17:15 〜 19:15
[O05-P07] 古墳時代から中世にかけて広域的に流通した近畿地方産石材の地質背景
★招待講演
キーワード:ハイアロクラスタイト、花崗岩、石材、石造物、考古学、文化地質学
1.はじめに
考古学の世界では石造物の研究が盛んに行われている.その主体となっているのは詳細な実測図などを通して,形態からその石造物の系譜をたどるものである.さらに近年は帯磁率測定などを通して石材の産地同定が行われるようになってきた.その結果特定の地域の石材が広域に流通していることが明らかになった。
西南日本内帯における中世以前に広域に流通した特徴的な石材として,兵庫県高砂市の竜山石・福井県高浜町の日引石・兵庫県六甲山地の御影石が注目される.
2.竜山石と日引石
竜山石は白亜紀の火山砕屑岩で,石棺材として古墳時代に近畿地方から瀬戸内海沿岸地域に流通したことで知られている.尾崎・原山(2013)は竜山石について,白亜紀のカルデラ湖中に噴出した流紋岩起源のハイアロクラスタイトであるとしている.中国地方の白亜紀火山岩類は多くが非常に硬い溶結凝灰岩で,加工に不向きであるのに対して竜山石は適度な硬さと加工しやすさを持ち合わせている(高砂市教育委員会、2014).このことはこの岩石がハイアロクラスタイトであることに起因している.
日引石は新第三紀の安山岩で,その石造物は中世に東北地方から九州北部に至る日本海沿岸に分布している.日引石は多くが自破砕溶岩やハイアロクラスタイトであり,岩片の部分と基質が固着しているため他の凝灰岩類や安山岩溶岩と比べて加工がしやすい.
以上のように,竜山石と日引石はどちらもハイアロクラスタイトであったことが石材として優位に働いたのであろう.
3.御影石
西日本には白亜紀~古第三紀花崗岩類が広く産出し,六甲山地域もその一つである.六甲山麓で採石された花崗岩は御影石と呼ばれ,それによって作られた中世石造物は近畿地方のみならず,中国地方西部や四国南部,九州南部まで流通している.花崗岩としては標準的な岩相を有する御影石が他の花崗岩に対して広範囲に流通した要因は,その岩質ではなく採石地の地質・地理的条件であると考えられる.
御影石は土石流によって海岸付近まで運ばれた岩塊が採石されたもので,そのことが他地域と比較して容易な石材搬出につながったと推測される(先山,2023).御影石のほか近畿地方で古くから採石されていたとされる花崗岩に,京都の白川石と近江の木戸石がある.白川と木戸両地域とも扇状地が発達し,過去にたびたび土石流が発生していた地域である.これらのことから,中世の花崗岩石材は崖からの採石ではなく土石流などで運ばれた岩塊から得られていたと考えられる.その中で特に御影石の産する六甲山麓は瀬戸内海に面していたことが,この地域を中世最大の花崗岩石材産地としたのであろう。
4.おわりに
以上のように,石材の岩石特性や地質・地形的背景を明らかにすることは,その地域の歴史・文化を知ることにつながる.
文献
尾崎正紀・原山 智(2013)高砂地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅).産総研地質調査総合センタ ー,87p.
先山 徹(2023)なぜ「花崗岩」のことを「御影石」と呼ぶのか-土石流がもたらした銘石.『変動帯の文化地質学』,京都大学学術出版会,120-132.
高砂市教育委員会(2014)石の宝殿・竜山石採石遺跡-竜山採石遺跡詳細分布調査報告書Ⅱ.高砂市,116p.
考古学の世界では石造物の研究が盛んに行われている.その主体となっているのは詳細な実測図などを通して,形態からその石造物の系譜をたどるものである.さらに近年は帯磁率測定などを通して石材の産地同定が行われるようになってきた.その結果特定の地域の石材が広域に流通していることが明らかになった。
西南日本内帯における中世以前に広域に流通した特徴的な石材として,兵庫県高砂市の竜山石・福井県高浜町の日引石・兵庫県六甲山地の御影石が注目される.
2.竜山石と日引石
竜山石は白亜紀の火山砕屑岩で,石棺材として古墳時代に近畿地方から瀬戸内海沿岸地域に流通したことで知られている.尾崎・原山(2013)は竜山石について,白亜紀のカルデラ湖中に噴出した流紋岩起源のハイアロクラスタイトであるとしている.中国地方の白亜紀火山岩類は多くが非常に硬い溶結凝灰岩で,加工に不向きであるのに対して竜山石は適度な硬さと加工しやすさを持ち合わせている(高砂市教育委員会、2014).このことはこの岩石がハイアロクラスタイトであることに起因している.
日引石は新第三紀の安山岩で,その石造物は中世に東北地方から九州北部に至る日本海沿岸に分布している.日引石は多くが自破砕溶岩やハイアロクラスタイトであり,岩片の部分と基質が固着しているため他の凝灰岩類や安山岩溶岩と比べて加工がしやすい.
以上のように,竜山石と日引石はどちらもハイアロクラスタイトであったことが石材として優位に働いたのであろう.
3.御影石
西日本には白亜紀~古第三紀花崗岩類が広く産出し,六甲山地域もその一つである.六甲山麓で採石された花崗岩は御影石と呼ばれ,それによって作られた中世石造物は近畿地方のみならず,中国地方西部や四国南部,九州南部まで流通している.花崗岩としては標準的な岩相を有する御影石が他の花崗岩に対して広範囲に流通した要因は,その岩質ではなく採石地の地質・地理的条件であると考えられる.
御影石は土石流によって海岸付近まで運ばれた岩塊が採石されたもので,そのことが他地域と比較して容易な石材搬出につながったと推測される(先山,2023).御影石のほか近畿地方で古くから採石されていたとされる花崗岩に,京都の白川石と近江の木戸石がある.白川と木戸両地域とも扇状地が発達し,過去にたびたび土石流が発生していた地域である.これらのことから,中世の花崗岩石材は崖からの採石ではなく土石流などで運ばれた岩塊から得られていたと考えられる.その中で特に御影石の産する六甲山麓は瀬戸内海に面していたことが,この地域を中世最大の花崗岩石材産地としたのであろう。
4.おわりに
以上のように,石材の岩石特性や地質・地形的背景を明らかにすることは,その地域の歴史・文化を知ることにつながる.
文献
尾崎正紀・原山 智(2013)高砂地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅).産総研地質調査総合センタ ー,87p.
先山 徹(2023)なぜ「花崗岩」のことを「御影石」と呼ぶのか-土石流がもたらした銘石.『変動帯の文化地質学』,京都大学学術出版会,120-132.
高砂市教育委員会(2014)石の宝殿・竜山石採石遺跡-竜山採石遺跡詳細分布調査報告書Ⅱ.高砂市,116p.