日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ42] 地球化学の最前線:新しい挑戦と将来の展望

2025年5月30日(金) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、羽場 麻希子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、角野 浩史(東京大学先端科学技術研究センター)、井上 麻夕里(岡山大学大学院自然科学研究科)

17:15 〜 19:15

[MZZ42-P10] 海洋アルカリ化環境下における炭酸系の変化に関する基礎研究

*釘本 順生1井上 麻夕里1鈴木 淳2、大野 良和3 (1.岡山大学大学院自然科学研究科、2.国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報研究部門、3.北里大学海洋生命科学部)

キーワード:カーボンニュートラル、海洋二酸化炭素除去、海洋アルカリ化

はじめに
海洋アルカリ化(Ocean Alkalinity Enhancement, OAE)は、海洋による大気からの二酸化炭素(CO₂)の吸収に焦点を当てており、海洋をベースとした二酸化炭素除去(mCDR)法の1つとして提案されている。CO₂が海水に溶解すると、H₂Oと反応して炭酸(H₂CO₃)が生成し、その後、炭酸水素イオン(HCO₃-)と炭酸イオン(CO₃²-)への解離に伴い、水素イオン(H⁺)が放出される。よって、海洋へ溶解するCO₂の増加は、海洋酸性化を引き起こすことが知られているが、OAEでは、海水にアルカリ性物質を添加することで、放出されたH⁺を緩衝し、海洋酸性化を抑制することが可能になる。さらに、pH が上昇すると、海水中の炭酸成分が HCO₃- および CO₃²-の形で存在しやすくなる傾向があり、海水中の二酸化炭素分圧 (pCO₂) が低下する。この値が大気の pCO₂ を下回ると、大気と海洋の間のCO₂平衡が変化し、大気からの CO₂の追加吸収が可能になる。これまでのいくつかの研究では、OAEの実施により、海洋による大気CO₂の吸収量が大きく増加する可能性があることが示されているが、海洋化学と地球化学に基づく実験的研究は限られている。そこで本研究では、海水に炭酸ナトリウム(Na₂CO₃)を添加し、pHとpCO₂の連続計測および実験後の海水の全アルカリ度 (TA)の測定を行い、アルカリ化した海水による追加のCO₂吸収の可能性について検討した。

実験方法
実験では、小笠原諸島の天然海水約 600 mL にNa₂CO₃を添加する量を変えることで、実験海水の全アルカリ度をそれぞれ 250、500、750、1000、2000 µmol/kg 増加させ、3時間と24時間反応させる実験を行った。実験期間中の海水の pH と pCO₂ は、それぞれHoriba F-72 卓上型pHメーターに9680S-10D ロングタイプ電極を組み合わせたものとVaisala GMP252 CO2プローブを用いて連続測定を行った。実験に使用した海水は、測定前に約 40 分間外気で曝気し、実験中は、恒温槽を使用して海水温度を約25℃に維持している。実験後の海水の塩分と全アルカリ度は、塩分計と自動滴定装置を使用して測定し、アルカリ度測定中の滴定曲線から溶存無機炭素 (DIC) を算出した。

結果・考察
3時間実験でのpHとpCO₂の連続測定では、Na₂CO₃の添加直後の溶解により、すべての実験でpHが急激に上昇し、その後は安定的な傾向が示された。同様に、海水のpCO₂はNa₂CO₃添加直後から減少し、TA増加量が500 µmol/kgを超えると、一般的な大気中のpCO₂である約400 ppmを下回るレベルまで低下する結果が得られた。ただし、TA増加量が1000 µmol/kg以上の場合では、最終的なpCO₂値に大きな変化は見られなかった。以上のことから、海水のTAが500 µmol/kg以上増加すると、海水が大気から追加でCO₂を吸収できる可能性があることが分かった。ただし、TA増加が1000 µmol/kgを超えるとCO₂吸収の効率化には繋がらず、2000 µmol/kgの場合では、追加したアルカリ度が大幅に失われる結果となった。したがって、OAE においては、CO₂ 吸収効率を最大化し、TA 損失のリスクを最小限に抑制するため、添加するアルカリ物質の適切な量を正確に見積もることが重要と考えられる。