17:15 〜 19:15
[MIS16-P06] 海洋地殻の中に点在する割れ目・断層を流れる水循環の数値計算:遅い流れを速く解くその5
キーワード:熱水循環、数値計算、陽解法、割れ目・断層
古い海洋プレートの温度構造はプレート冷却モデルに従うと考えられており、これによれば海底で観測される地殻熱流量はプレート年代で決まることになる。確かに大洋底の中央ではそのような熱流量が得られることが多い (Stein and Stein, 1992)。しかし、ここ十数年に渡って行われた海溝近傍での地殻熱流量の観測によると、海溝の近傍では、プレート年代から予想される熱流量値とは非常に異なる値が得られている。例えば日本海溝の海側では、プレート年代から予想される値の2倍程度の高熱流量が観測されている (Yamano et al., 2008, 2014)。この地域において、高熱流量のパターンは数kmの波長を持つ (Ray et al., 2015)。短波長の高熱流量に対する現時点での解釈として、海底の近傍の割れ目・断層を流れる間隙水の循環が挙げられる (Ray et al., 2015; 佐々木, 2017)。しかし少なくとも日本海溝の海側の領域において、割れ目内の3次元的な水循環を考慮した詳細なモデル化が行われたことはない。今後さらなるモデル化が望まれるところである。本研究では、これを行う第一歩として、地殻内部に点在する幅の狭い割れ目の中の水循環を効率的に計算する方法を考える。
割れ目の中の水循環を数値計算で扱う場合の問題点は、割れ目の幅が狭いために、計算の時間ステップが小さくなることである。例えばこの問題を陽解法で解こうとすると、時間ステップは割れ目の幅で制約されてしまい実用的でなくなる。そこで通常はこのような問題は陰解法で扱うのが定石である。ただし、陰解法で解く場合、格子の形状がいびつ(トランプのような)になるため解を得るためには時間がかかることが予想される。我々は別な方法を取ることにしよう:
(1) 2次元的な薄い割れ目を不透水の空間内に配置する (Yang et al., 1998)。薄い割れ目の中を考えるときは、外から表面を通して流れ込む熱流束を境界条件として、割れ目の中の熱の保存を解く。一方、割れ目の外の領域を考えるときは、割れ目の内部から漏れ出す熱フラックスを面状の熱源として扱い、割れ目の体積は (周囲の領域に比べて十分小さいとして) 扱わないことにする。このように考えることで、割れ目の格子は2次元、その外側の格子は3次元にでき、また格子形状はいびつにならずにすむ。
(2) 割れ目内部の時間発展とその外側の時間発展を非同期にすることで、時間ステップを大きく保つ。具体的には、割れ目の外を通常の陽解法により1回時間発展させるとき、割れ目の外は多段階の陽解法で時間発展させる。多段階の1ステップは、割れ目の幅で決まる時間ステップ以下に設定する。割れ目の内部の格子点の数(2次元)は外側の格子点(3次元)に比べて少ないため、全体の計算はさほど重くはならないであろう。
以上の方針に基づいて、割れ目とその周囲の熱輸送および水循環の問題を解く。問題設定は次のとおりである。3次元の不透水の地殻の中に、厚さが十分薄い平面状の割れ目を配置する。そしてこの領域の全体を下部から温める。水循環の取扱いに関して、2種類の計算を行った:
(a) まずはじめに、割れ目の内部を「高熱伝導率プロキシ」に置き換えた計算を行った (たとえばSpinelli and Wang, 2008)。水循環の効果を、高い熱伝導率で近似する。この場合、解く式は熱伝導方程式のみである。ただし、割れ目が薄いことに加え、割れ目の熱伝導率が高いのであるから、時間ステップの制約はより厳しくなる。計算を行った結果、このような厳しい場合でも、割れ目の中の熱輸送と割れ目の周り熱輸送を非同期に時間積分することにより、高熱伝導率を持った割れ目の中の熱輸送を短時間かつ安定化に解くことができることがわかった。以上から本研究の手法の有効性が示された。
(b) 次に、割れ目の中の熱水循環をあらわに扱った場合についての計算も行った。この場合に解く式は、割れ目内部の水循環と熱輸送(熱伝導に加えて水循環による移流)と、割れ目の周囲の部分の熱輸送(熱伝導のみ)である。水循環による流れ場を得るために、通常は陰解法を用いるが、本研究では音速を低減して陽解法で解く解法 (川田・2020, JpGU) を用いた。計算の結果によると、割れ目の内部と外部とで非同期の時間積分を行うことで、計算時間を節約しつつ、安定的に流れ場・温度場を求めることができることがわかった。
