日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] ポスター発表

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[O-02] 地球科学とアートの相互作用

2025年5月25日(日) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:荒木 優希(金沢大学)、豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、長井 裕季子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、石田 翔太(横浜市立大学)

17:15 〜 19:15

[O02-P06] 研究を描く -葛藤する画家のオートエスノグラフィー-

★招待講演

*石田 翔太1荒木 優希2 (1.横浜市立大学、2.金沢大学)

キーワード:学際、芸術、ビジュアル、美学、科学コミュニケーション

ビジュアルを利用することは解剖学におけるヴェサリウスの功績に認められるように研究上有効な手法である。また、ますます必要性が高まる科学コミュニケーションにおいてもビジュアルは必須の手段である。近年では科学イラスト業者も認知され、さらには画像生成AIによって一定水準のビジュアルが手軽に入手できるようになった。ビジュアル活用の充実した研究環境が到来している。しかし一方で、高度なビジュアライズを研究に用いる事例は未だに少ない。例えば、複雑な視覚表象物を制作する画家による制作である。画家による科学イラストもとい「科学視覚表象物」の制作時には、目的意識や創造性、美学的意義などの方面で悩みや葛藤が生じる。本発表では、画家である発表者の制作事例を紹介する。中でも荒木優希の研究をビジュアライズする際の葛藤を聴衆へ話題提供し、科学の場でのより良いビジュアライズのあり方について共に考えていきたい。

以下の2点が主な話題である。
1.目的と表現の間のもどかしさ
科学イラストの「目的」と、研究の知見を「表現」することには異なるアプローチが求められる。イラストは知見の説明、再現を求められる一方で、分かりやすさのために強調や伝達性を重視される。この点で画家の自由な創造性は抑えられ「目的」への要請に従うことから「表現」に障害が生じる。アーサー・C・ダントーの「芸術の終焉論」では、芸術が自己を哲学的に問う段階に至ることで、もはや単なる視覚的表象を超えたものになったとされる。表象において、画家が備えている芸術的知性と感性、哲学的意味生成をどこまで許すのか、バランスをいかに取るべきかが課題となる。実用性と哲学性の狭間で、科学視覚表象物は単なる知見伝達装置としての需要に留まるのか、知見と鑑賞者の間で新たなアイデアの相互生成を促す創造的な存在としてあり得るか。作品のアイデンティティに関わる問いである。

2.芸術と「科学の場」
また、科学と芸術の学際に際して「科学の場」が備える構造に触れる。学会では理論的厳密さ、データの再現性、科学的成果の公平性を保持する為に、独自の制度が見られ、時には研究者の選択・行為を抑制することがある。そのような場で芸術の活用を求める時、主観的体験、解釈の多様性といった芸術の長所の発揮に問題が生じる。時には芸術活用が「学問の本流ではないもの」として受け入れられ、「面白いけれど深く考えなくてよいもの」として協働の意義を過度に低く見たり、思考停止的に面白いものとして捉えられる危険性も予想される。これは、ポップアートが登場したときに生じた誤解と似ており、制度が芸術に対してどのような作用を及ぼすかという美学的問いとも言える。

このような葛藤のなかで、どのように自らの立ち位置を見つけるかが、科学者とそこに参与する画家にとって自覚すべき課題となるだろう。