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[MIS14-28] 海洋生物化学循環モデルを用いた白亜紀/古第三紀境界における海洋炭素同位体比変動解析

キーワード:白亜紀/古第三紀境界、海洋炭素循環、生物生産、炭素同位体比
白亜紀/古第三紀境界(K/Pg境界,66Ma)では, 直径約10kmの小惑星がメキシコのユカタン半島北東部に衝突し, 生物の大量絶滅が生じた. 炭酸塩殻をもつ浮遊生及び底生有孔虫の炭素同位体比の記録によると, 海洋表層水の炭素同位体比はK/Pg境界直後に負異常を示すだけでなく, 海洋表層水と海洋深層水の炭素同位体比の差が消失する挙動を示し, さらにその後数十万年かけて緩やかに炭素同位体比の鉛直勾配が回復していったことが知られている(e.g.,Zachos et al.,1989).
このような炭素同位体比の挙動は, 海洋基礎生産及び輸出生産の時空間的な変動を反映していると考えられている.その代表的な解釈としては, 全球的な基礎生産の停止(ストレンジラブ・オーシャン仮説)(Hsü and McKenzie,1982), 沿岸域を除く遠洋域における基礎生産の停止(Kump,1991), 遠洋域における有機物の分解速度の上昇, すなわち輸出生産の低下(リビング・オーシャン仮説)(e.g.,D’Hondt et al.,1998)などがある.しかし, それらの仮説に関する定量的かつ総合的な検討や検証は必ずしも十分になされていない.またK/Pg境界直後から回復過程に至るまでの海洋生物化学循環変動やそれを駆動するメカニズムはよく分かっていない.
本研究では, 海洋炭素同位体比の変動パターンに着目し, 鉛直一次元海洋炭素循環モデルを用いて, K/Pg境界直後の輸出生産や有機物分解速度がどのように変動したのかについて検討を行った.海洋表層水以深の易分解性有機物の分解量は, 輸出生産と分解速度及び沈降速度に依存すると考え, それらの変動について調べた.まず, これまでに提唱された仮説を模擬する生物生産のシナリオをモデルに与えてフォワード計算を行うことにより,海洋炭素同位体比の変動パターンについて調べた結果, K/Pg境界直後の炭素同位体比の鉛直勾配の消失は, 沿岸域で有機炭素の生産と埋没が継続していれば, 遠洋域の輸出生産の低下, もしくは有機物分解速度の増加あるいは沈降速度の低下のいずれの仮説でも説明可能であることが確認された.ただし有機物分解速度の増加あるいは沈降速度の低下では, 海底へ堆積後の続成作用による有機炭素の分解率がK/Pg境界以前よりも低下することが要求される。さらに両者は, 海洋中層水における炭素同位体比の挙動が大きく異なることから, 海洋中層水,とりわけ水深数百m付近の炭素同位体比記録がこれらのシナリオを判別するために重要な情報であると考えられる.
次に, これまでに得られている炭素同位体比に関する地質記録を調査した上で, 表層水及び深層水の炭素同位体比の時系列データを境界条件とし,中層水については様々な挙動を与えたインバージョン計算により, 海洋表層からの輸出生産及び有機物分解速度の時系列変化を復元した.その結果, K/Pg境界イベント直後の数十万年間は, 沿岸域では輸出生産と有機炭素埋没率が維持され, 遠洋域では輸出生産が大きく低下する結果が得られた.これはKump (1991)の議論を支持する解であるといえる.その後, 炭素同位体比の鉛直勾配が回復すると同時に遠洋域の輸出生産が回復する傾向を示しており, 少なくとも低次生態系が緩やかに回復していた可能性が考えられる。
このような炭素同位体比の挙動は, 海洋基礎生産及び輸出生産の時空間的な変動を反映していると考えられている.その代表的な解釈としては, 全球的な基礎生産の停止(ストレンジラブ・オーシャン仮説)(Hsü and McKenzie,1982), 沿岸域を除く遠洋域における基礎生産の停止(Kump,1991), 遠洋域における有機物の分解速度の上昇, すなわち輸出生産の低下(リビング・オーシャン仮説)(e.g.,D’Hondt et al.,1998)などがある.しかし, それらの仮説に関する定量的かつ総合的な検討や検証は必ずしも十分になされていない.またK/Pg境界直後から回復過程に至るまでの海洋生物化学循環変動やそれを駆動するメカニズムはよく分かっていない.
本研究では, 海洋炭素同位体比の変動パターンに着目し, 鉛直一次元海洋炭素循環モデルを用いて, K/Pg境界直後の輸出生産や有機物分解速度がどのように変動したのかについて検討を行った.海洋表層水以深の易分解性有機物の分解量は, 輸出生産と分解速度及び沈降速度に依存すると考え, それらの変動について調べた.まず, これまでに提唱された仮説を模擬する生物生産のシナリオをモデルに与えてフォワード計算を行うことにより,海洋炭素同位体比の変動パターンについて調べた結果, K/Pg境界直後の炭素同位体比の鉛直勾配の消失は, 沿岸域で有機炭素の生産と埋没が継続していれば, 遠洋域の輸出生産の低下, もしくは有機物分解速度の増加あるいは沈降速度の低下のいずれの仮説でも説明可能であることが確認された.ただし有機物分解速度の増加あるいは沈降速度の低下では, 海底へ堆積後の続成作用による有機炭素の分解率がK/Pg境界以前よりも低下することが要求される。さらに両者は, 海洋中層水における炭素同位体比の挙動が大きく異なることから, 海洋中層水,とりわけ水深数百m付近の炭素同位体比記録がこれらのシナリオを判別するために重要な情報であると考えられる.
次に, これまでに得られている炭素同位体比に関する地質記録を調査した上で, 表層水及び深層水の炭素同位体比の時系列データを境界条件とし,中層水については様々な挙動を与えたインバージョン計算により, 海洋表層からの輸出生産及び有機物分解速度の時系列変化を復元した.その結果, K/Pg境界イベント直後の数十万年間は, 沿岸域では輸出生産と有機炭素埋没率が維持され, 遠洋域では輸出生産が大きく低下する結果が得られた.これはKump (1991)の議論を支持する解であるといえる.その後, 炭素同位体比の鉛直勾配が回復すると同時に遠洋域の輸出生産が回復する傾向を示しており, 少なくとも低次生態系が緩やかに回復していた可能性が考えられる。
