17:15 〜 19:15
[MIS22-P04] 安定同位体をトレーサーとした火口湖におけるメタン放出フラックスと好気的酸化速度の同時定量

キーワード:熱水、安定同位体、メタン酸化
地球上の生物の多くは太陽光をエネルギー基盤とした生態系を構成している。しかし、太陽光が届かない環境、例えば深海や地殻内などでは、CH4をエネルギー基盤とする生態系(CH4依存生態系)が存在する。これらの生態系は地球上の生命進化や炭素循環において重要な役割を果たしていると考えられるが、その規模についてはほとんど把握されていない。本研究では、火山活動によって湖底からCH4が供給されている十和田湖(最大深度300m)において、CH4依存生態系の規模を、地球化学的手法を用いて定量化した。火山活動により供給されるCH4に依存する生態系は、始源的な特徴を保持している可能性がある。また、カルデラ湖は地形が閉鎖的で水の滞留時間も長く、湖底からのCH4放出フラックスの推定に好都合な環境になっている。
観測は2024年6月と10月に実施した。採水に先立ち、CTDプロファイラーを用いて水温と溶存酸素濃度の鉛直分布を測定した。次にニスキン採水器を用いて各層から湖水試料を採取し、CH4の現場濃度と同位体比を決定するため、分取直後に各バイアル瓶にHgCl2を添加して滅菌した上で密封した。さらに、CH4酸化速度と炭素同位体分別係数αを求めるため、酸化培養実験も実施した。酸化培養実験用の試料はバイアル瓶に分取した上でHgCl2を添加せずに密封し、現場環境を再現した環境下で1~3日間静置してからHgCl2を添加して培養を停止した。CH4の濃度と同位体比(δ13C、δ2H)は、連続フロー型同位体比質量分析計を用いて測定した。
培養実験用試料の分析結果から、深水層でCH4酸化が活発であることが明らかになった。また、微生物によるCH4酸化に伴う炭素同位体分別係数αは、1.020±0.002であった。このαと各深度におけるCH4濃度およびδ13Cを用いて、水柱での酸化によるCH4除去を補正した「オリジナル」のCH4濃度(C0)を推定した。次に、各深度におけるC0を用いて、深水層のCH4総メタン量(Ntotal)を推定した。Ntotalは6月には約1.8x106 molCH4、10月には約2.2x106 molCH4であった。一方、CH4濃度から算出したNtotalは、6月が0.4x106 molCH4、10月が0.22x106 molCH4となり、観測インターバル間における平均CH4酸化速度は8.4x103 molO2/dayとなった。一方、6月と10月の溶存酸素濃度変化から算出した深水層の総酸素消費速度は5.6x104 molO2/dayであった。これらの結果から、深水層中の総酸素消費速度の約15%がCH4酸化による酸素消費であると推定された。なお、この値にはCH4依存生態系で生産された有機態窒素や窒素の酸化分は含まれていないため、これはCH4依存生態系による酸素消費速度の下限値と考えられる。したがって、CH4酸化は深水層における生態系のエネルギー源として重要な役割を果たしていると結論づけられる。さらに、湖底から放出されたCH4のほとんどは、湖水で消費されていることが明らかになったことから、CH4依存生態系の規模は主に十和田火山の活動度によって制御されていると考えられる。現在の十和田湖における放熱量は、6月から10月にかけての深水層中の水温分布の経時変化から64 MWと推定された。
なお観測実施にあたって、弘前大学理工学研究科の梶田 展人様にお世話になりました。ここに記して御礼申し上げます。
観測は2024年6月と10月に実施した。採水に先立ち、CTDプロファイラーを用いて水温と溶存酸素濃度の鉛直分布を測定した。次にニスキン採水器を用いて各層から湖水試料を採取し、CH4の現場濃度と同位体比を決定するため、分取直後に各バイアル瓶にHgCl2を添加して滅菌した上で密封した。さらに、CH4酸化速度と炭素同位体分別係数αを求めるため、酸化培養実験も実施した。酸化培養実験用の試料はバイアル瓶に分取した上でHgCl2を添加せずに密封し、現場環境を再現した環境下で1~3日間静置してからHgCl2を添加して培養を停止した。CH4の濃度と同位体比(δ13C、δ2H)は、連続フロー型同位体比質量分析計を用いて測定した。
培養実験用試料の分析結果から、深水層でCH4酸化が活発であることが明らかになった。また、微生物によるCH4酸化に伴う炭素同位体分別係数αは、1.020±0.002であった。このαと各深度におけるCH4濃度およびδ13Cを用いて、水柱での酸化によるCH4除去を補正した「オリジナル」のCH4濃度(C0)を推定した。次に、各深度におけるC0を用いて、深水層のCH4総メタン量(Ntotal)を推定した。Ntotalは6月には約1.8x106 molCH4、10月には約2.2x106 molCH4であった。一方、CH4濃度から算出したNtotalは、6月が0.4x106 molCH4、10月が0.22x106 molCH4となり、観測インターバル間における平均CH4酸化速度は8.4x103 molO2/dayとなった。一方、6月と10月の溶存酸素濃度変化から算出した深水層の総酸素消費速度は5.6x104 molO2/dayであった。これらの結果から、深水層中の総酸素消費速度の約15%がCH4酸化による酸素消費であると推定された。なお、この値にはCH4依存生態系で生産された有機態窒素や窒素の酸化分は含まれていないため、これはCH4依存生態系による酸素消費速度の下限値と考えられる。したがって、CH4酸化は深水層における生態系のエネルギー源として重要な役割を果たしていると結論づけられる。さらに、湖底から放出されたCH4のほとんどは、湖水で消費されていることが明らかになったことから、CH4依存生態系の規模は主に十和田火山の活動度によって制御されていると考えられる。現在の十和田湖における放熱量は、6月から10月にかけての深水層中の水温分布の経時変化から64 MWと推定された。
なお観測実施にあたって、弘前大学理工学研究科の梶田 展人様にお世話になりました。ここに記して御礼申し上げます。