日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] グローバル南極学

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:石輪 健樹(国立極地研究所)、草原 和弥(海洋研究開発機構)、箕輪 昌紘(北海道大学・低温科学研究所)、飯塚 睦(産業技術総合研究所)


17:15 〜 19:15

[MIS15-P13] 珪藻化石カウントにおけるObject detectionの有用性:保存状態と形態的多様性が検出精度に与える影響

*石野 沙季1板木 拓也1、福田 素久2 (1.産業技術総合研究所、2.山形大学 理学部)

キーワード:珪藻化石、Object detection、Deep learning、南大洋、古環境指標

珪藻化石の群集解析や形態解析は堆積物の年代制約や古環境復元に重要な指標を提供してきた.従来の解析におけるデータ集計手法では,プレパラートに封入された化石を顕微鏡で分類・計数する必要があるが,この過程は研究者にとって膨大な時間と労力を要する.この課題は珪藻に限らず他の微生物・微化石研究にも共通するため,分類・計数作業の自動化に向けた機械学習の適用が近年注目されている.中でも,深層学習を用いた物体検出技術は,化石を堆積物試料中から濃集する作業において成果を上げている.一方で,これまでの微化石研究には物体検出を堆積物の珪藻化石に適用した知見は限られている.堆積物中の珪藻化石群集は,生物地理的および堆積学的条件の影響で同種であっても多様な形態と破損度の異なる殻を含む.研究者が行っている作業を物体検出を用いて自動化するためには,このような多様な形態の種を化石の破片を含めて計数することができるかどうかを評価する必要があり,また,効率的な学習方法の検討も求められる.そこで,本研究では,南大洋の固有種Eucampia antarcticaの化石を堆積物から自動検出することを実験的な例として,化石保存状態及びE. antarctica種内の形態の差異が物体検出モデルの精度にどのように影響するか調査した.
教師データサイトとして,保存状態(good/moderate)とE. antarctica大型個体の割合(moderate/ rare)の組み合わせからなる試料の4サイトを選定し,4サイトそれぞれから学習したモデルと,このうち2サイトを組み合わせて学習したモデルを用意した.教師データサイト以外に南大洋の広範囲から14サイト(テストサイト)の画像を用いてこれらのモデルの検出精度をテストした.これら18のサイトの画像は,通常の珪藻観察用のプレパラートを高解像度スライドスキャナーで自動撮影することで用意した.物体検出モデルとしてYOLOv5-xを学習した.
4つの教師データサイトそれぞれから学習したモデルでテストサイトからE. antarcticaの殻を検出した結果,全体としてRecallおよびPrecisionの平均値は0.85以上を示した.4つの教師データサイト間におけるE. antarctica種内の形態の差異はテストサイトの検出精度に大きな影響を与えなかった.4つの教師データサイトのうち,保存状態がgoodで大型のE. antarcticaの割合がmoderateのサイトを教師データに用いた場合はRecallが低いことから,検出対象ではない堆積物構成粒子が少ない画像を教師データに用いると検出精度が低下する可能性が示唆された.教師データサイトから遠方のサイトでも高い検出精度を示した一方で,一部のテストサイトではどのモデルによっても検出精度が低かった.この結果は,検出精度の違いは種組成や粒子濃度の違いが影響していることを支持している.さらに,2サイトを組み合わせて学習したモデルは1サイトからなるモデルよりも検出精度が向上し,手作業による計数と同等の精度を達成した.本研究結果は,数地点の試料から学習したモデルであっても, E. antarcticaの化石を破損した殻を含めて未知の試料から高精度で検出可能であることを示唆している.