日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] グローバル南極学

2025年5月27日(火) 13:45 〜 15:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:石輪 健樹(国立極地研究所)、草原 和弥(海洋研究開発機構)、箕輪 昌紘(北海道大学・低温科学研究所)、飯塚 睦(産業技術総合研究所)、座長:飯塚 睦(産業技術総合研究所)


14:45 〜 15:00

[MIS15-17] 南大洋インド洋区ケープダンレー沖の海水のネオジム同位体比分布と南極底層水の形成域ごとの特徴

*小坂 由紀子1,2,3、Basak Chandranath1堀川 恵司4大橋 良彦5川合 美千代6大島 慶一郎7池原 実2 (1.デラウェア大学、2.高知大学海洋コア国際研究所、3.金沢大学理工研究域、4.富山大学学術研究部理学系、5.国立極地研究所、6.東京海洋大学、7.北海道大学低温科学研究所)

キーワード:南極底層水、Nd同位体比、南大洋、ケープダンレー

海水の溶存態ネオジム(Nd)の同位体比は、水塊の移動を追跡できる化学トレーサーのひとつである。海水のNd同位体比は、海水と接する堆積物中の魚歯/骨片化石や鉄マンガン酸化物に記録されるという特徴を持つため、現在だけでなく過去の海洋循環の変化を復元する古海洋プロキシーとして活用されている。古海洋研究にNd同位体比を用いるには、対象海域の現在の海水のNd同位体分布とそれを制御する要因を理解する必要がある。
南大洋の海水のNd同位体比研究は、この二十数年の間に様々な海域で実施され、南大洋インド洋区のみがデータの空白域であった。本研究では南大洋インド洋区ケープダンレー沖を対象としてNd同位体分布の把握に取り組んだ。ケープダンレー沖は第4の南極底層水(AABW:Antarctic bottom water)の形成海域であり、多量に海氷が形成される沿岸ポリニヤにおいて、冬季に海氷が形成される過程で排出される高塩分水により高密度水が生成され沈み込むことが明らかになっている。この重要なデータの空白域のNd同位体分布を明らかにすることで、南大洋全体のNd同位体分布を制御するシステムについて議論する。
ケープダンレー沖で形成されたAABWのNd同位体比は周囲の海水よりも低い同位体比で特徴付けられており、プリッツ湾に最も近い地点の深層で最も低い同位体比を示した。既に出版されている同航海で得られた海水のフロン分圧と、Nd同位体比は負の相関関係を示しており、ケープダンレー沖で形成されるAABWが同位体比の低いNdの重要な供給源となっていることが明らかになった。ケープダンレー沖やアデリーランドで形成されたAABWは南極斜面流(ASC:Antarctic slope current)と同じ方向に運ばれ、ウェッデルジャイアを経由して低緯度側に輸送される。ウェッデル海や南大西洋を対象とした研究により、AABWの平均的なNd同位体比は−9〜−8εNdであると考えられてきたが、南大洋大西洋区ではより低い−10εNdの報告もある。このことは、ウェッデル海から流出するAABWに対する、ケープダンレー沖やアデリーランドで形成されたNd同位体比の低いAABWの寄与率が無視できないものであることを示している。
南大洋全体のAABWのNd同位体分布は、南極大陸の沿岸の堆積物のNd同位体分布と同様に、広いバリエーションを持つ。形成域ごとに特徴的なNd同位体比を持つAABWの分布は、ここ二十数年の観測によって推察されたASCの平均的な流路とASCの強さによって制御される大陸棚の性質、ロスジャイア・ウェッデルジャイアに非常によく対応していた。ASCは表面風応力、エルニーニョ/ラニーニャ、南半球環状モードなど様々なものの影響を受けて強度が変化することが知られており、氷期-間氷期などのより長期的な気候状態の変化によっても大きく変化すると予測される。このため、古海洋研究におけるエンドメンバーとしてのAABWのNd同位体比も変化しうるものとして考えていく必要がある。