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[MIS17-09] 白亜紀フレアアップイベントにおける花崗岩質マグマ生成プロセス〜愛媛県北部梶島の例〜
キーワード:花崗岩質マグマプロセス、岩石成因研究、白亜紀フレアアップ
大陸地殻の成長・成熟過程を解明するためのカギとして,火山弧でのマグマの異常発生期である“フレアアップ期”の大規模珪長質火成活動が注目されている。フレアアップ期の火成活動は地殻中に大規模な花崗岩塊を形成し,大陸地殻の成長に関与する。近年の珪長質岩類の同位体岩石学的研究からマントル活動による熱的影響がフレアアップを引き起こすトリガーとして有力視されるとともに(Attia et al., 2020, Geology),西南日本白亜紀の地殻岩石研究からもフレアアップ期のマントルからの熱的影響が指摘されている(Takatsuka et al., 2018, Lithos)。西南日本内帯には,東アジア大陸縁辺域の白亜紀フレアアップイベントで形成された花崗岩類が広く分布している。同位体岩石学をはじめとした研究から,これらの花崗岩類は苦鉄質下部地殻の部分溶融によるものであると考えられているが(例えば, Nakajima 2004, Trans. R. Soc. Edinb. Earth Sci.),そのメカニズムはいまだ明らかにされていない。梶島は愛媛県北東部に位置し,岩脈状の花崗岩類を伴う白亜紀斑れい岩類が広く露出する。堀内(1985, 岩石鉱物鉱床学会誌)は当地域に分布する斑れい岩類について詳細な記載岩石学研究を行い,鉱物組成の特徴から当地域の斑れい岩類が同一のマグマから形成されたことを示唆した。一方で,Kagami et al. (1985, Geochem. J.; 2000, Island Arc)は梶島の斑れい岩類を含む西南日本白亜紀深成岩類の同位体岩石学研究から苦鉄質岩と珪長質岩の成因的関連性を示唆した。Shimooka et al. (2023, Jour. Min. Pet. Sci.)は梶島の斑れい岩類と花崗岩類についてジルコンU-Pb年代測定を行い,斑れい岩類と花崗岩類から92〜91 Maと約84 Maのマグマ活動年代を報告した。白亜紀の斑れい岩類はマントルの活動に伴って形成された可能性が指摘されていることから(例えば,Kodama et al., 2019, Jour. Min. Pet. Sci.),梶島における斑れい岩類と花崗岩類との成因関係を明らかにすることは,西南日本のマントル−地殻間のマグマ過程の解明と白亜紀フレアアップのメカニズムを理解することに繋がると考えられる。本研究では,梶島の花崗岩類および斑れい岩類について,岩石記載,全岩化学組成分析,ジルコンHf同位体組成分析を行い,白亜紀フレアアップイベントでの花崗岩質マグマ生成プロセスを明らかにした。当地域の花崗岩類は,母岩の斑れい岩中に岩脈状に産出する。また,斑れい岩類中にはしばしばcmオーダーの花崗岩質岩の網状構造が発達する。この網状構造を示す花崗岩質岩は,斑れい岩類と漸移的な境界を示し,一部は花崗岩質岩脈やなメルトプール状の産状へと変化する。これらの花崗岩類中には石英を含む部分溶融様組織が見られる(下岡ほか, 2024, 岩石鉱物科学)。斑れい岩類中には半自形~他形の輝石,融食された斜長石とカンラン石をポイキリティックに内包する角閃石巨晶が観察できる。また,しばしば10 cmにおよぶ角閃石が濃集する産状が見られる。主要元素組成分析では,斑れい岩類がSiO2含有量41.45〜50.79 wt%,K2O含有量〜0.16 wt %,花崗岩類がSiO2含有量72.0〜75.7 wt%,K2O含有量0.9〜5.5 wt %の組成範囲を示す。ジルコンU-Pb年代に再計算したジルコンのHf 同位体組成は,斑れい岩類と花崗岩類で類似した組成範囲(εHf (t): -8.9〜1.9;CHURの値はIizuka et al. (2015, Proc. Natl. Acad. Sci.)を用いた)を示す。梶島における斑れい岩類と花崗岩類とのジルコンU-Pb年代,ジルコンHf同位体組成の一致は,両者の成因的関連性を強く示唆する。野外および鏡下での記載岩石学的特徴からは,斑れい岩類の部分溶融もしくは斑れい岩質マグマの結晶分化による花崗岩質マグマの生成が示唆される。当地域の深成岩類はK2Oに乏しい斑れい岩およびトーナル岩質マグマからK2Oに富む花崗岩質マグマへの変化を示していた。花崗岩類や斑れい岩類中に部分溶融を示唆する産状が見られることから,斑れい岩類の部分溶融によるトーナル岩質マグマの形成(Stage 1)と,トーナル岩の再溶融による花崗岩質マグマの形成(Stage 2)という二段階の形成プロセスを部分溶融モデリングにより求めた。モデリングの結果,Stage 1は斜長石,直方輝石,単斜輝石,磁鉄鉱を溶け残りとする斑れい岩類の部分溶融により説明可能であり,Stage 2は斜長石,石英,黒雲母,磁鉄鉱を溶け残りとする部分溶融で説明可能であることが示された。このように, 梶島は, 活動的大陸縁における苦鉄質深部地殻の部分溶融によるトーナル岩の生成と, それらの再溶融を通した地殻分化過程を記録した地質体として捉えられる。