鉱物や堆積物の形で環境中に広く存在する鉱物であり, 主な多形として常温常圧で安定なcalciteと高圧で安定なaragoniteがある. 常温常圧でもaragoniteが形成する原因については長年研究が行われており, 溶液中のMg2+がaragoniteの形成を促すことが知られているが, その詳細なメカニズムは不明である. また, Mg2+はcalciteに固溶しうるが, 一般的に固相に取り込まれにくい. この原因としてMg2+の結合力の強い水和殻が支持されているが(Xu et al., 2013), その影響は評価されていない. 岩根ら(2023) はホルムアミド(NH2CHO)と水との混合溶媒中では, Mg2+は水和しにくくなることをラマン分光測定により明らかにした. この混合溶媒を用いてCaCO3の合成を行った結果, 非晶質CaCO3(amorphous calcium carbonate:ACC)を経由する形成過程においては, aragoniteの形成に寄与するのは水和したMg2+であることが示唆された. 本研究では,直接calciteが水溶液から核形成するような条件を含む複数の過飽和度条件において,水-ホルムアミド混合溶媒を用いたCaCO3の合成を行い, calciteへのMg2+固溶量の変化と,ともに形成したaragoniteの量比を解析することで, 水和状態がMg2+の挙動に与える影響を検討した.
CaCO3の合成は混合溶媒(ホルムアミド体積割合0 ~ 75 %)を用いて調製したCaCl2 - MgCl2溶液とNa2CO3溶液を25 mLずつ反応容器に入れて密閉し, 恒温槽内(25 ℃)で2時間攪拌することにより行った. 低過飽和条件(Ca2+ 2.1, Mg2+ 0.9, CO32- 5 [mM])と高過飽和条件(Ca2+ 42, Mg2+ 18, CO32- 42 [mM])に濃度を設定し,混合時のpH変化をモニターすることで形成過程を考察した. 沈殿物は回収して乾燥し,粉末X線回折装置を用いて相同定を行った.
低過飽和条件の主生成相はcalciteであった. pH低下は1段階で, かつ混合直後に沈殿が見られなかったことから, ACCを経由していない可能性が高い. 高過飽和度条件の沈殿物を相同定した結果,混合直後にACCが形成し, 2時間撹拌後にcalciteが主生成相となっていることが明らかになった. この条件ではpH低下は2段階であったことから, ACCからcalciteへの相変化が起きたことが示唆された. さらに, 試料の収量が反応開始後に一時的な減少を経て増加したことから, 溶媒媒介相転移が起きたと考えられる. calciteの格子面間隔からMg2+固溶量を定量した結果, 低過飽和条件では3 ~ 6 mol%, 高過飽和条件では5 ~ 8 mol%と見積もられ, 形成過程による差は小さかった. また, 両条件で固溶量はホルムアミド割合に対して顕著な変化はなかった. したがって, 溶媒媒介相転移も含め, 水溶液からcalciteが直接形成する際には, Mg2+の水和殻は固溶量に大きな影響を与えておらず, Mg2+の固溶による格子歪の増大が固溶体形成をエネルギー的に不利にしていると考えられる. Liuら(2020)は本研究よりも高濃度な溶液を用いた実験により,ACCの固相-固相相転移により23.8 mol%の固溶量を持つcalciteが形成したことを報告している. このことから, 高い固溶量は多くのMg2+を含有するACCからの固相-固相相転移によって実現している可能性がある. また, 低過飽和条件について, ホルムアミド割合によるaragoniteの量比の変化をX線回折強度比から解析した結果, 混合溶媒中のホルムアミドの体積割合が多くなる,すなわち水和したMg2+が減少するに従って形成したaragoniteの量比が減少し, 75 %で形成しなくなることが分かった. したがって, ACCを経由しない形成過程においても水和したMg2+がaragoniteの形成に寄与することが示唆された.
References:
[1] Xu et al., PNAS, 110, 2013, 17750–17755
[2] 岩根ほか, 日本鉱物科学会, 2024
[3] Liu et al., PNAS, 117, 2020, 3397-3404
CaCO3の合成は混合溶媒(ホルムアミド体積割合0 ~ 75 %)を用いて調製したCaCl2 - MgCl2溶液とNa2CO3溶液を25 mLずつ反応容器に入れて密閉し, 恒温槽内(25 ℃)で2時間攪拌することにより行った. 低過飽和条件(Ca2+ 2.1, Mg2+ 0.9, CO32- 5 [mM])と高過飽和条件(Ca2+ 42, Mg2+ 18, CO32- 42 [mM])に濃度を設定し,混合時のpH変化をモニターすることで形成過程を考察した. 沈殿物は回収して乾燥し,粉末X線回折装置を用いて相同定を行った.
低過飽和条件の主生成相はcalciteであった. pH低下は1段階で, かつ混合直後に沈殿が見られなかったことから, ACCを経由していない可能性が高い. 高過飽和度条件の沈殿物を相同定した結果,混合直後にACCが形成し, 2時間撹拌後にcalciteが主生成相となっていることが明らかになった. この条件ではpH低下は2段階であったことから, ACCからcalciteへの相変化が起きたことが示唆された. さらに, 試料の収量が反応開始後に一時的な減少を経て増加したことから, 溶媒媒介相転移が起きたと考えられる. calciteの格子面間隔からMg2+固溶量を定量した結果, 低過飽和条件では3 ~ 6 mol%, 高過飽和条件では5 ~ 8 mol%と見積もられ, 形成過程による差は小さかった. また, 両条件で固溶量はホルムアミド割合に対して顕著な変化はなかった. したがって, 溶媒媒介相転移も含め, 水溶液からcalciteが直接形成する際には, Mg2+の水和殻は固溶量に大きな影響を与えておらず, Mg2+の固溶による格子歪の増大が固溶体形成をエネルギー的に不利にしていると考えられる. Liuら(2020)は本研究よりも高濃度な溶液を用いた実験により,ACCの固相-固相相転移により23.8 mol%の固溶量を持つcalciteが形成したことを報告している. このことから, 高い固溶量は多くのMg2+を含有するACCからの固相-固相相転移によって実現している可能性がある. また, 低過飽和条件について, ホルムアミド割合によるaragoniteの量比の変化をX線回折強度比から解析した結果, 混合溶媒中のホルムアミドの体積割合が多くなる,すなわち水和したMg2+が減少するに従って形成したaragoniteの量比が減少し, 75 %で形成しなくなることが分かった. したがって, ACCを経由しない形成過程においても水和したMg2+がaragoniteの形成に寄与することが示唆された.
References:
[1] Xu et al., PNAS, 110, 2013, 17750–17755
[2] 岩根ほか, 日本鉱物科学会, 2024
[3] Liu et al., PNAS, 117, 2020, 3397-3404