日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 古気候・古海洋変動

2025年5月30日(金) 15:30 〜 17:00 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小長谷 貴志(海洋研究開発機構)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:小長谷 貴志(海洋研究開発機構)


16:30 〜 16:45

[MIS14-30] 北西太平洋炭酸塩堆積物のBa安定同位体比分析に基づく始新世「超温暖化」に対する海洋生物生産性の応答の解明

*山本 陽太郎1,2桑原 佑典1,2,3宮崎 隆2安川 和孝1中村 謙太郎1,3加藤 泰浩1,3 (1.東京大学大学院工学系研究科、2.海洋研究開発機構、3.千葉工業大学次世代海洋資源研究センター)


キーワード:始新世超温暖化イベント、暁新世-始新世温暖化極大、Ba安定同位体比、海洋生物生産性、炭素循環

古第三紀暁新世後期から始新世前期は,暁新世-始新世温暖化極大(Paleocene Eocene Thermal Maximum: PETM)をはじめとする「超温暖化(Hyperthermals)」と呼ばれる急激な温暖化イベントが繰り返し発生したことで知られている[1].これらの温暖化イベントは,人類が現在直面する気候変動問題の理解・予測にあたっての重要な手がかりを与える,地球史上のケーススタディとして注目されている.しかしながら,これらの温暖化イベントに対する地球表層環境の応答メカニズムには未解明の点が多い.

本研究では,地球の炭素循環において重要な役割を果たす海洋の生物生産性が,古第三紀の温暖化イベントに対してどのような応答を示したかを解明することを目指す.これまで,Hyperthermalsにおいて海洋の生物生産性が活性化し,有機物合成の促進を通じた海洋深層や固体地球への炭素輸送フラックスが増大することで,温暖化の抑制につながる負のフィードバック(生物生産フィードバック)が働いたのではないかという仮説が提唱されてきた[2].しかしながら,当時の生物生産性を復元するための既存の指標(Barite Accumulation Rate: BAR)は不確実性が大きく,過去の海洋生物生産性の復元には未だ多くの課題が存在している.そのため,Hyperthrmalsに伴う生物生産フィードバックの有無をはじめ,古第三紀の温暖化イベントと海洋の生物生産性の関連について十分な理解が進んでいないのが現状である.

本研究では,過去の海洋の生物生産性の新たな指標として,近年有望視されているバリウム安定同位体比(δ138/134Ba)に着目した[3,4].本指標は,海水中で有機物が分解される際に析出するバライト(重晶石)と海水の間で生じる同位体分別に基づくものである.海洋表層での生物生産性が活性化すると,バライトの析出に伴って海水中の軽いBaが除去されて海水のδ138/134Baが上昇し,これを反映して堆積物のδ138/134Baも上昇する.本研究ではこのシステマティクスを利用し,古第三紀暁新世後期から始新世前期にかけての,海水のBa安定同位体比の記録を復元し,Hyperthermalsにおける海洋の生物生産性の応答と,生物生産性が炭素循環に与える影響を明らかにすることを目指す.

本発表では,北西太平洋シャツキー海台で採取されたODP Site 1209の海底炭酸塩堆積物コアを研究試料として得られた,複数のHyperthermalsの層準におけるBa安定同位体比,および試料の全岩化学組成を報告する.そして,これらの地球化学データに基づきHyperthermalsと生物生産性の関連について考察する.

[1]Westerhold et al. (2018) Paleoceanogr. Paleoclimatol. 33, 626-642. [2] Bains et al. (2000) Nature 407, 171–174. [3] Bridgestock et al. (2019) Earth Planet. Sci. Lett. 510, 53-63. [4] Miyazaki et al. (2023) Geochem. J. 57, GJ2301.