日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS22] 生物地球化学

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:福島 慶太郎(福島大学)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)

17:15 〜 19:15

[MIS22-P02] 水田は溶存鉄の供給源か?—雄物川流域における1年間の季節・空間変動の解析—

*田代 悠人1早川 敦1、石川 祐一1大西 健夫2 (1.秋田県立大学、2.岐阜大学)

キーワード:鉄、河川、水田

陸域から海域へと河川を介して供給される溶存鉄(dFe)は、沿岸域や外洋の基礎生産を支える重要な栄養塩である。しかし、日本全国の河川における平均dFe濃度は約0.024 mg/Lと低く(放射線医学総合研究所, 2006)、一部の沿岸域では鉄不足が「磯焼け」(海藻類の減少や衰退)の原因と考えられている。一方、日本海側(東北・北陸)の河川ではdFe濃度が約0.10 mg/L以上と比較的高く、この地域特有の供給メカニズムが示唆されるが、その原因は未解明である。鉄は還元環境から流出する性質を持つことから、本研究では日本海側に広がる水田地帯がdFeの供給源として機能している可能性を仮説として設定した。これまで水田から河川へのdFe供給についてはほとんど注目されておらず、その濃度レベルや季節変動に関するデータの蓄積も十分ではない。もし水田が河川を介して海へとdFeを供給していることが明らかになれば、水田の多面的機能の一つとして新たな知見となる。そこで本研究では、水田から河川へのdFe供給の実態を明らかにするため、秋田県の雄物川流域を対象に、本川6地点・支流5地点・田面水1地点の計12地点で毎月2回の採水調査を1年間(2024年4月–2025年3月)行った。特に、雄物川中流域に位置する横手盆地は秋田県のブランド米「あきたこまち」の主要生産地であり、雄物川から取水した灌漑水が再び河川へ放流されることから、農業活動の水質影響が懸念される地域でもある。仮説通り水田地帯がdFeの供給源となっている場合、雄物川が横手盆地を貫流するにつれてdFe濃度の増加が確認されると予想される。
 本川および支流の多くの地点で、代掻き後の6月から7月にかけてdFe濃度の増加が確認された。特に、横手盆地の主要な農業排水路である大宮川と横手川では、6月後半に約0.75 mg/Lという高濃度が検出され、年間で最も高い値を示した。雄物川本川のdFe濃度も、6月後半には横手盆地を貫流するにつれて0.114 mg/Lから0.271 mg/Lへと増加しており、これら排水路からの流入の影響が顕著であった。また、6月から7月にかけて田面水のdFe濃度も0.161 mg/Lから1.019 mg/Lへと増加していたことから、水田土壌では代掻き後の湛水期に還元環境が進行し、水田から多量のdFeが排水路を経由して雄物川へ供給されたと考えられる。その後、中干し~間断灌漑~落水期である7月から9月にかけて多くの地点でdFe濃度は低下した。10月から1月にかけては、明確な季節変化は見られなかった。しかし興味深いことに、灌漑期間が終了した9月以降も、大宮川と横手川のdFe濃度は約0.20–0.50 mg/Lと比較的高い値を維持していた。このメカニズムは明らかではないが、横手盆地の水田土壌の大部分が還元的なグライ土壌であることから、非灌漑期の秋から冬にかけても持続的なdFe供給が生じていると考えられる。さらに、毎採水時における各地点のdFe濃度は、溶存有機物(DOC)濃度および溶存マンガン(dMn)濃度と高い相関を示した(DOC, r = 0.56–0.98; dMn, r = 0.59–0.99)。このことから、雄物川に含まれるdFeは1年を通して還元グライ土由来の有機態鉄である可能性が高い。河口付近におけるdFe濃度は0.072–0.153 mg/Lであったことを踏まえると、灌漑による季節変動はあるものの、年間を通じて水田由来のdFe(主に有機態鉄)が雄物川を通じて日本海へと相当量供給されていることが明らかになった。