日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 古気候・古海洋変動

2025年5月30日(金) 10:45 〜 12:15 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小長谷 貴志(海洋研究開発機構)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)


10:45 〜 11:15

[MIS14-16] 気候モデル・ESMを活用した気候・炭素循環変動予測研究とシミュレーション展望

★招待講演

*建部 洋晶1 (1.海洋研究開発機構)

国際社会や国内自治体、民間企業が今後取るべき気候変動対策の具体的な検討には、科学的根拠に基づく気候変動予測情報が必要である。このような情報を創出するための科学的ツールのひとつとして、気候モデルと呼ばれるコンピュータプログラムがある。このツールを用いた気候シミュレーションでは、気候システムの非線形的な振る舞いを物理・生物地球化学的法則に基づいた解として記述することが可能であるため、時空間的に観測データが疎である現象の理解などに有用である。また、現実気候では設定不可能な仮定下における気候応答を診断することも可能である。このような仮想実験結果などに基づき、IPCC報告書では、ここ数十年間の地球温暖化が人為起源温室効果ガスの増加に起因することに疑いの余地はないと結論づけられている。人為影響による長期的な温暖化とともに、気候システムには様々な時空間スケールにおける自励変動が存在する。特にエルニーニョ南方振動や太平洋数十年規模変動といった数年から十年規模の自励変動は、2000年代における一時的な温暖化の減速(ハイエイタス)や2020年前後の連続ラニーニャ、2024年に観測されたパリ協定の1.5度目標を上回る史上最高気温などに寄与していると考えられており、これら自励振動のメカニズム解明を目的としたシミュレーション研究が進められている。また、パリ協定で示された1.5度目標や2050年までのカーボンニュートラルなど、温暖化抑制に向けた具体的な目標数値の策定や実現可能性の検証、仮に実現した場合の緩和策の有効性評価などにも、気候モデルやこれに全球炭素循環が考慮された地球システムモデル (ESM)を活用した将来予測研究結果が参照されている。気候及び炭素循環の予測研究に活用されている気候モデルやESMは、普遍的な物理・生物地球化学的法則に基づいて構築されているため、産業革命前から将来までの気候研究だけではなく、現在から数万年以上の大過去に遡った古気候研究においてもまた、有用な研究ツールとなっている。古気候研究は、地球本来の気候変動を理解することにより、現在および将来の気候変動を予測するための知見を提供する社会的に重要な役割を持つ。同時に、人類社会が直面する危機を可視化するがゆえに未来に対する深刻な憂慮を社会や市民へ喚起する人為地球温暖化予測研究とは対照的に、地質学的超長期規模での地球環境変遷やヤンガードリアスなど急激な気候変化、これらに伴う人類を含む生物種の分布域の変化などを問うことにより、天文・宇宙物理など他の自然科学研究がそうであるように、人々の科学的好奇心を刺激する学問でもある。本講演では、産業革命以降に観測された人為・自然要因気候変動のうちの代表的な事例とそれを説明しうるメカニズムや気候及び炭素循環予測研究を概観するとともに、第7期結合モデル間相互比較プロジェクトや次期IPCC報告書、グローバルストックテイクへの貢献を視野に入れた気候モデル及びESMの開発状況と研究事例、古気候学的にも重要な海洋棚氷要素を含む極域氷床モデルとESMとが結合されたモデル開発など長期的展望を紹介する。