最後に本方法の発展について述べておく。今回はコントロールボリュームを用いた差分法で定式化を行っため、直方体の格子の中に四角形の割れ目が存在する場合の計算である。有限要素法の定式化を行うことで、割れ目が不規則な場合や複数の割れ目が繋がった場合などについても本研究の方法を適用することができる。また、割れ目の中と周囲との熱のやり取りは熱拡散であるから、ルンゲ・クッタ法により拡散項を加速させることも考えられる (Meyer et al., 2014)。
割れ目の中の水循環を数値計算で扱う場合の問題点は、割れ目の幅が狭いために、計算の時間ステップが小さくなることである。例えばこの問題を陽解法で解こうとすると、時間ステップは割れ目の幅で制約されてしまい実用的でなくなる。そこで通常はこのような問題は陰解法で扱うのが定石である。ただし、陰解法で解く場合、格子の形状がいびつ(トランプのような)になるため解を得るためには時間がかかることが予想される。我々は別な方法を取ることにしよう:
(1) 2次元的な薄い割れ目を不透水の空間内に配置する (Yang et al., 1998)。薄い割れ目の中を考えるときは、外から表面を通して流れ込む熱流束を境界条件として、割れ目の中の熱の保存を解く。一方、割れ目の外の領域を考えるときは、割れ目の内部から漏れ出す熱フラックスを面状の熱源として扱い、割れ目の体積は (周囲の領域に比べて十分小さいとして) 扱わないことにする。このように考えることで、割れ目の格子は2次元、その外側の格子は3次元にでき、また格子形状はいびつにならずにすむ。
(2) 割れ目内部の時間発展とその外側の時間発展を非同期にすることで、時間ステップを大きく保つ。具体的には、割れ目の外を通常の陽解法により1回時間発展させるとき、割れ目の外は多段階の陽解法で時間発展させる。多段階の1ステップは、割れ目の幅で決まる時間ステップ以下に設定する。割れ目の内部の格子点の数(2次元)は外側の格子点(3次元)に比べて少ないため、全体の計算はさほど重くはならないであろう。
以上の方針に基づいて、割れ目とその周囲の熱輸送および水循環の問題を解く。問題設定は次のとおりである。3次元の不透水の地殻の中に、厚さが十分薄い平面状の割れ目を配置する。そしてこの領域の全体を下部から温める。水循環の取扱いに関して、2種類の計算を行った:
(a) まずはじめに、割れ目の内部を「高熱伝導率プロキシ」に置き換えた計算を行った (たとえばSpinelli and Wang, 2008)。水循環の効果を、高い熱伝導率で近似する。この場合、解く式は熱伝導方程式のみである。ただし、割れ目が薄いことに加え、割れ目の熱伝導率が高いのであるから、時間ステップの制約はより厳しくなる。計算を行った結果、このような厳しい場合でも、割れ目の中の熱輸送と割れ目の周り熱輸送を非同期に時間積分することにより、高熱伝導率を持った割れ目の中の熱輸送を短時間かつ安定化に解くことができることがわかった。以上から本研究の手法の有効性が示された。
(b) 次に、割れ目の中の熱水循環をあらわに扱った場合についての計算も行った。この場合に解く式は、割れ目内部の水循環と熱輸送(熱伝導に加えて水循環による移流)と、割れ目の周囲の部分の熱輸送(熱伝導のみ)である。水循環による流れ場を得るために、通常は陰解法を用いるが、本研究では音速を低減して陽解法で解く解法 (川田・2020, JpGU) を用いた。計算の結果によると、割れ目の内部と外部とで非同期の時間積分を行うことで、計算時間を節約しつつ、安定的に流れ場・温度場を求めることができることがわかった。
最後に本方法の発展について述べておく。今回はコントロールボリュームを用いた差分法で定式化を行っため、直方体の格子の中に四角形の割れ目が存在する場合の計算である。有限要素法の定式化を行うことで、割れ目が不規則な場合や複数の割れ目が繋がった場合などについても本研究の方法を適用することができる。また、割れ目の中と周囲との熱のやり取りは熱拡散であるから、ルンゲ・クッタ法により拡散項を加速させることも考えられる (Meyer et al., 2014)。