日本地球惑星科学連合2025年大会

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[O-05] 変動帯の地質と文化

2025年5月25日(日) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:鈴木 寿志(大谷大学)、川村 教一(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)

17:15 〜 19:15

[O05-P01] 変動帯と安定大陸の地質と文化

★招待講演

*鈴木 寿志1 (1.大谷大学)

キーワード:地質文化、収束型変動帯、衝突型変動帯、安定大陸、和辻哲郎の風土論

日本および世界における地質にかかわる文化事象について、文化地質学的視点での考察を試みる。その際に、世界の地質環境を次の3つに類型化して考えてみたい。1)収束型変動帯、2)衝突型変動帯、3)安定大陸。収束型変動帯は、日本列島のように海洋プレートが大陸プレートの下へ沈み込む場で、海岸沿いに急峻な山地を伴う変動帯である。堆積岩、火成岩、変成岩のすべてが産し、地質多様性が高いことで特徴づけられる。衝突型変動帯は、アルプス山脈やヒマラヤ山脈のように大陸同士が衝突し、急峻な山岳地形を形成した変動帯である。大陸と大陸の衝突により、山岳地帯は自ずと海から離れた内陸に位置することになる。2つの大陸に挟まれた海の堆積物が山地内へと隆起し堆積岩となるとともに、衝突に伴う変成岩や火成岩も伴われる。安定大陸は、先カンブリア時代の基盤岩やその上に水平な地層が堆積することで特徴づけられる。特定の地域に産する地質は、水平層の同一層準が露出するため、地質多様性は乏しくなる。
収束型変動帯では海岸沿いに急峻な山地がそびえ立つ。それゆえ河川は急流となり陸に由来するミネラルが沿岸に供給されやすい。豊富なミネラル分が沿岸の生態系を豊かにするため、海草、魚介類を中心とした魚食文化が成立した。そして人々が利用する塩も海岸塩田で賄われることとなった。それに対し衝突型変動帯では山岳地帯が内陸に位置し、海からは遠く離れることになる。タンパク源を魚介類に求めることはできないし、寒冷な高山では農業も成立しない。そのため乳牛やヤクを利用した牧畜文化が成立した。アルプス山脈では谷ごとに違う種類のチーズが作られているというし、チベットのヤクのバターは貴重な栄養源になっている。そして塩は山地に産する岩塩に求められる。また独特の発声方法で歌うヨーデルは、そもそもアルプスの深い谷を隔てた対岸同士の意思疎通のために発達したらしい。一方の安定大陸では、水平層の同一層準が露出するため、地域で利用される石材が一律同じである。そのため町の色に統一性があり、たとえばドイツのハイデルベルクでは三畳系下部統の赤色砂岩が町を彩っている。
ところで、哲学者の和辻哲郎は著書『風土 人間学的考察』の中で、気候特性から世界の風土を3つに分類した。東アジア・南アジアの「モンスーン」、アラビアの「沙漠」、ヨーロッパの「牧場」である。和辻によれば、日本列島を含む「モンスーン」の風土では、大雨・暴風・洪水・旱魃といった自然の暴威が著しく、人間の力では対抗できない。その結果、受容的・忍従的精神文化を生み出したという。一方、ヨーロッパの「牧場」の風土では、大雨・暴風・洪水は稀であり、河川も緩やかに流れる。全般に変化が少なく従順な自然は、理解しやすく法則性を見出しやすい。そのため自然科学の発展へつながったという。
この和辻の風土論に地質は出てこないが、改めて地質学的視点で捉え直してみる。すなわち,日本列島のような「収束型変動帯」においては、地質の多様性が高く、狭い範囲にあらゆる種類の岩石が分布する。複雑な地質構成は従順な自然とは程遠く、「モンスーン」の風土と一致する。衝突型変動帯は急峻な山岳地帯で寒さが厳しく、農作物も育たない。厳しい自然の中で動物の力を借りて牧畜を生業とした。過酷で生を見出せない荒ぶる山容は、「沙漠」の風土に近いといえよう。一方でヨーロッパの「安定大陸」においては、地層の積み重なりが単純明解で、地球の歴史を編年する層序学が発達し、地質学の基礎を生み出した。これは、理解しやすく従順な自然の「牧場」の風土に近い。
このように見てくると、上述の地質環境の3区分は、各区分における文化形成と密接にかかわっている。日本における収束型変動帯の文化研究はこれまでに積極的に進められてきたが、衝突型変動帯と安定大陸における地質文化の研究はまだ途上にある。今後比較研究を進めることによって、地質環境が文化形成に及ぼす影響についてさらに深い考察をすることができるようになるであろう。