日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ40] プラネタリーディフェンス-国際的な取り組みと協力

2025年5月29日(木) 15:30 〜 17:00 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:吉川 真(宇宙航空研究開発機構)、Michel Patrick(Universite Cote D Azur Observatoire De La Cote D Azur CNRS Laboratoire Lagrange)、奥村 真一郎(NPO法人日本スペースガード協会)、座長:嶌生 有理(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、Patrick Michel(Universite Cote D Azur Observatoire De La Cote D Azur CNRS Laboratoire Lagrange)


15:45 〜 16:00

[MZZ40-08] 遠地で観測された気圧変動からのツングースカイベントの制約: Pekeris 波の寄与

*中島 健介1 (1.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:ツングースカイベント、大気ラム波、ペケリス波、大気掘削

はじめに
1908年に起こった天体衝突であるツングースカイベントに際しては、世界各地で顕著な気圧変動が観測された(Whipple, 1930, 1934)。イベントの発生と各地で観測された気圧変動の時間差から、この気圧変動はラム波であると推定されている。
中島(2023, JpGU MZZ45-09) はこのラム波の符号がマイナスであることに着目し、解析的な手法に基づいて天体衝突のエネルギーの分配を議論し、その8割以上が高さ数kmから数十kmまで大気を噴き上げることに使われたと結論付けた。しかしその後に行った流体力学的数値計算により、中島(2023)の考察の枠組みには部分的な修正が必要であることがわかったので、本発表で、修正の要点を述べる。

負のLamb波の起源
ツングースカイベントに伴って英国で観測されたLamb波の波形(Whipple, 1930, Q.J.R.Meteorol. Soc.)の顕著な特徴は、主要な気圧偏差の符号がマイナスであることである。これは、火山の噴火などに伴ったLamb波の気圧偏差が概ね正であったことと著しい対比を成す。Lamb波は分散性が弱く、遠地の波形も波源の性質を素直に反映していることを考えると、隕石が対流圏下部で爆発した結果、全体として負の気圧偏差が生じたことを示唆する。隕石爆発が火山や核実験と大きく異なるのは、隕石が爆発に先立って大気中を通過した領域が超高温で低密度の wake となり、爆発後に隕石および下層大気の相当の質量が、この wake を通って上昇して上層大気に至るplume を形成した後、数千キロの範囲に飛散し降下することである(例えば Artemieva et al, 2019, ICARUS)。この plume の形成から拡散に至る過程を総合すると、隕石の爆発地点近傍の大気下層(高度数キロ)に集中した負の質量源が存在し、大気上層には数千キロの範囲に拡散した正の質量源が存在することになるだろう。このうち前者は、爆発直後の衝撃波などの短い時間スケールの消散・調節過程が終わって、大気が静水圧平衡に戻った後(例えば Bannon, 1995,J. Atmos. Sci.)には、爆発地点付近の数十kmスケールに広がる負の大気下層気圧偏差として落ち着くと考えられ、これがLamb波として水平伝播したことにより、遠地で観測された負偏差の遠地気圧変動が理解できる。

Lamb 波と Pekeris 波の励起
圧縮性大気の線形波動の流体力学計算を行ってみると、天体衝突が引き起こす各種の波動源の高度が比較的高い場合には、Lamb 波だけでなく Pekeris 波も励起される。これは、高度 100km 程度までの大気に及び、Lamb 波よりも遅く220 m/s 程度の速度で遠距離まで伝播可能な内部重力波であり、近年では2022年のトンガ火山噴火に際して全球的に観測されている。具体的な詳細は当日に示すが、plume 形成に伴う負の質量源により励起される Pekeris 波の符号は正であり、また、この Pekeris 波の励起に対応して Lamb 波の振幅の絶対値が大きくなることがわかる。したがって、観測された Lamb 波の振幅から天体衝突のプロセスを推定するには、この Lamb 波振幅の増大を考慮に入れねばならない。

plume 形成へのエネルギー分配への影響
Pekeris 波の寄与を考慮しない場合、もっともらしいパラメタを用いると、plume 形成に使われたエネルギーは全体の 85%程度と見積もられる。詳細は当日示すが、Pekeris 波の寄与を考慮すると、これが全体の 65% 程度まで小さくなる可能性がある。それでも、衝突エネルギーの相当大きな部分が plume 形成に分配されたであろう、という結論は大きな影響を受けない。より詳細を検証するには、1908年当時の気圧観測記録(Pekeris 波を反映する部分は Whipple の論文には掲載されていない)を改めて精査する必要がある。

謝辞
本研究は JSPS 科研費 JP22K18872 の助成を受けて行った。