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[MZZ42-05] 中性子照射と希ガス質量分析法を用いた極微量ハロゲン分析によって明らかとなったマントル内揮発性物質循環
キーワード:ハロゲン、希ガス質量分析、中性子照射、揮発性物質
ハロゲン(Cl、Br、I)は揮発性、液相濃集性が高いため、海洋、堆積物、地殻などの表層のリザーバーに高濃度で存在する。またIは生物に取り込まれやすいため、地球における各リザーバー間でBr/Cl比は大きく変わらない一方で、I/Cl比は変動が大きく、例えば海洋のI/Cl比(モル比)はCIコンドライトの値を大きく下回っており、深海底堆積物や、堆積物中の有機物の分解で放出されたIを取り込んだ間隙水では、極めて高い値がみられる[1]。このようにハロゲンは、地球表層のリザーバーで異なる組成を持つことから、地球表層-マントル間での物質循環、とくに水循環のよいトレーサーである。マントル物質中のハロゲン、とくにBrとIについてはその低い濃度から、直接ハロゲンを対象とする従来の分析手法では測定が困難であったが、近年、中性子との核反応によりハロゲンを希ガス同位体に変換し、それを希ガス質量分析により定量してもとのハロゲン量を求める方法(neutron irradiation noble gas mass spectrometry, NI-NGMS)[2]により高感度分析が可能になり、これを用いて得られた中央海嶺やホットスポットの玄武岩ガラス、マントルかんらん岩やダイヤモンド、蛇紋岩のハロゲン組成を指標として、水を主とした揮発性成分の地球内部での物質循環が明らかになりつつある。
NI-NGMSの利点は極めて高感度であるだけでなく、(ハロゲンから変換した)希ガスの抽出に破砕法を用いれば流体包有物を選択的に分析でき、また段階加熱法を用いれば、希ガス放出温度の違いにより鉱物を区別して分析できる点である。また中性子照射により希ガス同位体を生成するK、Ca、Ba、Uも同時に測定できることから、二次的な変質の影響を評価できる[3]。これによりMORB源マントルと、プルーム源のハロゲン組成に違いはないことが明らかとなっており、その組成がCIコンドライトとは異なること、また他の地球化学的トレーサーからはプルーム源に沈み込み物質が含まれると考えられることから、マントルは既に全体として、沈み込んだハロゲンによる組成の改変を受けていると考えられている[3]。
一方、沈み込み帯のマントルウェッジに由来し、とくに水に富む流体包有物や蛇紋石包有物を含むかんらん岩や蛇紋岩の分析からは、マントルより顕著に高いI/Cl比を持つハロゲンが見出されている[4-6]。これは沈み込んだスラブの年代や温度構造が異なる複数の島弧で[5]、また深さ約100 kmに由来するかんらん岩[4]から、マントルウェッジの先端に相当する約30 kmで形成した蛇紋岩[6]まで様々な深度に由来する試料で共通であることから、スラブ由来流体の影響を受けたマントルウェッジの代表的な組成と考えられる。このような高いI/Cl比を持つハロゲンの起源となり得るのは堆積物か、堆積物中の間隙水であるが、NI-NGMSで同時に測定できる希ガス元素比からは後者が支持される。スラブ中の含水鉱物で深度100 kmまでハロゲンや希ガスを持ち込めるのは蛇紋石であること、海洋底蛇紋岩のハロゲン組成が実際に間隙水と近いこと[7]から、間隙水由来のハロゲン・希ガスの運び手としては蛇紋岩が有力な候補として考えられる。沈み込む前に屈曲したプレートに生じた断層を通してプレート下部のかんらん岩に浸入した間隙水から、高い水/岩石比のために閉鎖系に近い状態で形成した蛇紋岩が、マントルウェッジの下に水をはじめとする揮発性成分を運んでいるとするモデルが提案されている[5]。
16億年前にマントル対流から隔離されたと考えられる大陸下マントルかんらん岩のハロゲン組成は、多少の分別が見られるものの、大局的には現在のマントルと変わらない[8]。このことから、沈み込み帯を超えてマントルへ供給されるハロゲンのI/Cl比は、少なくとも過去16億年間に渡っては現在のマントルの5~10倍程度と見積もられ、間隙水由来のハロゲンの影響は限定的と考えられる[8]。一方でキンバーライトに含まれる、大陸下マントル深部に由来するかんらん岩には、沈み込んだ海洋地殻に由来するハロゲンが高濃度で含まれ、大陸下マントルがハロゲンの重要なリザーバーとなっている可能性が指摘されている[9]。
[1] Clay and Sumino, Elements, 2022, 18: 9-14. [2] Kobayashi et al., Chem. Geol., 2021, 582: 120420. [3] Kendrick et al., Nature Geo., 2017, 10: 222-228. [4] Sumino et al., EPSL, 2010, 294: 163-172. [5] Kobayashi et al., EPSL, 2017, 457: 106-116. [6] Ren et al, Goldschmidt Abstracts, 2021 6698. [7] Kendrick et al., EPSL, 2013, 365: 86-96. [8] Kobayashi et al., G-cubed, 2019, 20: 952-973. [9] Toyama et al., Am. Mineral., 2021, 106, 1890-1899.
