日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-05] 変動帯の地質と文化

2025年5月25日(日) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:鈴木 寿志(大谷大学)、川村 教一(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)

17:15 〜 19:15

[O05-P04] 熊野の霊場と地質

★招待講演

*後 誠介1 (1.和歌山大学)

キーワード:熊野三山、参詣道、文化的景観、火成岩体、堆積岩層

山岳霊場のひとつ「熊野三山」とそこにいたる「参詣道」を取り巻く文化的景観が,世界遺産(文化)「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成する資産として登録されている.熊野三山の周辺においても,大地の造形物を拝礼する霊場があり,世界遺産を支える裾野の広がりがある.
熊野の霊場は,神宿る地であるとともに,仏や菩薩の浄土に見立てた山岳修験の地として,長い歴史・文化を持つ(大河内,2009).これらの霊場は,岩体が侵食・風化を受けて形成された造形の地にあり,「岩と水と人がおりなす文化的景観」をなす.
熊野の霊場と地質の関係
 熊野の大地は,「付加体」,「前弧海盆の堆積岩層」,「火成岩体」という3タイプの地質体からできている.どの地質体にも霊場はみられるが,風化が進むと崩落・崩壊をくり返して,奇岩・巨岩・岩峰・滝・峡谷などが形成されやすい火成岩体が分布する地域に多くの霊場が成立している.熊野の霊場が紀伊半島南東部に多くみられるのは,火成岩体である熊野酸性岩が分布するからである.このほか厚い砂岩層が崩壊してできた巨大岩塊が霊場になったところがあり,堆積岩層が霊場の母体となっている.
火成岩体を母体とする霊場
那智の霊場の「那智大滝」は,その岩壁が火成岩体である熊野酸性岩なのに対して,拝礼する場である飛瀧神社は,堆積岩層である熊野層群のところにある.火成岩体は大きな岩の塊となって崩れやすい性質をもつが,侵食には比較的強いものである.これに対して,熊野層群の堆積岩は比較的もろくて侵食されやすい性質をもつ.
和歌山県と三重県の県境を流れる熊野川には,川中に残る岩島である御船島がある.「新宮の速玉祭」は,斎主船や神幸船がこの岩島を回って執り行う神事と早舟競漕の河川遡上舟渡御神事などである.神倉山のゴトビキ岩(新宮の御燈祭り),古座川の河内島(河内祭の御舟行事)もまた,祭祀の対象など重要な位置づけにある.
このほか,自然の造形物を拝礼する社殿のない霊場がある.これらは火成岩体を母体とするものが多く,熊野らしい雰囲気のある優れた聖地である.
堆積岩層を母体とする霊場
本宮の霊場は,川を鎮めるための祭祀の地とされるが,ここにも岩石が形づくる「備崎磐座群」がある。ここは,斜面に密集した巨大岩塊が霊場を形づくる.これらの巨大岩塊は崩壊によって形成されたもので,付加体の厚い砂岩を母体とする.
厚い砂岩を母体として,崩壊によって形成された巨大岩塊を祀るのは,熊野参詣道の大雲取越沿いの「円座石」,伊勢路沿いの「志古の磐座」などがある.
川の参詣道と地形・地質の関係
世界遺産(文化)には,「川の参詣道」が登録されている.この参詣道の下流部は,硬い熊野酸性岩を突っ切って流れるので,火成岩体の特徴がよく現れ,際立った景観をかたちづくっている.これらの景観は,中世からさまざまな由来が語られ(山本,2002),文化的景観の中核になっている.

大河内智之(2009)熊野信仰の祈りのかたち.熊野三山の至宝,和歌山県立博物館,129-134.
山本殖生(2002)熊野川の舟行名所を訪ねて―熊野詣の峡谷景観を下る.熊野誌,第47号,137-161.