日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT37] 稠密多点GNSS観測が切り拓く地球科学の新展開

2025年5月26日(月) 13:45 〜 15:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、藤田 実季子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、大塚 雄一(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、西村 卓也(京都大学防災研究所)、座長:太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)

14:30 〜 14:45

[MTT37-04] 稠密測地観測データによる2024年能登半島地震の自己相似性を考慮した地震時すべり分布モデルの推定

*山田 太介1太田 雄策1西村 卓也2平松 良浩3木下 陽平4吉田 圭佑1伊藤 嘉秋1大舘 未来1 (1.東北大学理学研究科、2.京都大学防災研究所、3.金沢大学、4.筑波大学)

キーワード:von Karman 正則化、すべり分布推定、2024年能登半島地震、ベイズ最適化

2024年1月1日に発生したMw 7.5能登半島地震は,強震動,大規模な地殻変動,およびそれに伴う津波浸水により,能登半島および周辺地域に甚大な被害をもたらした.Yamada et al. (EPS, 2025) は,国土地理院のGEONET,SoftBank株式会社の独自観測点および,本震前までの群発地震を捕捉するために京都大学・金沢大学により設置された臨時観測点におけるGNSSデータ,ならびにPixel Offset法を適用して取得されたALOS-2/PALSAR-2のLOS変位データからなる稠密測地観測網データを用いて,地震時すべり分布の推定を行った.彼らは,すべり推定において一般的に用いられるラプラシアン平滑化の拘束を付して解を得ている.一方,同地震はこれまでにない超稠密測地観測網のデータが得られたイベントであり,より細かいすべり分布の描像を得られる可能性がある.これらの背景にもとづいて,本研究ではすべりの自己相似性に着目した正則化拘束を付した解析を行い,同イベントの地震時すべりの複雑性について議論を行なう.また,使用する観測網と推定されるすべりの空間波長に関する議論も実施する.
 本研究では日本海プロジェクトによる断層モデル (NT2–10) を参照し,計6枚の断層を仮定した.仮定した断層のうち珠洲沖の3断層については,地表変位および津波データにもとづいて推定されたすべり量とすべり角 (Fujii and Satake, 2024) を採用した.陸域にかかる残りの3断層については,それぞれ約2 km×2 kmの小断層に分割し,すべりの2成分を推定した.
すべり分布の推定にはベイズ最適化手法を採用し,未知パラメータの事後分布を評価した.その事前分布として,上述したすべりの自己相似性に基づく正則化拘束を採用した.同拘束は具体的にはvon Karman型の自己相関関数により実現される.本研究では,特にこの拘束における相関距離パラメータおよびすべりの拘束の強度に関するパラメータをモデルパラメータとして扱い,すべり量とともに推定し,その不確実性を評価した.これらのパラメータは3枚の断層とすべりの2成分についてそれぞれ独立に設定し,推定結果とすべりの特徴を比較した.また,サンプリング手法としてNo-U-Turn Samplerを用いることで,非線形性の強い高次元問題の効率的な探索を試みた.
 推定の結果,半島北岸の東部および西部付近に顕著な逆断層成分を含む 2つのピーク (~8 m) を持つすべり分布を得た.最大すべりが推定された断層上では,走向方向にすべり量が短波長で変化するモデルが推定された.それに対して推定された相関距離は,走向・傾斜方向に対してそれぞれ約 5 km,11 km (事後平均値) であり2方向間で大きく異なる.この結果は走向方向に粗度の高いすべり分布モデルと整合する.
 さらに観測点密度を低減した場合の試験としてGEONETのみを使用した推定も実施した.その結果,獲得したすべり分布において前述の2つのピークは見えず,走向方向に鈍され,比較的浅部に集中したすべりが推定された.推定された相関距離は横ずれ成分に対してそれぞれ約 17 km,6 km (事後平均値) であり,走向方向に長波長かつ傾斜方向に短波長のすべり分布モデルと整合する.これらのことから,すべり分布と同時に推定される相関距離は,実際の現象の特徴量である相関距離値に加えて,使用する観測網によるすべりの分解能の影響も包含する見かけの相関距離値であることが示唆される.したがって本正則化においては相関距離値を事前に仮定せず同時に評価することが望ましいと考えられる.
 本研究では以上の結果に加え,現在すべりを事前に仮定している珠洲沖の断層に関する定量評価も試みる.その際,佐渡ヶ島や新潟県沿岸部の,現状インバージョンに使用していないSoftBank観測点を追加し,不確実性の低減を目指す.また,一部観測点におけるキネマティック解析の結果を用い,地震時すべりに関するより詳細な議論を進める予定である.

謝辞: 本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは,「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じて,ソフトバンク株式会社および ALES株式会社より提供を受けたものを使用しました.本研究に使用したALOS-2データは,JAXAの無償公開データを利用しました.またALOS-2データの解析には,SAR研究グループPIXELを通じて得られた,小澤拓博士の開発したInSAR解析ソフトウェアRINCを使用しました.