日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 古気候・古海洋変動

2025年5月30日(金) 09:00 〜 10:30 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小長谷 貴志(海洋研究開発機構)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:長谷川 精(高知大学理工学部)


09:15 〜 09:30

[MIS14-12] 千葉複合セクション(チバニアンGSSP)の化石花粉 ~MIS 19前後(80-75万年前)における陸上気温指標の再検討

*奥田 昌明1羽田 裕貴2菅沼 悠介3岡田 誠4 (1.千葉県立中央博物館、2.産業技術総合研究所地質調査総合センター、3.国立極地研究所、4.茨城大学理学部理学科)

キーワード:千葉複合セクション、花粉、MIS 19、古気温、代理指標

約77万年前に発生したMIS 19間氷期を含む千葉複合セクション(CbCS; 800-750 ka)は、チバニアン期(774-129 ka)の国際標準模式地(GSSP)として知られるが、古気候学的には現在の間氷期(MIS 1)のアナログを含む点で注目される。
このCbCSに対する古気候研究の現状については、Suganuma et al. (2021)およびHead et al. (2021)のレビューに詳しい。その中にはチバニアン採択の根拠となった古地磁気データや底生・浮遊性有孔虫のδ18Oと併せて、化石花粉データ(broadleaved/AP)が示されている。これは総樹木花粉に対する広葉樹花粉の割合を指すが、日本列島では比較的温暖を好む広葉樹と寒冷を好む針葉樹の比に等しいので、チバニアン申請の主論文であるSuganuma et al. (2018)では氷期・間氷期変動に対する陸上気温のプロキシとして用いられた。
総じて、GSSPに選ばれる地層は海成層でなければならないので、化石花粉は海底から陸上環境を知ることができる唯一の指標として重視される。しかしながら、実際に海洋堆積物を花粉とδ18Oで同時分析しようとすると、次のような問題に悩まされる。
(1)海陸プロキシのデータ解像度が合わないこと
(2) 海陸のシグナルが分析地付近のローカル要因により、ずれること
とくに、CbCSの花粉データでは(1)の問題が深刻だった。総じて花粉分析という作業は人力でおこなうので、データ解像度が機器分析と比べて劣りがちである。この点を改善するために、2020年のチバニアン採択後も花粉データの更新作業が進められてきた。
その結果を示す前に、MIS 19に対する諸外国の研究状況を紹介する。北大西洋~地中海周辺の南ヨーロッパの中でも、イベリア半島沖で採取されたU1385コア(Goni et al. 2016)は、いわゆるIRDベルトの南端付近にあたり、ハインリッヒ時には氷山が到達するとともに、氷期と間氷期で大きく海水温が変動するなど、日本近海に似た海洋環境を備えている。このU1385に対して実施された花粉とδ18Oの同時分析は、海陸でほぼ合っていた。とくに、亜(間)氷期であるMIS 19b-aにおける約5000年周期の変動は、C37:4ベースの淡水指標でも見られたことから、北大西洋氷床の拡大に伴い発生したハインリッヒ・イベントが南ヨーロッパまで伝播したとみられる。MIS 19cの持続期間については787-774 kaの1万3千年とされた。また、MIS 19cの中にMIS 1のボンド・イベントと似た千年変動が報告された。
対して、イタリア南部モンタルバーノのIdealeセクション(Nomade et al. 2019)では、チバニアンの競合地となった重要地だけに浮遊性δ18Oの解像度は非常に高かった反面、花粉とδ18Oの海陸データがずれる問題が生じていた。ずれはMIS 19cの開始部分で顕著であり、花粉のほうが約3000年も遅れていた(δ18Oは788 ka、花粉は785 ka)。この花粉の遅れの原因としては、森林植生の移動ラグが考えられる。一般にイタリア南端のモンタルバーノ付近では、間氷期には地中海性森林が拡がるのに対し氷期には乾燥草原に交代するが、海面低下により氷期にはシチリア島とつながるため、樹木がMIS 20にはシチリア島まで逃避していたと考えれば、MIS 19の開始後も森林の北上には一定の時間を要するため、δ18Oに対する遅れが説明される。
では、千葉複合セクションにおける花粉データの再分析結果はどうなったか。まず、MIS 19aにおける5 kyr変動は同一露頭からの浮遊性δ18Oとよく合致した反面、MIS 19cの開始は“790 ka”という非常に早い時期となり、終了は逆に770 ka頃と遅くなった。さらに間氷期の主要部はひと塊の巨大プラトーとなったため、MIS 19cの持続時間は“2万年”という非常に長い値が帰結された。しかしながら、この結果は公表ずみの浮遊性δ18Oデータ(Haneda et al. 2020) と合わない。またCbCSでは、花粉における温暖の立ち上がりはδ18Oよりも早いため、森林の移動ラグによる説明も成立しない。考えられるのは、broadleaved/APが気温プロキシとしては適当でなかった可能性だ。
”broadleaved”とひと括りにされた広葉樹群の中に、より温暖を好む樹種と冷涼樹種が混在していた可能性がある(アカガシ亜属とコナラ亜属、コナラ亜属とブナ属など)。この”broadleaved”をより細かな樹木群に細分するか、別の新しい定量指標を導入することにより、海陸の不一致が解消される可能性がありそうである。