NI-NGMSの利点は極めて高感度であるだけでなく、(ハロゲンから変換した)希ガスの抽出に破砕法を用いれば流体包有物を選択的に分析でき、また段階加熱法を用いれば、希ガス放出温度の違いにより鉱物を区別して分析できる点である。また中性子照射により希ガス同位体を生成するK、Ca、Ba、Uも同時に測定できることから、二次的な変質の影響を評価できる[3]。これによりMORB源マントルと、プルーム源のハロゲン組成に違いはないことが明らかとなっており、その組成がCIコンドライトとは異なること、また他の地球化学的トレーサーからはプルーム源に沈み込み物質が含まれると考えられることから、マントルは既に全体として、沈み込んだハロゲンによる組成の改変を受けていると考えられている[3]。
一方、沈み込み帯のマントルウェッジに由来し、とくに水に富む流体包有物や蛇紋石包有物を含むかんらん岩や蛇紋岩の分析からは、マントルより顕著に高いI/Cl比を持つハロゲンが見出されている[4-6]。これは沈み込んだスラブの年代や温度構造が異なる複数の島弧で[5]、また深さ約100 kmに由来するかんらん岩[4]から、マントルウェッジの先端に相当する約30 kmで形成した蛇紋岩[6]まで様々な深度に由来する試料で共通であることから、スラブ由来流体の影響を受けたマントルウェッジの代表的な組成と考えられる。このような高いI/Cl比を持つハロゲンの起源となり得るのは堆積物か、堆積物中の間隙水であるが、NI-NGMSで同時に測定できる希ガス元素比からは後者が支持される。スラブ中の含水鉱物で深度100 kmまでハロゲンや希ガスを持ち込めるのは蛇紋石であること、海洋底蛇紋岩のハロゲン組成が実際に間隙水と近いこと[7]から、間隙水由来のハロゲン・希ガスの運び手としては蛇紋岩が有力な候補として考えられる。沈み込む前に屈曲したプレートに生じた断層を通してプレート下部のかんらん岩に浸入した間隙水から、高い水/岩石比のために閉鎖系に近い状態で形成した蛇紋岩が、マントルウェッジの下に水をはじめとする揮発性成分を運んでいるとするモデルが提案されている[5]。
16億年前にマントル対流から隔離されたと考えられる大陸下マントルかんらん岩のハロゲン組成は、多少の分別が見られるものの、大局的には現在のマントルと変わらない[8]。このことから、沈み込み帯を超えてマントルへ供給されるハロゲンのI/Cl比は、少なくとも過去16億年間に渡っては現在のマントルの5~10倍程度と見積もられ、間隙水由来のハロゲンの影響は限定的と考えられる[8]。一方でキンバーライトに含まれる、大陸下マントル深部に由来するかんらん岩には、沈み込んだ海洋地殻に由来するハロゲンが高濃度で含まれ、大陸下マントルがハロゲンの重要なリザーバーとなっている可能性が指摘されている[9]。
[1] Clay and Sumino, Elements, 2022, 18: 9-14. [2] Kobayashi et al., Chem. Geol., 2021, 582: 120420. [3] Kendrick et al., Nature Geo., 2017, 10: 222-228. [4] Sumino et al., EPSL, 2010, 294: 163-172. [5] Kobayashi et al., EPSL, 2017, 457: 106-116. [6] Ren et al, Goldschmidt Abstracts, 2021 6698. [7] Kendrick et al., EPSL, 2013, 365: 86-96. [8] Kobayashi et al., G-cubed, 2019, 20: 952-973. [9] Toyama et al., Am. Mineral., 2021, 106, 1890-1899.