日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] 口頭発表

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[O-05] 変動帯の地質と文化

2025年5月25日(日) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (5) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:鈴木 寿志(大谷大学)、川村 教一(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、座長:先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、鈴木 寿志(大谷大学)

09:45 〜 10:05

[O05-03] 地域資源の再発見、コミュニティ主体のアプローチの評価 ―戸川砥を例として―

★招待講演

*田口 公則1 (1.神奈川県立生命の星・地球博物館)

キーワード:地域資源、コミュニティ主体の活動、地域博物館

地域資源の活用と地域博物館
 地域活性化の試みにおいて地域資源の活用が注目されている。地域資源とは、いわばその地域が内包する特徴的な自然的、人文的、文化的要素を含む活用できる資源・物と捉えてよいだろう。身近に存在しながらも埋もれてしまっている地域資源が多数あるはずである。新たな文脈で捉え直し付加価値を高めることは、地域資源の再発見・再評価につながるものと期待される。特に地産地消の素材は、自然、風土、人々の生活が深く結びついたものとして捉えられる。
 文化地質学をふまえると、地域博物館の役割も重要となる。地域資源はその土地固有のものであり、地域を深く知る地域博物館こそが、その発掘・活用に最も適している。地域レベルの博物館と地域の市民が、地域に密着した活動を展開しやすいと考えられる。
 地域資源を扱う上で、専門分野の枠を超えた視点を持つ博物館活動が有効となる。地域資源は、自然、歴史、文化など、多様な要素が複合することで理解が深まるからである。例えば、石材という地域資源を考える場合、自然系博物館が岩石そのものを調査するだけでなく、歴史博物館が扱うべき石材加工の道具や、それらが生み出した石造物といった文化的側面も合わせて収集・研究することが重要となる。文化的な文脈を理解し、周辺領域の資料まで視野を広げることが、地域資源の価値を最大化する。そのためには、異なる分野の博物館間、あるいは地域コミュニティとの連携・協力が不可欠となる。

戸川砥の地形地質学的特徴と文化的背景
 戸川砥は、丹沢山地の水無川源流部(標高約900m)に露出する流紋岩質~デイサイト質の岩脈に由来する。水無川の河床礫としても発見される。岩石学的検討から、この砥石原石は適度な熱水変質作用を受けており、残存する石英粒子が研磨材として、また変質による粘土鉱物が砥糞として機能することで砥石としての性質を得ていることが明らかとなった。これらの特徴は、天然砥石の品質にばらつきが生じる要因の一つとして注目される。
 文化的側面に目を向けると、「戸川」という地名自体が「砥川」に由来するとされ、江戸時代の地誌『新編相模国風土記稿』にも大水の際に砥石が散らばる様子が記されている。昭和40年代まで採掘・利用が続けられ、現在でも地域の農家で使用されている事例が確認できるなど、地域の文化・歴史と密接に結びついていることが特徴的である。

戸川砥の再発見と活用のプロセス
(1)調査段階:博物館の学芸員と地域研究者による戸川砥の原石探しが契機となり、砥石の採掘場や転石の存在が明らかになった。
(2)教育・展示活動:地域の小学校での展示、ワークショップを通じて、戸川砥の歴史・地質的特徴を学ぶ機会が提供された。特に、シニア世代の協力が不可欠であった。
(3)市民活動の広がり:シニア世代の活躍により公民館やビジターセンターでの展示や普及活動が展開され、一時的な「戸川砥ブーム」が生まれた。

地域資源を中心とした地域連携:知識と体験の共有
 戸川砥の再発見は、地域連携活動へと発展した。博物館を拠点にしたというよりも、むしろ地域資源を中心とした活動と呼ぶ方がふさわしい。秦野市立本町小学校との連携によるスクール・ミュージアム「丹沢からのおくりもの~戸川の砥石展~」は、その代表的な事例である。展示では、戸川砥の地質学的特徴、歴史的背景、文化的意義を多角的に紹介し、地域住民、特に子どもたちに戸川砥の価値を再認識させる機会を提供した。さらに、砥石研ぎ体験ワークショップの実施は、知識の伝達だけでなく、「体験」を通じて地域資源への愛着を育む上で重要な役割を果たした。これらの活動には、地域住民、特にシニア世代の積極的な参加が不可欠であった。この学校展示活動がきっかけとなり、シニア世代が戸川砥に関する知識や経験を共有し、戸川砥の保全や普及など次世代への継承に貢献したのである。

コミュニティ主体の活動とその課題
成功要因:忘れられていた地域資源、つまり知識として存在していた地域資源を「体験」することで、市民の関心が高まった。戸川砥に由来する地名の存在や、現在でも一部の農家が使用していることが地域文化の中での継承を促した。
課題:戸川砥ブームは一過性の感が強い。市民主体の活動の継続性には課題があり、特に新たな担い手をどう育成するかが鍵となる。また、学校での展示やワークショップが小学生の学習にその後どのように影響を与えたかは不明であり、フォローアップの必要性がある。