日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 古気候・古海洋変動

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:小長谷 貴志(海洋研究開発機構)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)


17:15 〜 19:15

[MIS14-P17] 中海の堆積物コアの藻類バイオマーカー分析による小氷期の古気候復元

*松田 佳奈1服部 由季1安藤 卓人2中村 英人1,3廣瀬 孝太郎4沢田 健1,3 (1.北海道大学 理学院 自然史科学専攻、2.秋田大学 国際資源学研究科 資源地球科学専攻、3.北海道大学 理学研究院 地球惑星科学部門、4.兵庫県立大学)


古気候復元によると、過去2000年間において小氷期(LIA:1400-1850 CE)という北半球が最も寒冷化した期間があると推定されている。特に、太陽活動が大きく低下したとされるMaunder極小期(1645-1715)などの極小期に、ヨーロッパを中心に寒冷化が起こったことが知られている。寒冷化の程度や期間は地域によって異なるが、日本におけるLIA時の古気候学研究については報告例が少ない。本研究では、島根県・鳥取県の中海から採取した堆積物コアにおいて藻類バイオマーカー分析(長鎖アルケノン、長鎖アルキルジオール)を行い、古水温推定および河川流入変動の推定を行った。
中海は汽水湖・ラグーンであり、表層から底層の水は日本海からの海水の流入で低塩分から高塩分である。堆積物コアは中海の中心部Nk3C地点で2017年に回収された。岩相層序とCs、Pb,C同位体に基づく年代モデルを構築し、最下部はおよそ600年前を示した(廣瀬ほか, 2020)。試料はメタノール/ジクロロメタン抽出を行い、シリカゲルカラムによって無極性〜極性画分に分画した。すべての画分をGC-MSおよびGC-FID分析した。
アルケノン組成はコア深度18 cm(約1960年に相当)を挟んだ上位と下位で顕著に異なり、その特徴から下位では外洋や沿岸に広く分布するGroup III(Gephyrocapsa種)が、上位では内陸塩湖や沿岸に分布するGroup II(Ruttnera lamellosa)が主なアルケノン生産種と推定された。このことから中海で古水温復元を行う際、層準ごとに推定されたアルケノン生産種の温度換算式を用いて古水温を復元した。中海のアルケノン水温は、約1560~1590年、1670~1700年、1820~1850年において急激な低下を示し、寒冷化イベントを記録していることが分かった。これらの3回の寒冷化イベントのうち、1670~1700年のイベントはMaunder極小期の年代に含まれる。現データはまだ年代の解像度が低いものの、西日本において過去600年間の比較できるようなデータが少なく、中海でのアルケノン古水温データは西日本における数少ない古気候記録の一つとなり得る。また、長鎖ジオールを用いた河川流入指標によると、1920年代以降の大橋川の拡幅・浚渫工事(1924-1933年)による人工改変の影響以外は、%C32 1,15-ジオールの値がほとんど変化しない。1635-1639年には斐伊川の東流イベントが発生し、中海・宍道湖へ斐伊川の淡水が流入するようになったが、イベント前後の値の変化は比較的小さく、中海の環境が劇的に変化した可能性は低いと考えられる。