日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 古気候・古海洋変動

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:小長谷 貴志(海洋研究開発機構)、山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、長谷川 精(高知大学理工学部)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)


17:15 〜 19:15

[MIS14-P30] 有孔虫殻の硫黄を用いた古環境復元に向けたクリーニング手法の比較・検討

*吉野 剛志1黒田 潤一郎1,2吉村 寿紘2小川 奈々子2前田 歩1佐川 拓也3、木元 克典2山崎 俊嗣1高木 悠花1大河内 直彦2 (1.東京大学 大気海洋研究所 、2.国立研究開発法人 海洋研究開発機構、3.金沢大学)

キーワード:硫黄、有孔虫、クリーニング

海水中の硫酸態硫黄の安定同位体比(δ34S)は硫黄サイクルの変化を反映して変化することから, 過去の硫黄同位体比の復元は長期的な生物地球化学サイクルを理解する上で重要である。生物源炭酸塩中に存在する硫酸塩(CAS: carbonate associated sulfate)の硫黄同位体比は,炭酸塩化石が地質時代を通じて産することから,長期にわたる連続硫黄同位体記録を得ることができる。有孔虫は, 表層生息種, 亜表層生息種などの浮遊性有孔虫や底生種で生息深度が制約できるため(Paris et al., 2014), 水柱での硫酸態硫黄同位体比の深度分布を明らかにすることができる。
海底堆積物中の続成作用で炭酸塩鉱物表面に付着した鉄マンガン酸化物や黄鉄鉱が汚染源となる可能性があるため,有孔虫殻を用いてCASの硫黄同位体比を正確に測定するには,クリーニングをおこなって汚染源を除去する必要がある。黄鉄鉱は主要な硫黄汚染源であり,微量であってもCASの硫黄同位体比に影響を与えうる.鉄マンガン酸化物にもCASの硫黄同位体比に影響を与えうる量の硫黄が含まれていることが報告されており(Rennie et al., 2018), 硫黄同位体分析を念頭においたクリーニング法の検討が必要である.しかし,クリーニング処理法が有孔虫殻の硫黄量に与える影響を検討した研究例は少ない。
そこで本研究では,複数の先行研究で検討された有孔虫殻のクリーニング手法を比較し,不純物除去の効果を評価した。サンプルは, オントンジャワ海台で採取された更新世堆積物コアを用いた。このコアから5層準の試料を選出した。 細粒画分を除去した乾燥試料から開口径150 µmの篩で分離し, 150µm以上の画分を使用した。それぞれの試料を, 分割器により分割し,顕微鏡下で鉱物粒子や底生有孔虫を可能な限り除去し, 浮遊性有孔虫のMixed Speciesを収集した(Raw画分)。有孔虫殻を粗砕し, 超純水(Milli-Q)とメタノールで(複数回)超音波洗浄をおこなって,さらに粘土鉱物を物理的に除去した(MM画分)。その後,Rennie et al. (2018)の手法を用いて酸化クリーニング (Ox Rennie 画分) および還元・酸化クリーニングを行った(Red Rennie画分)。この手法と同様の手法を試験したCheng et al. (2000)の手法と比較するために,Rennie et al. (2018)の酸化クリーニングの工程をCheng et al. (2000)の酸化クリーニング手法に置き換えて, 酸化クリーニング(Ox Cheng画分)および還元・酸化クリーニング(Red Cheng画分)をおこなった。これら合計6画分を分析し,比較検討した。ICP-MSを用いて各画分のNa/Ca, Mg/Ca, Sr/Ca, Fe/Ca, Mn/Ca, Ba/Caの元素比を測定し, また, 陽イオン交換樹脂を使ったCAS抽出法(Kochi et al,2023)を適用し, イオンクロマトグラフで硫酸イオン濃度を測定した。
元素比測定の結果は, Fe/Ca, Mn/CaがRaw画分からMM画分にかけて顕著に低下し,超音波洗浄などの物理的な処理がFeやMnを低減させたことを示す。MM画分から酸化クリーニング工程(Ox Rennie画分およびOx Cheng画分)にかけて,またMM画分から還元・酸化クリーニング工程(Red Rennie画分およびRed Cheng画分)にかけてFe/Ca, Mn/Caが段階的に減少していることも確認された。これは,鉄マンガン酸化物が段階的に除去されていることを示唆する。Ba/Caでも同様の結果が見られ, Baは鉄マンガン酸化物に由来することが示唆される。一方, 硫酸濃度の結果は, Rawを除いた5画分で約1000ppmとほぼ一定の値を示した。この結果から, 鉄マンガン酸化物や黄鉄鉱に由来する硫酸の寄与は小さいことが示唆され, CASの濃度測定にほぼ影響がないと考えられる。しかし, クリーニングで完全には除去されていない可能性のある黄鉄鉱や有機物硫黄が硫黄同位体比に与える影響を考慮するため, 硫黄同位体比測定による詳細な評価が必要である。 本発表では, これらの測定結果を踏まえた詳細な考察について報告する。
Cheng, H., et al. (2000) Geochim. Cosmochim. Acta, 64(14) 2401-2416. Rennie, V.C.F., et al. (2018) Nat. Geosci., 11, 761–765. Paris, G., et al. (2014) Geochem., Geophys., Geosys., 15(4) 1452-1461. Kochi, T., et al. (2023) Geostandard and Geoanalytical Research., 48(1) 77-89.