日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS22] 生物地球化学

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:福島 慶太郎(福島大学)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)

17:15 〜 19:15

[MIS22-P11] 水溶液中のアンモニアの安定窒素同位体比の微量・簡易分析法の開発

*大野 舞子1滝沢 侑子2、力石 嘉人2 (1.北海道大学大学院環境科学院、2.北海道大学低温科学研究所)


キーワード:窒素同位体比、アンモニア、誘導体化

窒素は、一次生産者によるアンモニアの固定(NH3→NOrg)、生物による有機物の分解(NOrg→NH3)、硝酸菌や脱窒菌によるアンモニアからの硝化と脱窒(NH3→NO3→N2)など、酸化還元形態を変化させながら環境中を循環する。これらの窒素の安定同位体組成(δ¹⁵N値)は、起源の特定や、各プロセスのフラックスを評価するためのツールとして用いられてきた。しかし、アンモニアのδ¹⁵N値の測定は、アンモニアが窒素循環の中心的な形態であるにもかかわらず、未だに技術的に難しい。一方で、アンモニアは、一次生産者にとって重要な窒素源であり、また多くの動物にとって有毒な化学物質である。そのため、水系生態系の状態を適切に把握するためには、アンモニアの起源と流入/流出フラックスを正確に知ることが強く求められている。
これまでアンモニアのδ¹⁵N値の測定には、主に沈殿法とバクテリア法の2つの手法が用いられてきた。前者は、アンモニアを蒸留法や拡散法によって精製した後、テトラフェニルホウ酸アンモニウムや硫酸アンモニウム塩として元素分析-同位体比質量分析計(EA-IRMS)に導入してδ¹⁵N値を測定する。後者は、アンモニアを次亜臭素酸塩(BrO)等で硝酸塩(NO3)に変換した後、N2O還元酵素活性を持たない脱窒細菌Pseudomonas aureofaciensで亜酸化窒素(N2O)に変換し、パージ・アンド・トラップ型ガスクロマトグラフ-同位体比質量分析計(PT-GC-IRMS)に導入してδ¹⁵N値を測定する。しかしこれらの手法は、前処理に非常に高度な技術と長い時間が必要であり、世界でも限られた少数の研究室でしか測定することができなかった。
そこで本研究では、水溶液中のアンモニアの同位体比を、簡易かつ迅速に測定する新しい測定法の開発に挑戦する。従来の化学的誘導体化法は、脱水反応を伴うアシル化に依存していたため、水溶液中でのNH₃のアシル化は難しいとされてきた。しかし、脱水反応ではなく脱塩酸反応を伴うアシル化を利用することで、水溶液中でも簡易にアンモニアの誘導体化を実現した。具体的には、水溶液中でアンモニアのアシル化を行うために、アシル化剤としてイソプロポキシクロロホルメイトを、触媒としてピリジン用いた。これによりアンモニアを室温で数十分の一段階反応により、イソプロポキシカルボニル-NH₂誘導体に変換した。イソプロポキシカルボニル-NH₂誘導体は、ジクロロメタン/n-ヘキサン(3/2)で抽出した後、ガスクロマトグラフ–同位体比質量分析計(GC-IRMS)に導入して同位体分析を行った。
これまでに実施した条件検討により以下の4つの結果を得た。
1,誘導体化反応は、室温で40分間で完了する。
2,得られた誘導体のδ¹⁵N値は標準偏差0.3‰-0.9‰で測定できる。
3,誘導体は、室温で16時間放置してもδ¹⁵N値の変化は認められない(1σ = 0.2‰、n=6)
4,誘導体の収率は安定せず(30%-100%)、またその原因も不明である。
以上の結果は、本手法を用いることで、高度な技術を必要とせずに、簡易かつ迅速にアンモニアのδ¹⁵N値が測定できることを示唆している。一方で、信頼性の高い結果を得るには、誘導体化反応の温度や反応溶液のpHなどを検討し、収率の向上・安定化を行う必要がある。また今後は、標準溶液に加えて、海水や淡水、生物試料に含まれるアンモニアについて安定窒素同位体分析が実施できるかを検討し、必要に応じて最適化を行う予定である。