日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[M-IS24] 歴史学×地球惑星科学

2025年5月28日(水) 10:45 〜 12:15 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(國學院大學)、玉澤 春史(東京大学生産技術研究所)、座長:加納 靖之(東京大学地震研究所)、玉澤 春史(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(國學院大學)

10:45 〜 11:15

[MIS24-05] 砂岩製巨大石造物の石材の産地同定-土佐藩主山内家大名墓を例にー

★招待講演

*谷川 亘1,2、山本 哲也1、中村 璃子2、多田井 修4、望月 良親2、高木 翔太3、徳山 英一2 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門 高知コア研究所、2.高知大学、3.高知城歴史博物館、4.マリン・ワーク・ジャパン)

キーワード:砂岩、帯磁率、大名墓、土佐藩主山内家

歴史文化的巨大石造物に使用されている石材はその当時の時代背景を映し出す鏡である。特に切り出された石材の産地、流通経路、および製作技法は当時の治世、文化、経済状況を知る手がかりとなる。一部の石造物については石材の産地情報が文献資料に記載されているが、科学的に精査された例は多くない。そこで本研究は土佐藩主山内家墓所の墓石で使用されている砂岩を対象に地球物質科学的手法により産地同定を試みた。
高知県高知市にある土佐藩主山内家墓所には初代藩主一豊(1605年死去)から十六代藩主豊範(1886年死去)までの大名とその家族の墓が建てられている。いずれの墓標も高さは2m以上もある一枚岩からなり、製作の苦労がうかがえる。全十六代の大名のうち、初代、二代、九代、十五代を除く墓石は白色~灰色の砂岩製である。また、文献調査により八代藩主豊敷の墓石は東諸木地区(高知市)、十一代藩主豊興は東諸木地区(高知市)と甲殿地区(高知市)、十六代は加領郷(安芸郡奈半利町)から調達されていることがわかっている(望月2023)。しかし実際の採石場所についてはわかっていない。
そこで本研究では、聞き取り調査により採石地点の候補を絞り、大名墓石と採石場所の岩石を対象として調査を実施した。調査作業として、肉眼観察、携帯型帯磁率計(KT-10C、Terraplus社)を用いた帯磁率測定、小型測色計(Spectro1、Variable社)を用いた色彩値測定、携帯型蛍光X線分析装置(X-MET8000、日立ハイテクサイエンス社)を用いた元素分析を実施した。帯磁率の測定は一つの対象についてランダムな位置で50~60点測定し、その平均値と偏差を求めた。
肉眼観察の結果、八代はじめ一部の墓石には10mm幅の暗灰色の脈状模様が発達していた。脈状模様が発達している砂岩は2mmほどの礫が比較的多く混入していた。同じ脈模様を持つ砂岩は雀ヶ森南部の転石で確認できた。十二代と十六代の墓石の形状は切断加工されておらず、全体的に丸みを帯びている。また礫粒子が混入していたと思われる場所は穴が開いており、穴表面の辺縁部も角が取れて丸みを帯びていた。聞き取り調査と現地見学の結果、(A)高知県春野町東諸木地区の雀ヶ森南部、(B)同地区名村の鼻(なむらのはな)、および(C)甲殿地区にある野本家の裏庭で採取された砂岩が使われている可能性があることがわかった。なお、野本家は藩政末期に組頭を務めていたという記録がある。この3地点の地質はいずれも「砂岩泥岩互層 前期白亜紀後期-後期白亜紀前期付加体」と分類されているが、現地では砂岩層のみ確認できた。帯磁率測定の結果、三代から十六代の砂岩製の大名墓石のうち、多くは0.17×10-3~0.20×10-3 SIを示したが、十一代の墓標がやや高く(0.26×10-3 SI)、十六代の墓標がやや低い(0.06×10-3 SI)値を示した。また十一代の台座(基礎、基壇)は同本体(身)よりやや低い値を示した。一方、3地点の露頭の砂岩は0.18×10-3~0.20×10-3 SIを示し、大きな違いは認められなかった。また、加領郷地区においては、露頭の砂岩(砂岩泥岩互層 始新世-前期漸新世付加体)、および江戸時代に造られた石垣と墓石(濱田家)は春野町の砂岩と比較して低い値を示した(0.08×10-3~0.14×10-3 SI)。
帯磁率と肉眼観察の結果を踏まえると、砂岩製大名墓の多くは八代もしくは十一代の墓石と同じ高知県春野地区から採取された砂岩を示唆する。また、八代の墓標と十一代の台座の帯磁率が類似していることから、十一代の本体(身)は甲殿、台座は東諸木で採取された岩石の可能性がある。十二代と十六代の墓石はその幾何的特徴から海岸もしくは河川敷で採取された自然石の可能性を示唆する。帯磁率の結果は十六代の墓石は他の墓石と採石地が異なることを示唆しているが、加領郷から採取された砂岩であるかは現時点では断言できない。今後、色彩値と元素濃度測定の結果を踏まえて、総合的に評価を進める予定である。