日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS22] 生物地球化学

2025年5月27日(火) 15:30 〜 17:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:福島 慶太郎(福島大学)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、座長:福島 慶太郎(福島大学)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)

15:45 〜 16:00

[MIS22-08] 四万十川森林流域における季節別の水質トレンド

*稲垣 善之1、酒井 寿夫1篠宮 佳樹1、山田 毅1、野口 享太郎1、森下 智陽1藤井 一至1 (1.森林総合研究所)

キーワード:季節、トレンド、風化、水質、窒素

私たちが利用する水の多くは森林流域を水源としており、森林生態系からの渓流水質が良好に維持されることが重要である。1970年代には人間活動による酸性降下物の影響によって、現代では顕在化する地球規模での気候変動によって渓流水質に悪影響を及ぼすことが懸念されている。四万十川流域は遠隔地にあり、酸性降下物による水質への悪影響は深刻でないと認識されている。しかし、四万十川流域における20年以上にわたる長期の水質モニタリングの結果より、硫酸イオン濃度は低下する傾向が報告され(Inagaki et al 2025 Ecol Res)、遠隔地であっても水質は酸性降下物の影響を受けていた。この研究は溶存成分濃度の年平均値を用いた解析であったため、季節別の長期トレンドは不明である。本研究では、長期モニタリングにおいて流量を観測したモミ天然流域において季節別に溶存成分の長期トレンドを明らかにすることを目的とした。
調査対象は四万十川流域の鷹取試験地のモミ天然流域(18.7ha)である。1995年5月から2019年12月までの約24年間にわたって定期的に渓流水を採取した。また、パーシャルフリューム流量計を設置し、採水時の流量を記録した。渓流水の溶存成分を分析した。解析については、溶存成分濃度について、流量、日照時間、年、季節を説明要因とする重回帰分析を行った。季節については、3-5月、6-8月、9-11月、12-2月をそれぞれ春、夏、秋、冬とした。季節別のトレンドを評価するために、季節ごとに流量、日照時間、年を説明変数とする重回帰分析を行った。変数は必要に応じて対数変換を行い、長期トレンドについては年変化率を算出した。
その結果、季節別の溶存成分の変動は物質によって異なっていた。カチオンでは、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムイオンは秋から冬の濃度が高かった。アニオンでは、硝酸イオンで、冬に最も高く、春に低下し夏から秋にかけて増加する傾向が認められた。硫酸イオン、塩化物イオンは冬から春にかけて高い値を示し、夏から秋にかけて減少した。重炭酸イオンについては、秋から冬にかけて濃度が増加し、カリウムイオンと同様の傾向を示した。一方、これらの溶存成分の長期トレンドについては、カチオン類については有意なトレンドは認められなかった。硫酸と塩化物イオンはどの季節でも低下するトレンドを示した。重炭酸イオンは、春と夏で増加する傾向が認められた。硝酸イオンについては、春と秋で低下する傾向が認められた。これらの結果より、酸性降下物である硫酸と塩化物イオンの減少は、樹木の生育期における活発な呼吸に由来する重炭酸イオンの増加によって相殺されていた。硝酸イオンは樹木の吸収が旺盛である春と秋において濃度が減少し窒素欠乏が増大していた。一方、夏は高温によって樹木の窒素吸収が抑制されることで、硝酸イオン濃度の低下は認められなかった。以上の結果より、渓流水質の長期トレンドの季節の影響は物質によって異なっており、水質変動のメカニズムを理解するうえで重要な知見を提供している。