日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 古気候・古海洋変動

2025年5月30日(金) 10:45 〜 12:15 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小長谷 貴志(海洋研究開発機構)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)


11:15 〜 11:30

[MIS14-17] 数年規模の海洋変動を検出する水温復元法の開発とその応用:黒潮大蛇行の発生頻度解析

*藤見 唯衣1堀川 恵司1池原 実2岡崎 裕典3久保田 好美4小林 英貴1宮入 陽介5横山 祐典5 (1.富山大学、2.高知大学海洋コア国際研究所、3.九州大学、4.国立科学博物館、5.東京大学 大気海洋研究所)


キーワード:浮遊性有孔虫、黒潮大蛇行、有孔虫個別個体分析法

黒潮は,非大蛇行流路と大蛇行流路の2つの準安定流路をもち,大蛇行流路は1962年以降計6回発生している。黒潮が紀伊半島沿岸で南に蛇行する大蛇行時,東海沖で水温が最大5度上昇し(Sugimoto et al., 2020),関東・東海地域において降水量が増加することが指摘される(Sugimoto et al., 2024等)。しかし,観測年数が短く,黒潮大蛇行の発生頻度や継続期間についての理解は必ずしも十分ではない。本研究では,東海沖で採取された海底堆積物コアに,浮遊性有孔虫個別個体のMg/Ca水温分析(Individual foraminifera analysis:IFA)から,最終氷期以降の5つの層準で,黒潮大蛇行の発生頻度の解析を試みた。
 IFA-Mg/Caは,1層準から有孔虫を100個体程度拾い出し,1個体ずつ有孔虫殻のMg/Ca水温を分析する手法で,1層準の堆積期間中の水温頻度分布を復元する(例Khider et al., 2011など)。水温を記録している有孔虫殻の分析においては,チャンバーに付着している泥や粘土粒子,有機物などの除去が必須であるが,1層準で100試料,それを数10層準で行う場合,1000試料を超える分析数になる。有孔虫殻の化学洗浄は,1.5mLの遠心チューブ内で行うのが最も一般的で信頼性が確立されているが(Barker et al., 2003),洗浄に時間を要し,1日に洗浄する試料数を増やすとかなりの労力を要することになる。発表者らは,1000試料を超えるIFA-Mg/Ca比データを短時間で創出することを目的に,有孔虫殻1個体のフロースルー洗浄システムの構築を行なってきた。新規のフロースルー洗浄法は,バッチ洗浄法と比較して,Al/Ca比が高くなる試料が相対的に多く,棄却せざるを得ないデータが分析数の31.5%となりバッチ洗浄法よりも高かったが,両手法のMg/Ca比は概ね一致していた(差は0.2 mmol/mol,換算水温差は0.1℃)。
 フロースルー洗浄を用いて,KH-16-6次航海で採取された堆積物試料のGlobigerinodides ruber (250–350 µm)のIFA-Mg/Ca比分析を行なった。分析した層準は,完新世2層準(Holocene 4 ka,Holocene 8 ka)とYounger Dryas期(YD),Bølling-Allerød期(BA),最終氷期の最寒冷期(LGM)の計5層準である。これらの層準に対してIFAを実施し,復元された水温頻度分布の形状解析を行った。形状解析には,解析 ソフト R とmixtoolsパッケージを用いた。復元された水温頻度分布が2つのピークから構成されていると仮定し,それぞれのピークの詳細を解析した。
 対象とした5つの層準において,IFAの平均値と多個体分析を比較した所,値は概ね一致した。また,完新世の2層準については1962~2023年の再解析データ(ORAS5)から算出した東海沖夏季の鉛直水温と比較を行った。その結果,IFA-Mg/Caの換算水温変動幅は,G. ruberの生息水深0~50 m における水温変動幅と一致した。本研究で分析したIFAの結果は,多個体分析の結果や現生の再解析データと整合的であることから,対象とした分析層準の堆積期間の水温頻度分布を復元できている可能性が高い。
 今回分析した5つの層準のうち,現世と気候条件が類似している完新世4 kaと8 kaでは,東海沖水深20~50 mの再解析データ(ORAS5,1962–2023年)から計算された2つの峰を持つ水温分布と類似した傾向を示していた。特に,約8千年前の水温頻度分布は,再解析データと類似した高水温ピークの面積を有しており,現代と同程度の頻度で黒潮大蛇行が発生していた可能性が示唆された。一方,4千年前の水温頻度分布は,高水温側のピーク面積が2倍大きく,現代よりも黒潮大蛇行の発生期間が2倍程度長かったことを示唆している。YD,BA,LGMにおける水温頻度分布を再解析データと比較した結果,水温変動幅の増大とピーク形状の差異が確認された。特にLGMでは,2つのピーク間の平均水温差が5.9℃と大きく,黒潮の非大蛇行期と大蛇行期の水温変動のみでは説明できない。YDおよびBA期についても,明瞭な2峰性分布が見られなかったことから,黒潮の大蛇行頻度の解析が難しい。今回解析に用いた層準は,多個体分析によって復元された水温変動において,急激な水温上昇期に相当し,大蛇行の頻度解析には不適当な遷移期だった可能性がある。今後,BA,YD,LGM区間において,水温が準安定状態にある各5層準程度を改めて解析し,現在と異なる気候条件下における黒潮大蛇行頻度に関する情報を復元する。